021 初陣で、初魔法
うおっ!?
突如、頭上に現れた気配に、反射的にその場を飛び
完全な不意打ちだったのにも関わらず反応できたのは、スキル〈気配察知Lv.4〉と〈第六感Lv.5〉を同時発動していた賜物である。
常時発動の癖付けておいてよかった~!!
で、私のことを不意打ちしてきた不届きものは一体どこのどいつかな!?
思考加速のスキルも発動しつつ、自分が先ほどまで歩いていた場所を見る。
──見て、私はそれが何か一瞬理解しきれなかった。
………白い、紐?
てっきり魔物かと…いや魔物か!!
そこにあったのは、上から伸びている白く太い紐のようななにか。
見ればそこには魔物がいると思っていた私はその見た目に戸惑ったが、魔物の遠隔攻撃だと理解してすぐに上を向く。
そして、不意打ちを仕掛けた元凶を見つける。
クモ!!
見た目しっろ!!
見上げた先、洞窟の天井に、白と灰の独特な見た目をした蜘蛛が張り付いていた。
大きさは遠目に見てもそこそこ。私と同じか、一回り大きいくらいかな?
こちらに向かって突き出した腹部の先端からは白く太い紐が伸び、外したからだろう、たった今、先端から紐が千切れた。
じゃあこのふっとい紐って蜘蛛糸かよ!!うそでしょ!?
『《ハイアラネア Lv.4
ステータス
名前:なし》』
この世界の蜘蛛はアラネアっていうのね。なるほど。……っ!?
鑑定の結果を見て、レベルが低いことに少し安堵した瞬間、自分の横から襲い掛かってくる何かの気配を捉えて再び飛び退く。
今度はなに…っ!
見やって、僅かに驚く。
それは蜘蛛糸だった。私がいたところを少し通り過ぎて、その伸びた先端が地面にべちゃりと張り付いている。
天井のクモ……じゃないな。
ってことはまさか……!
気配察知のスキルに意識を集中させ、周囲の気配を探る。
その結果分かったのは、私の周囲に、天井のヤツを含めて三匹のアラネアさんがいらっしゃるということだった。しっかり囲まれていた。
しかも、天井のヤツ以外は私の周囲の草むらに隠れていて気配が薄い。
気配察知に加えて、嗅覚強化も使って気配を探るとかなりはっきりと気配を感じ取れた。
いつの間に…いや、ちゃんと気配察知のスキルに意識を割いてなかった私が悪いか。
警戒はしてたつもりなのになぁ~!
まぁ、今悔やんだって仕方ないか。
言っても相手は三匹。
こっちはもっと多数の、しかも常に飛び続けてるやつ相手に戦ったこともあるんだ。
レベルも低い。この程度どうってことないわ!!
天井のヤツと、私の背後の草むらに隠れている最後の一匹が蜘蛛糸を射出して同時に攻撃を仕掛けてくる。
それを前方に駆け出すことで回避しつつ、二匹目を狙う。
足完治後の初戦闘だ!全力でいくぞぉ!!
駆け出すと同時に、スキル〈魔闘気Lv.1〉〈魔鎧Lv.1〉を発動。自分の表皮に薄い魔力の鎧ができ、同時に走る速度がわずかに向上する。
草むらに隠れてれば大丈夫とでも思ったら大間違いだ!
喰らえ私の…うわっ!?
飛び掛かって攻撃しようとした最中、こちらに向かって射出された糸を咄嗟に回避したことで、走る勢いがわずかに鈍る。
そこに、他二匹からさらに糸が飛んでくる。
あぁもう…!
瞬間、私の全身が火のオーラで包まれ、襲い掛かってきた蜘蛛糸を焼き溶かす。
火魔法Lv.3で扱えるようになる、
ちなみに、火耐性が低いと自分自身を炙ることになる自滅魔法でもある。これのせいで危うく全身やけどを負いかけたのはいい思い出である。
おぉ!!?
蜘蛛糸なら燃えるかと思って使ったけど、これは想像以上の効果!!蜘蛛糸はこれで実質無効化じゃん!
フッ…なにか、やったか?
思った以上の結果にテンションが上がる。
カッコつけつつ、蜘蛛糸を射出するのと同時に私から距離を取ろうと逃げ出した一匹を追いかける。
魔法を使って仕留めてみたいところだが、現状、私が使える魔法はどれも近距離じゃないと使えないものばかり。
唯一、今私が使える一番強い魔法が遠距離攻撃できるものだが、それも弾速が速いわけではないので、どのみちそれなりに近づかないと使い物にならない。
なので、まずは接近する。蜘蛛糸は
…私の方が少しだけ足速いっぽいし、ね。
飛んでくる蜘蛛糸をガン無視しつつ、一匹を追いかける。
ことここに及んでも他の攻撃が飛んでこないってことは、蜘蛛糸以外に遠距離攻撃はないってことかな?
その追いかけられている一匹も、蜘蛛糸を飛ばしてくる以外は特に何もしてこないし。
……これ、以外と楽勝かな?
なんていうか、相性が悪すぎたって感じだな、これ。
可哀そうとは思わないけど。魔法練習しといてよかった~!って感じ。
ついに、追いかけていたアラネアに追いつく。
蜘蛛糸ではどうにもならないことをいい加減悟ったのか他の二匹がこちらに迫ってきているが、多分それよりも私がこいつを仕留めるほうが早い。
風魔法発動!
その瞬間、私の背後から前方に向かって、一瞬強い風が吹く。
それは私の体を押し出し、目前のアラネアとのわずかな距離を一気に詰めさせてくれた。
まず!一匹ぃ!
火を纏った爪を背中に尽きたて、さらにその傷に向かって火魔法、
アラネアはその一撃にビクンと体を震わせ、走っていた勢いのままずさりと地面に倒れた。
よしよし。良い感じぃ~!
火を纏った爪での攻撃後、その傷口をさらに魔法で燃やす鬼畜コンボ。
川辺で魔法の練習をしていた際に思いついたものだが、実際に使ってみるとこれは中々の威力で嬉しい。
自分の攻撃が思った以上に効いている、その手ごたえを感じつつ、こちらに迫る二匹に意識を向ける。
蜘蛛糸は無駄だと悟ったらしく、攻撃というよりも牽制程度にこちらに射出しつつ走ってきている。
しかし……どうするつもりなんだろ。
もうこれ積みゲーじゃない?君たち。それでもなお迫ってくるってことは、何とかできる手段があるってこと?
攻撃が効かないと分かっても迫ってくる辺り、そうとしか考えられない。
そして実際、それは事実だった。
いや、これを何とかできる手段と言っていいのかどうか、そこは少し怪しい。どちらかというとこれは……捨て身の特攻だ。
うぐっ!!?
気配察知と第六感で、殺したと思っていた一匹が動いたのは感じていた。
だが、距離があまりにも近すぎたのと、動き出すと同時に躊躇いなく飛び掛かってきたものだから反応しきれなかった。
アラネアの鋭利な牙が、私の腹部に突き立つ。
ぐぅあっ!!こんのやろうっ!!
くっそやらかした!!死亡確認を忘れてたっ!!
噛みついてきたその頭を爪に引き裂き、さらに先ほど同様魔法で燃やす。その衝撃で口が離れたところを狙い、さらに頭に攻撃を加えて燃やす。
そこまでやると、アラネアはびくりと体を震わせ、そのまま絶命した。
ふぅ……っおっと!!
迫ってきていた一匹が、今しがた仕留めたヤツ同様に噛みついて来ようとするのを飛び退って回避する。
さらに追撃を避けるように、アラネア二匹に向かって
飛び退って離れているので完全に射程外だが、追撃で噛みついてくるのを躊躇させることはできた。
あっぶないな~!
まさか、蜘蛛糸が効かないからってやけくそで噛みつき攻撃ってか!?
……まぁ、うん。ほかに手段がなければそうするだろうけどさ。逃げないのは獲物が増えるからありがたいけど、それはそれとしてなんか………っ?………んっ!!?
逃げる選択を全くとろうとしない様子に若干の怖さを覚え始めたとき、突如ブレた視界に困惑する。
すると、それを皮切りにしたようにわずかな痛み───いや、倦怠感にも似た重い感覚が全身にのしかかる。
なっ、なんだっこれ!?
なんの攻撃っ、魔法!?…でもさっき喰らったのは噛みつかれたくらい……あっ!!
"毒"か!!
さっきからこいつらが逃げないのは、死を恐れていないとかそんなわけじゃない。
ちゃんと確実に通用すると思ってる攻撃手段があって、なおかつ多対一の有利な状況だったから、逃げなかっただけだ。
くっそ!油断した~っ!!
クモなんだから毒を持ってくることくらい予想できたでしょ私ぃ!!
こちとら毒耐性Lv.4なんですけど!それすらも貫通してくるとかどんだけ強い毒だよ!
そうは言いつつ、内心ではむしろ毒耐性のおかげでこの程度で済んでるんだろうと予想する。
僅かにブレる視界、強く保たないとクラっとしてくる意識、そして全身を蝕む重い倦怠感と些細な鈍痛。
きっついけど……
なんたって、相性抜群の魔法があるからね!!
私は揺れる視界の中、それでも勝てると確信して、こちらを見つめる二匹のクモを睨んだ。
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