007 アルカディア・オンライン

『《コロージョンサーペント Lv.25》』


 確定。

 あの見た目に名前まで同じなら、たまたま似てるだけと考えるのは不可能だ。


 ────【アルカディア・オンライン】

 日本国内のみで展開された単一サーバーのオープンワールドオンラインRPG。

 ストーリー、なし。強いていうなればゲーム内の世界の流れこそがストーリー。

 人間はもちろん獣人やエルフなど多種多様な種族が住み、魔王と魔族と人類で相争う世界。そんな世界の住人となり、好きなように生きられる。

 プレイヤーは数千種類以上の様々なスキルと魔法を習得できるが、魔王のもとで兵士として戦っても、冒険者となってダンジョンを攻略しても、貴族として優雅に暮らしても、辺境の田舎で畑を耕しても、それはプレイヤーの自由。

 なんなら、人間の国家を転覆しようとしてNPCの憲兵に鎮圧されて絞首刑にされたプレイヤーたちすらいる。普通にリスポーンするかと思いきや、なんとそのままアカウント削除までされて正真正銘の死刑になったので他の国家転覆を計画してたプレイヤーが軒並みそれを中止したのはちょっとした伝説である。


 その自由度はそれまでのゲームとは比べるべくもなく、日本国内展開だというのに世界中から大量のプレイヤーを呼び寄せた。あまりの人気ぶりに一時期日本への観光客や移住者が増加したほど。


 そして、コロージョンサーペントはこのアルカディア・オンラインに出現するレアモンスターだ。コロージョン…つまりの力を持っていて、装備ごとこっちのことを溶かしてくる結構ヤバいヤツ。

 ただその代わりに、あいつのドロップ素材を武器や防具の作成素材あるいは強化素材の一つとして使用すると、高い防御力と毒腐食への耐性が付いた。

 だから、高レベルの装備を作る際には必須級の素材であり、そのため冒険者をしていた私も狩りまくってた。

 よく装備を溶かされて痛い思いをしていたからよく覚えている。



 目線の先では、一匹のコロージョンサーペントに対して軽く十匹以上のハチの魔物が襲い掛かっていた。

 遠めでも明らかにデカいそのサイズに、全身を覆う黄と紫のまだら模様。なんか細かい部分の見た目が異なるけど、多分私が戦ったリアガードアピスと同じ種類の魔物だろう。

 試しに鑑定してみる。


『《アーミーアピス Lv.12》』

『《アーミーアピス Lv.9》』

『《アーミーアピス Lv.15》』

『《アーミーアピス Lv.12》』

『《アーミーアピス Lv.11》』

『《ヴァンガードアピス Lv.5》』

『《ヴァンガードアピス Lv.17》』

『《リアガードアピス Lv.13》』


 他にも結構いるが、これ以上の鑑定は難しかった。

 なんでかって、どのハチも高速で飛び回ってるもんだからそいつが鑑定したヤツかそうじゃないかの見分けがつかなくなってきたのだ。でも、鑑定でどのハチがどの種類かは分かった。

 殆どはアーミーアピスっていうハチっぽい。

 前足?の二本が盾みたいに発達してるのがヴァンガード、おしりの針が長く伸びていて毒による遠距離攻撃ができるのがリアガード。

 というか、見ているに遠距離攻撃持ちはあのリアガードアピスだけなのかな?


 …あっ。


 木の陰から鑑定しつつ戦闘の様子を見ていると、状況が動いた。

 それまでは、ハチはとにかくコロージョンサーペントの気を引くように動き回っているだけだった。コロージョンサーペントの吐く砂のようなブレス攻撃をかわしつつ、近づいたり遠のいたり。

 唯一攻撃しているのは、他のハチよりも高高度にいるリアガードアピスだけで、それも鱗に弾かれているのか直撃してもまともに効いてなさそうな毒玉攻撃のみ。


 しかしたった今、近づいてきたアーミーアピスにコロージョンサーペントが気を取られた一瞬の隙をつくかたちで、ヴァンガードアピスの一匹が特攻した。

 ……そして、コロージョンサーペントの振り向きすらしない尻尾の一撃で粉々に粉砕された。


 …oh……ぐちゃっといったなぁ…ノールックで…。


 コロージョンサーペントがいるということは、多分サーペントの名が付く魔物は全部いるだろう。

 あの蛇はサーペント系の魔物の中でもかなり上澄みだったはずだ。ノーマルな奴が進化して、さらに進化して、さらに進化した上で自分の腐食能力で腐って死ななかった一部だけがその力を振るう。

 だからレアモンスターなわけなのだが、そんなコロージョンサーペントの、しかもレベル25。せいぜいがレベル17とかそこららしいあのハチどもでは勝ち目はないと思う。


 無茶な戦いに挑むなぁ~。

 あっ、また一匹死んだ。ブレスの直撃で半身が溶解して墜落。うわ~、グロテスクぅ。

 う~ん、気になることは色々あるけど、ハチに勝ち目はなさそうだし、あのハチ以上に弱いレベル3な私はハチたち以上に勝ち目ないし、このままここにいたら危険だなぁ。

 とりあえず、ここは離れて他の場所の探索に行こう。

 あんなのがうろつくところじゃおちおち果実探しもできない。


 さらにもう一匹、ハチが尻尾のシミになるのを視界の端に捉えつつ、私は踵を返して一旦来た道を戻る。


 …それにしても、なんでコロージョンサーペントが…。

 この世界が、ただの異世界じゃなくてゲームの世界だったってこと…?

 そう思って考えてみると、確かに心当たりはある。


 私だ。ヴァルプスという名前はアルカディア・オンラインでのキツネの魔物の名称だったし、見た目も似てる。コロージョンサーペントが一目見ただけで分かるくらいに同じだったのだから、私もゲーム内のヴァルプスと同じものになっていると考えていいと思う。

 …ここがゲーム世界であることを前提に考えるなら、だが。


 私がなぜそう思うかと言えば、一致する部分以上に、一致しない部分のほうが多いのだ。

 まず、私自身名前が同じなのと見た目が似ているだけで、毛の色とか大きさがちょっと違う。

 そしてアピスなんて名前のハチのモンスターはいなかった。っていうか虫系のモンスター自体全くいなかった。

 そしてこの地下の森。

 アルカディア・オンラインには百を超える数の地下ダンジョンがあったが、こんな場所は存在しない。発見されていない、というのもあり得ないと思う。なんせ、サービス開始から7年後に全ダンジョンが発見されたと運営が直接祝福していたのだから。半分くらいは未踏破だったけど。


 それにスキルもおかしい。今のところ、私が認識できてるスキルは〈鑑定〉〈尖牙〉〈尖爪〉〈第六感〉の4つ。レベルアップした時に色々聞こえたけど、数人が一気に話し出したかのように一斉に言われるものだからほとんど聞き取れなかった。なのでこの4つだ。

 謎のアナウンスさんには私は聖徳太子では無いと言ってやりたい。


 まぁそれはそれとして話を戻すと、私が認識できてるこれらのスキルのうち、見覚えがあるのは第六感の

 牙と爪は、まぁまだ魔物特有のスキルでプレイヤーには見えなかった、とそういうふうに思えなくもないが、鑑定に関してはマジで存在しなかった。

 だってほら、こんなスキルのレベル上げなくてもアイテム詳細のメニュー開けば細かい情報全部見れたし。

 モンスターとか、ゲーム始めた直後でも頭の上に名前もレベルも表示されてたし、さらに詳細を見ようと思えばステータスも見れた。ゲームなんだから。

 まぁステータスは見れてもモンスターにスキルはなかったけど。


 心当たりがある以上に心当たりのない見覚えのない部分ばかりなので、私はこの世界がアルカディア・オンラインに似ていると思いつつ、ゲームの世界に入ったとは到底思えなかったのだ。


 う〜ん、現時点だとちょっと分からないなぁ…。ゲーム世界に似た異世界?そんなことある…?

 いやラノベではそういうのもあったけどさ…。現実で……?

 …いや、もう異世界転生して狐になってる時点でそんなことあるとかないとか言ってられる状況じゃないか…。

 狐になったくらいだし、そういうこともあるかもしれないよね!!!


 ……はい。…気にはなるけど、現時点だとちょっと情報が足りなさ過ぎるかな。やっぱり直接情報が見れる鑑定のレベルアップは急務だ。

 目指せ!鑑定レベルマックス!!

 そこまで上げれば、きっとゲームの時と同じくらい便利に使えるでしょう!!多分!!きっと!



 よし、そうと決まれば鑑定しつつ探索の続きだ〜。

 レッツラゴーッ!!

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