002 ここは森だと思っていた時期が私にもありました

 私が最初に目覚めた場所はどうやら袋小路だったようで、周りが木々や植物で塞がれていて、私が今いる川沿いの道以外に道らしきものはなかった。


 なので進める範囲で川沿いに進んでみたのだが……

 私はその途中で、樹木の生い茂る壁や空に違和感を抱いて立ち止まっていた。

 いやまぁ、空は見えてないんだけど。


 違和感というのは、私が覚えのある森にしては樹木が生い茂りすぎてるというか、いくら大自然とはいえ空まで大小さまざまな木の幹で覆われてることなんてあるのだろうか。

 人の手が入っていない自然の森ならこれくらいなるのかもしれないが、少なくとも私は違和感を覚えた。


 だってほら、木が生い茂っているというか、これだともはや木でできた洞窟っぽい。

 いろんな草とか蔓とか苔とかが、絡み合っている木の幹を覆うように生い茂ってるから初めの方は森だと思ったけど、ちょっと深すぎるよな。


 というわけで、ちょいと壁を覆ってる蔓を退かしてみようと思う。


 まるで壁のように生える太い樹木の間、木の枝のように太い蔓草に覆われている部分に右の前足をつき、そのまま枝の隙間に突っ込む。

 枝自体が少し太いからか蔓の密度はあまり高くないようで、前足は簡単に隙間に入った。


 ふんっ!!……う~ん、固い。けど引っぺがせないほどじゃなさそう。

 後ろ足で踏ん張りつつ、さらに前足に力を込める。さらに込める。

 ふぅ~っ!!かてぇ!!

 いけそうなのになぁ~。


 ……ていうか、このキツネの体、力入れにくすぎる。

 前足で色々やろうにもうまいこと踏ん張りが効かない。これが手を使わない生き物の体か…。

 ん?手を使わない?


 ────あ、そうだわ。私今キツネじゃん。キツネなら物を掴むときは口じゃん。

 私としたことが、転生したことは仕方ないと割り切ったつもりだったのにまだ人のつもりでいたなんて……。郷に入ってはとも言うし、動物は動物らしく!


 というわけで、今度は口で蔓を加えて引っ張てみる。

 すると、先ほどとは比べるべくもないほどしっかりと踏ん張って引っ張ることができ、太い蔓草がメキメキと音を立てながらズレてへし折れた。

 太いとはいえ所詮は蔓ということか。歯を突き立ててみると意外と柔らかかった。


 そうして、似たようなことを何度か繰り返した結果、その場を覆う蔓草の一部を退かせたのだが……。


 ───岩じゃん…。

 そう。その結果むき出しになったのは、樹木でも草木でも花でもなく、色の濃い土が付着しただった。


 触ってみる。

 うん。岩だ。かたい。

 土もなんというか、砂利とか混ざってない凄い黒い土だ。


 こうなると、やっぱりさっきまでの私の考えは正しいのだろうと思えてくる。

 つまるところ、ここは木々が生い茂った森なのではなく、なのだと。

 樹木や草木に覆われた天井だって、よく見れば蔓や花などが垂れ下がるようにして生えていたりするし、そうなんだろう。


 太陽光の全くない空間で何をどうしたらこれだけ鬱蒼とした森が形成されるのか不思議で仕方ないが、まぁ、多分異世界だし。どでかいキツネになれる世界だし、まぁそういうこともあるよね。

 となると、あの川は地下水脈的な…?あ、あの川から栄養を得て成長してたり、とかなのかな。分からんけど。ていうかそれだけでこれだけ鬱蒼とするのかなぁ。

 う~ん、森初心者には分からん…。


 で、私が今引っぺがしたこの岩肌が、この洞窟の本来のだと。そういうわけだろう。


 ────と、そう私が結論付けたとき。

 は突如頭の中に響き渡った。


『条件を満たしました。スキル〈鑑定Lv.1〉を取得しました』


 ふぁあ!!?

 はっ!?かっ、え?


 あまりにも唐突すぎるその声に、私は周りを見回してみる。

 が、周囲には誰もいないし、何もない。川の水音が響くのみだ。


 じょ、条件?スキル?鑑定??ちょ、ちょっとまてまて。

 まてまてまてまてまって!!

 え?うそでしょ?そんな、え、そんなゲームチックなことが……そんなドテンプレなことがほんとにあっちゃっうの!?


 聞き間違いじゃないよな?…ないな。うん。

 …鑑定レベル1、だったか。

 これはつまり、あれか?あれってことか?ステータスってことか?

 スキルって言ってたし、多分他にもいろいろあるよね?


 おぉ…おぉぉぉ!思わぬ発見!というか偶然!

 多分色々調べて考えたのがトリガーだったんだろうけど、まさか転生しちゃうだけじゃなく、こんなド定番のゲームチックな要素まであるなんて!!

 なんということでしょう!嫌悪と怠惰に塗れていた私の人生が!!いるかもわからん何かの手によって!!俺TUEEEEEも夢じゃない素敵な異世界人生になったではありませんか!!


 ────まぁ、キツネだけど。

 目覚めたの洞窟の中だけど。ノリで言っちゃったけど、俺TUEEEEEどころの話じゃないかもしれないんだけど?鑑定、レベル1だったし。鑑定を見せつける相手もいないし。


 だが!!

 それはそれとして、せっかくスキルなんてものを手に入れちゃったんだから試さない手はない!!

 だって鑑定といえば、どんなラノベでもアニメでもひとたび登場すれば便利無双の超ド級スキルであるからして、たとえレベル1だったとしてもきっと役に立つ!はず!

 少なくとも、この何も分からない現状を打開してくれる!はず!


 と、いうわけでぇ~!

 まずはこの壁から!鑑定!


『壁』


 ん?


『壁』


 え?


『草』


 なにわろてんねん!!

 うっそだろお前!!草を調べて草ってそれで鑑定とかうっそだろ!!

 見ればわかることですけど!!?


『草』『花』『木』『地面』『壁』


 うおぉ~マジか。

 レベル1だからか?あまりにも使えない…。

 普通植物とか壁とか鑑定したら、どこどこにあるなになに、みたいな感じで簡単な解説が入ってもいいと思うんですけど。なんだ壁って。


 レベル1だからかなぁ。レベル上げろってことですかそうですか。

 さっき聞こえてきたシステム音声みたいな声は"条件を満たしました"って言ってたし、同じように何かしらの条件を満たせばきっとレベルも上がるはず。

 そしたらきっと私が思うような鑑定スキルとしての性能を発揮してくれるだろう。きっと。


 ……経験値かな?さっきいきなり獲得したときも、壁について調べて考察してた時だし、それらしい行動をとるとレベルが上がる……あ、いや、それらしい行動がきっかけで取得したっぽいだけで、レベルを上げるならスキルを使いまくればいいのかな。

 うん、とりあえず鑑定のスキルを使い続けよう。…もしかしたら、何かの拍子に使える情報をポロっと吐き出すかもしれないしね。


 あ、そうだ、一応自分のことも鑑定しとこう。

 こういうときは自分のことを鑑定してステータス見れたりするしね。…まぁ、壁のことを壁とか言ってる辺りあんまり期待できないけど。


 ほい、鑑定~。


『魔物』


 ん?

 おん?

 魔物?ほうほうなるほど。

 魔物か…。動物とかモンスターとかじゃなく、魔物かぁ。

 本当にゲームっぽいというか、異世界転生っぽくなってきたな…。


 魔物っていうくらいだし、普通の動物じゃできないこともできたりするのかな。魔法みたいなこととか。

 いや、それは期待のし過ぎかな…?普通に考えて、転生した直後だし私そんなに強くなさそうだし。

 スキルにレベルだってあるくらいだし、私自身にも数字的なレベルがありそうだけど、今はまだわかんないな~。


 それに、こんな森──というか洞窟──に魔物がいるってことは、私以外の他の魔物もいるってことだよね、多分。勘弁してほしいなぁ~!もっと気楽に強くなれる転生なかったんですかね!!


 …はぁ、言っても詮無いことか。仕方ない。

 とりあえず、死にたくないし慎重に動こう。……はぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る