010 らくらく幼虫レベリング

 あっるっこ~、あっるっこ~

 わたしはぁ~げんきぃ~~


 ハチで空腹を満たしてからしばらく。

 私は今、拠点を出てすぐの広間から、さらに少し先に行った通路にいた。

 コロージョンサーペントに襲われたせいで行けなかった場所だ。


 コロージョンサーペントはもういなかった。

 拠点の前で待ち伏せ溶かしてたらどうしようかと思ったけど、何事もなく出れた。

 まぁあんなのが拠点の周りをうろついてたら探索なんてずっとできないので、いなくなったのはありがたい限りである。


 ちなみになんだが、私が食べたあのハチリアガードアピス。おしりの方はちょっとピリ辛だった。

 最初は毒かと思ったけど、特に何ともなかったのでそういう味だと思って食べてたら"毒耐性"とかいうスキルのレベルが上がった。

 やっぱり毒なんじゃねーか!!


 キツネなのに元から毒耐性を持ってたのか…それともどこかで取得してたのか。

 やっぱり自分について把握できていないことが多すぎる。スキルとかステータスとか確認するためにも、多分そういうことができるようになるだろう鑑定スキルのレベルを早く上げないと。


 というわけで、今回の探索の目的は戦い。つまり狩りである。食事ではない。


 なぜ戦うのかというと、それは戦わなければ勝てない…じゃなかった。

 理由は一つ。"レベルアップ"したいからだ。

 あ、ついでにごはん確保にもなるから理由は二つだったか。


 以前、私が今のところ唯一まともに戦闘して勝利したリアガードアピスとの戦闘時。

 リアガードアピスを倒した後に、私はレベルアップした。

 このとき、ほとんど聞き取れなかったけどスキルのレベルもかなり上がってたし、もちろん鑑定のレベルも上がってた。


 私の狙いはこれだ。

 魔物を殺して経験値を獲得し──てるのかな?多分──、レベルを上げて能力の底上げを行う。

 ついでにめしの確保もできる。まさに一石二鳥!!隙のない完璧な計画!!

 勝ったな風呂入ってくる。


 まぁそんなわけなので、私はうまく殺せそうな相手を探して彷徨さまよっているのだ。

 もちろん、来た道にはパンくずよろしく爪で傷をつけてあるので帰り道に迷うこともない。


 さぁ~てっと~、どこかにちょうどよ~く怪我せずうまい感じで殺せる経験値のうまい魔物が転がってたりしないかな~?

 他のやつはいいからね、来なくて。サーペントとか来たらキレます。


『条件を満たしました。スキル〈気配察知Lv.1〉を取得しました』


 おぉ!!?スキル取得!?

 やった~!周囲の気配を探り続けてたからかなぁ~!気配察知ってスキルだし。

 このタイミングのこれはありがたすぎるぅ~!!


 これはもう、さっそく使うしかない!!

 ──気配察知、発動!!


 …………。


 ………。


 ……。


 …なにも感じない………。


 なんかさっきよりも視野が広くなったような?気がしなくも…ないような?

 なにこれ、プラシーボ?気配察知って名前で誤魔化してるだけのプラシーボスキル?

 ……いや。レベル1だったし、こんなもんか。

 っていうか似たようなこと前にもやった気がする。レベル1に期待して失望した気がする。情報に飢えすぎてスキル取れただけでも舞い上がっちゃうの良くないぞ私……。


 歩きつつ、足取りが軽くなったり重くなったり忙しい。

 周囲の警戒は怠らないが、余計なことを考えつつ歩けるくらいには余裕がある。

 これだけ余裕をもって探索できるのは、ひとえにこの通路が異様に開けているからだろう。


 相変わらず地面や壁などの周りに草木は生い茂っているが、障害物に成り得るような背の高い草や岩、樹木が存在しない。通路自体も、私がもう五匹くらい横に並んでも余裕がありそうなくらい広い。

 なので、少なくとも視界の範囲内に何かいない限りは問題ないし、何かいてもすぐに発見できる、として進むことができるのだ。とても歩きやすい。

 まぁ逆に言えば見つかりやすくもあるわけだが、そこはもう割り切るほかないだろう。


 見つかりやすさなんて気にしてたら拠点から出ることすらできないもんね~。私は獲物を見付けに来たのであって、獲物になるつもりはない。獲物になりかけたら逃げる!この手に限る。


 ────っと。おっと?


 逃げ足には自信があるぞ、と誰に見せるでもなくぴょんぴょんと軽く跳ねながら歩いていると、通路の先にわずかな違和感を覚える。

 壁に生い茂る植物の、その見た目がなんだか少し違う。


 この先はこれまでとは生えている植物の種類が違うのかとも思ったが、その考えは近づいてすぐに間違ったものだと分かった。


 …………虫じゃん。


 そう、蔓や草木に紛れるようにして、ところどころに虫が鎮座していた。


 大きさは私より一回りくらい小さい程度。長い体はチューブのように丸く、その全身は緑の保護色となっていた。ところどころが迷彩柄のようにカラフルになっているのがまた、草木と草花のようでちょっと小賢しい。

 見るものに生理的な嫌悪感か小動物的な愛らしさのどちらかを抱く二択を迫るには十二分すぎるフォルムのその虫は、まぁ、言ってしまえば"でっかい幼虫"だった。


 そんな感じのでっかい幼虫が、それなりの間隔で無数に横になってる。


 ……流石にこのサイズの幼虫がこんだけいると気色が悪いな…。


 別に虫嫌いとかそういうわけでもない私だが、この光景はちょっと背筋に来るものがある。


『《ティネアラーヴァ Lv.3》』


 ティネアラーヴァ…無駄にかっこいい名前しやがって。

 気色の悪さと相まってなんだか無性にムカつくが、こんなのにイラついてもしょうがないので無理やり心を落ち着ける。


 しかし、これどうしようか。

 こんだけ幼虫がいるってことは成虫がいる可能性も考慮に入れないといけないが…。


 私の頭の中には、いくつかの考えがよぎっていた。

 まず、こんなに殺しやすそうな魔物がごろごろと転がりまくっててレベル上げしやすそうだな、ということ。

 そして次が、某ディスカバリーな番組だと幼虫はわりとおいしそうに食べられてる印象が強いということ。


 いい飯になる可能性、ある?


 とりあえず、こちらに背を向けるティネアラーヴァの一匹に近づく。

 爪を立て、前足を振り上げる。


 えい。


 ぐじゅっ!


 幼虫の柔肌では私の爪には到底耐えられなかったらしい。

 一撃で身体が裂けて爪が深々と食い込み、緑色の液体を噴き出しながら絶命した。


 …………取得経験値とか見れないの、かなり不便だな。


 まぁいいや。とりあえず即殺できる、と。まだ周りにもいっぱいいるけど、目の前で仲間が殺されてるだろうに微動だにしない。もしかしてたまたまここに居合わせただけなのかな。

 まぁ、虫だしな。


 放置しても問題なさそうなので、味の確認をしようと思う。

 お腹が空いてるわけではないが、サブ目的なので、これが食べられるかどうかは大事である。

 緑色の体液を噴き出しながら絶命しているその姿はかなりひどいのだが、もう自分サイズのハチを食べてるのでどうとでもなれ精神でフル無視だ。

 見た目とか気にしてたら空腹は満たせないと、あの時気づいた。


 というわけで、いただきます。がぶり。


 ………っ。

 …っっ!!?


 こっ…これはっ……!!?


 ───ハチよりはマシだな。

 味は淡泊で不味くも美味くもない。若干の苦味とえぐ味はこの際気にしないとして、それを除けば一切味付けしてない白身みたいな感じ。というか身が乗ってる分だいぶ食べやすい。

 口の中で苦味だけがパサパサと広がったり、えぐ味のある卵の殻を食べているような味が口いっぱいに広がることもない。


 ……これは…いけるな。


 決まりである。

 私が見やるは、視界の先、暗くて見えない通路の奥までびっしりと横たわっている幼虫の群れ。

 なんの幼虫なのかは分からないが、まぁもうこの際それはいい。

 私の目的は、レベリングしやすそうな魔物の発見と、戦闘と、ついでに食料の確保。


 つまりは………


 ───幼虫狩りの時間だぁーーーーーーっ!!!!!

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