006 見覚えのあるもの
灼熱の炎よ!我が内より出でて渦巻き、敵を焼き滅ぼせぇ!バーニングフレア!!
………。
……。
…。
うん。まぁ、だよね。
はいはい分かってましたよ。
そんな適当に呪文叫んだら都合よく魔法が使えるなんてことないだろうなって分かってましたよ。
こんな世界なら魔法だってあるのでは?と考え、思い立ったが吉日とばかりに思いつく限りの魔法の詠唱やら何やらを心の中で唱えまくり始めたのが結構前のこと。
破道だとかエクスプロージョンだとか挙句に仏教の真言だとかいろいろ試したが、ヒットはゼロ。それっぽい感覚が湧き出たとか、そういうことすらない。かすりもしない。
もはや、私の頭の中には某ニュース番組のオープニングが流れていた。
あぁ~もしかしたらって思ったのに~。
…はぁ、まぁできないことは仕方ない。
…っていうかなんとなく無理だろうなって思ってたし。ダメ元ではあったし。期待はそんなにしてなかったし。残念ではない。ないったらない。
とにかく!できないことをひたすらやってられるほどのんびりした状況じゃない。
なので魔法は一旦お預けである。
では何をするのか?
それはもちろん………"周囲の探索"である。
え?さっき行っただろって?
そんなわけあるかい!!ハチに邪魔されてまともに探索できず逃げ帰ってきたやろがい!!
このままここに引きこもってたら餓死へフルスロットルだが!?
私はもう引きこもるのは飽きたのです!っていうか前と違って外に出ないと、スマホで適当にポチったら飯が届くような環境ではないのだ。
ご飯の確保は最優先!せっかく生まれ変わったのに、まともに日の目も浴びずに餓死とか勘弁願いたい。
ちなみに一応言っておくが?そこに転がってる頭の潰れたハチの死骸の存在を忘れたわけじゃない。
もちろん昆虫食だって知ってる。
……でも…ほら。流石にあのサイズでしかも若干木が溶けるほどの毒持ちだったハチをさ……。
こう、いきなり食うのは昆虫食未経験者にはハードルが高いっていうか。いや別にビビってるわけではないですよ?ただほら、段階ってあるでしょ?まずは風味の付いたドライフードからとか…素人がディスカバリーチャンネルしたらお腹壊して即入院って相場が決まってんのよ。
だからあのハチを食べるのは最終手段だ。別にビビってるわけじゃないが、とにかくそういうことなのだ。
…はぁ。私はなにを言ってるんだ…。誰に一応言ってるんだ…。
……よし。気持ちを切り替えて、行くか。
周囲の探索リベンジへ!レッツゴーッ!
抜き足、差し足、忍び足。
草のひと房、枝の一本たりとも踏まないように…。
……は、流石に無理なので、まぁほどほどに音を立てないように慎重に歩く。
あのハチはもちろん、他のまだ見ぬ魔物に見つからぬよう慎重に。
とはいえ、我がキャンプ地──というか拠点──から顔を出してしばらく。未だ、魔物には出くわしていない。
一応道に迷わないように、通った場所の木などを爪で引っ搔いて傷を残す。残念ながらパンはないので、その代わりである。それと、通る場所にあるやつに片っ端から鑑定を行う。
ヒカリゴケとかもう何度鑑定したか分からないが、今のところ鑑定して損することがないのでレベルアップのためにひたすら鑑定しまくっている。
情報が命な今の私にとって、スキル"鑑定"のレベルアップは急務なのである。
…う~ん、静かだなぁ。
あの時は拠点から出てすぐにハチと出くわしたけど、もしかしてあれってレアケース?
運が悪かったってことかなぁ。
そういえば、あのハチ殺しても仲間とか来なかったし、マジで運が悪かっただけなのかな。
────瞬間。
私は、ほぼ反射的に身構えて周囲を見渡す。
──わずかに聞こえた、微かな、しかし重なった羽音。そして、泣き声のような甲高い謎の音。
ほんのわずかに聞こえただけだったが、それでも警戒するには十分すぎた。
聞き覚えのある羽音は、少し前、ケガをするほどに聞き飽きたばかりなのだ。
周りを見る。
音を聞く。
しかし、私の緊張とは裏腹に、私を襲うものは現れなかった。
……なんだ…。こえ~。
ホラーゲームやってるんじゃないんですけど!!
…まぁある意味ホラーか。
っていうか、だとしたらなんの音だったんだろ。
明らかにハチっぽくない音も聞こえたけど、ハチじゃない他の魔物?
微かに聞こえただけだからなぁ。
う~ん、ちょっと行ってみるか。
いや、こわいよ?
もしかしたら私がハチって勘違いしただけで実際はもっと別の魔物の音かもしれないし…。
でもほら、それでも気になるには気になるっていうか、ばれない程度に覗いたりとかね?
今の私は情報命だし、分からないことは早めに分かっておいたほうがいいし。
うん、見に行くだけ見に行ってみよう。
羽音だけ聞こえたわけじゃないし、それも気になるから。
そそくさ。そそくさ。
微かに聞こえただけの音を追って慎重に歩く。
しばらく行くと、先ほどは一瞬聞こえただけだった羽音がより頻繁に、鮮明に聞こえるようになってきた。
ブンブンと、聞き覚えのある羽音。それがいくつも重なっている。
しかし聞こえるのはそれだけではない。というより、羽音よりも派手に聞こえる音がもっと別にあった。
口で言うなら、クシャァアアアア!!!って感じの、獣の叫び声だ。
地を這うような、土の削れる音とともに頻繁に聞こえる。
……あの柱の樹木の向こう側からだな…。
周囲に、ハチやそれに類する魔物はいないように見える。
見上げるほどにデカい樹木の根元に辿り着き、それに身を潜めるようにしつつ回り込んでいく。
───そして、私は見た。
同時に、私はあまりにも予想外の光景に言葉を失った。
いや、確かに、どこか似ているな、とは思っていた。しかし
柱の樹木を回り込んだ先では、私が戦ったあのリアガードアピスとかいうハチっぽい魔物と同じ種類の魔物だろう、ハチっぽい魔物と、蛇のような見た目をしたい一匹の魔物が戦っていた。
その光景自体は、予想外のものではない。羽音が複数聞こえたり、それとは別の音が聞こえたりしていた時点でなんとなくこういうことになってそうだなとは感じていた。
私にとって予想外だったのはそこではなく、そのハチどもと戦っている一匹の魔物の方だった。
───薄い、砂のような色を、金のまだら模様で覆った独特の鱗を持つヘビの魔物。
尻尾の先に槍のような鋭く尖った爪が付いていて、頭部には二対四個の赤い瞳。
……"コロージョンサーペント"…。
私は、あの魔物を知っている。
あの魔物は…。
私が生前にやりこんでいたゲームで登場するレアモンスターだ…。
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