012 レベルアップは難しい
後方から聞こえる盛大な不協和音から、私は全速力で逃げる。
重なり合った羽音は酷く耳障りで、あまりの大きさな上に洞窟でよく響くのでどこから聞こえているのかすら分からなくなりそうだった。
まぁ、まず間違いなく背後から聞こえているのだが。
第六感によって感じる攻撃の気配に従い、走る方向を僅かに変えて跳躍する。するとそのまま走っていれば当たっていたであろう位置に牙を大きく開いたティネアの一匹が突っ込んできた。
着地と同時に再び跳躍。軌道修正しつつ、また突っ込んできた二匹目のティネアを避ける。
チラリと背後を見ると、すぐさま数えるのが難しいほどの数が私のことを追ってきているのが見える。ざっと二十匹以上いそうである。
ティネアどもの攻撃が突進して噛み付くという単純なものでしかないから、まだ余裕があるようなものだ。
もしこの中にもっと他の攻撃手段を持つ進化種的なヤツがいたりしたら、私はこんなに余裕をもって逃げられていないだろう。
どうしてこうなった〜〜っ!!
私があいつらの子供をプチプチしたせいか!ハッハッハッ!
分かりきったことを考えつつティネアの突進を避けると、進む先の暗闇が広く感じるようになったことに気がつく。
つまり、この通路の出口───というより、私が元来た広間だ。
うぉ〜ッ!出口!
広間に出られれば何になるというものでもないが、少なくとも空間が広くなる分逃げやすいだろうし、拠点にも近付く。
ちょっとコイツらが私のことをどこまで追ってくるのか分からないけど、これだけ必死になってるなら拠点まで追ってきてもおかしくない。
正直勘弁して欲しいが。
ティネアの追撃を躱し、広間に出る。
ヒカリゴケの薄明かりでも分かる広大な空間。見渡しやすいかと言うと薄暗いのでそうでも無いが、それでも今走ってきた通路よりは動きやすい。
あとはこのまま目印の傷を追って拠点まで………ってあれ?
広間に飛び出たあと、当然のようにティネアどもも追いかけて来ているだろうと思って後ろを振り向いたのだが、そこで見えたのは広間に出るギリギリの境目で滞空して止まったティネアどもの姿だった。
追うのをやめた…?なんで?
こちらが立ち止まっても、向こうはこちらに追撃を加えようとはしてこない。
助かったけど……縄張りから出れないってこと?それとも私を追い出せたらオッケーってこと?
いまいちこの状況に理解が追いつかない中、ティネアたちが一匹、また一匹と通路の奥へと帰っていく。
こうなると、本当に縄張りから出られない、あるいは私を縄張りの外に出せさえすればいい、ということになのか。
えぇ…?糸で繋がってるんじゃないんだから……普通こういうのって縄張りを出てもそれなりに追いかけてくるものじゃないの?助かったけどなんか違和感で怖いよ?
まぁそれでも助かったものは助かったのだ。追ってこないことき違和感はあるが、文句はない。
できればその寛大さを幼虫をプチプチすることにも向けて欲しかったが。
───そう、幼虫だ。
うあ〜〜、簡単にレベリングできそうな場所見つけたと思ったのに〜。序盤でレベル上げまくって無双するものでしょこういう大自然に異種族転移ものはさぁ。(※個人の意見です)
まぁ現実にラノベのような展開を期待しても仕方ないし、現実問題、今のところラノベで読んだみたいな展開になったのは狐に転生した瞬間だけだ。
これが理想と現実か……。世界は残酷だぜ。
それはそうとして、正直言ってあの幼虫狩りはまだ諦めきれない。
最初のレベルアップはリアガードアピスという魔物を倒したからだったが、あの時の戦いはアピス一匹だったのにかなり危なかったし、そう都合よく単独行動している私が勝てる程度のアピスがいるとも思えない。
コロージョンサーペントと戦ってた時も十数匹でいたし。
あのレベルの魔物がゴロゴロいる中でおいそれと魔物との戦闘なんてやりたくない。ゲームみたいにリスポーンできるなら話は別だが、期待できないし。
だからこそ簡単かつ安全にレベルアップする方法を探して、都合よくあの幼虫を見つけられて舞い上がったのだが……。
クッ!このままじゃ終われねぇ!!
あのティネアとかいう蛾の魔物、一匹一匹は大したこと無かったし、どうにか上手く監視を掻い潜って幼虫を殺せないだろうか。
うーん…気配を隠せるようなスキルは私多分持ってないだろうしなぁ…持ってるのかな?いや無いか。キツネだし。
キツネは隠れる手段を持たない、と決めつけるのは良くないかもしれないが、把握できてないスキルを持ってると予想して行動する方が無理な話だ。
というわけで隠密で近付くのは無理。となると正面突破…。
いや、もう行くしかない…か…?
さっき言ったように、ティネア自体はそこまで強くない。多分二、三匹くらいなら一気に相手取っても戦える……と思う。突進して噛み付こうとするくらいしかしてこなかったし。
動きもそこまで速くないし。
となると、上手く数匹だけ釣り出して少しづつ数を減らすことでアイツらを壊滅させる、という方法が一番現実的だろうか。
うん。そうなるかな。
……よし、行くか。次はさっきのようには行かんぞ!
待ってろよ経験値ィ!!
わああああああああすいませんすいませんちょっとした出来心だったんですぅぅぅ!!!
全速力で通路から飛び出すキツネが一匹。私だ。
後ろを振り向くと、ちょっと数えるのも億劫になるほどの凄まじい数のティネアが滞空してこちらを睨みつけているのが視界いっぱいに広がる。
中には一回り身体が大きかったり、なんか他のティネアよりもカラフルな色合いだったり、明らかに上位種っぽい雰囲気を漂わせていたりするやつもいる。
少し考えれば分かることだが、そりゃ、さっき追ってきてた二十匹ちょっとがこの巣にいるヤツら全部だなんて、そんなことないよね。
手下が追い払ったのにまた来たから、今度は
………うん。ここは無理だ。やめよう。
もしこれで、この通路を出ても私を追ってきていたとしたら、その時は本当にヤバかったかもしれない。コイツらがこの通路を出れば追ってこないから、ギリギリで逃げ出せたのだ。
これ以上この場所を粘っても何にもならなそうと言うか何もかも失いそうなので、もうここで簡単にレベリングしようなどという甘い考えは捨てる他なかった。
うぅ……自分のレベルもスキルのレベルも一気に上げられると思ったのに……。世界は残酷だよ……。
こちらのことを睨んできている…ように見えるティネアの大群に背を向け、私は拠点に向けて駆け出す。
これ以上この場所にいるとそれこそ広間に出て襲ってきそうだ。
うーん…でもこうなると……どうしようかなぁ。
スキルのレベルは、そのスキルを使えば上がるみたいだけど……。スキルのレベルだけ上がればいいって訳じゃないよなぁ。
幼虫を殺してレベルアップした時、各種ステータスが上昇しましたとか言ってたし。
ステータスって、攻撃力とか防御力とか、つまりそういうことだよね?そんなシンプルというかゲームチックなのかは分からないけど。
わざわざ言うってことは、ステータスはレベルアップでしか上がらないか、普段から少しづつ上がるけどレベルアップでは一気に上がるか、とかそんな感じだと思うんだよなぁ…。
となると、やっぱりスキルだけじゃなくて自分自身のレベルも上げたい。
………これは……どうにか上手く自分が勝てる魔物を見つけて襲うしか……ない……のか…?
……マジか…。
単独行動してるアピスとか、あるいはさっきのティネアとか……。蛾の魔物だっていたし、他の虫の魔物だっているかもしれない。
ただ…ただなぁ。
そんな都合のいいこと…あるかなぁ………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます