第9話

 そこはこの世の地獄だった。

 薬でラリる男の子に、酒を煽る女の子、性行に勤しんでいる男女問わずの塊、そんな行為を続けた結果、物言わぬ死体となり転がる子供達友達を何とも思わず踏みつけ、座布団の代わりにしている子供達は正気とは思えなかった。

 そんな光景を見てヒュッロは絶句し、一瞬固まってしまった。

 そんな一瞬出来た隙に首元をシスターアラマに何かで刺された。


「なっ!」


「ふふ、油断大敵ですよ。」


 前のめりに倒れたヒュッロに嘲笑うかのように微笑みながらシスターアラマはヒュッロの首をさした注射器を弄んでいた。

 麻痺して動けないヒュッロに手を伸ばそうとしたところ、悪寒がした為、扉を開けて後ろに飛び退いた。


「チッ!勘のいいやつだ。」


「おっかしいですね。象すら麻痺して1日は動けない毒なんですけどね。」


「俺は見習いだが、聖騎士だ。この程度の毒で動けないなんて先輩達に笑われてしまうわ!」


「うへぇ、シスターにお兄ちゃん?」


「あっ!お兄ちゃんだ!お兄ちゃんも気持ちよくなりにきたの?」


「こらっ!邪魔するな!」


 部屋に入ってしまった事でアラマとヒュッロがいる事に気がついた子供達がヒュッロに群がってアラマに追撃出来なくなっていた。

 その上、善意で子供達が刺そうとしている注射にはどう見ても身体に良くなさそうな薬が入っていることを察した。

 その間にアラマはシスター服を脱いで自分本来の服装に着替えていた。


「お前、やっぱり悪魔か!それも上位の種族だな!」


 変化したシスターアラマの姿はまさに悪魔と言った姿に変化していた。

 羊のような角に、先がハート型になっている尻尾、露出狂のような服装からは人間離れした肉体がチラチラ見えていた。

 それに欲情するヒュッロではないが、聖なる服であるシスター服で抑えられていた魔力が解放されたアラマのオーラから悪魔の中でも実力者である事が分かった。


「ふふふ、離れていなさい。子供達。彼はあなた達ごと私を切るつもりですよ。」


「・・・意外だな。そのまま俺を抑えさせておくのかと思った。」


 鍛えているとはいえヒュッロの体格は同年齢の中では平均的であり、13歳である子供のヒュッロと同体格の者も子供達の中にもいる為、数に物を言わせて攻撃の邪魔をする事は可能である為、アラマの言った通り、ヒュッロの言うことを聞かないのであれば、戦闘の邪魔になる障害物とみなしてまとめて皆殺しにするつもりだった。

 ヒュッロにとって最重要事項はオンリーの安全であり、あの怪しい神父が此処にはいない事からこの部屋の奥にある扉の部屋にいないのであれば、オンリーの元に行っている可能性がある為、急いで向かわなければと思っているのである。


「ふふふ、あの女装神父君が心配?」


「何を言っている。あの人は聖女様の弟子だ。私がいなくても敵を殺せるだろう。」


「あら?そう。でも、貴方は思っているのでしょう。なんで、この日貴方を此処に私が連れて来たのか?聖女の弟子である神父がいるのに暗躍せずこんなに堂々と襲って来たのか?ってね。」


 アラマからは明らかにオンリーと舐めている節を言葉の端々から感じ取れるが、それを踏まえても本部からの派遣であるただの小僧たちではない事は分かっている筈なのに、この冷静さと大胆さである。

 何か絶対的な勝算があって行動している事がアラマの態度から見て取る事が出来た。

 実力者の悪魔であろうとそれを狩るのが、聖騎士達である。多少作戦立てようが、罠を仕掛けようが、ぶっ壊すのが自分たちである自信がヒュッロにはあった。


「ふん!これが自信の理由か?それなら甘く見られたものだな。」


「そんな・・・私の魔法が。」


「シスターの適正を持っていたのに勿体無いことをする魔女め。」


 魔女とはシスターが闇堕ちした者の事である。

 ヒュッロに魔法で土の鎖で行動を縛ろうとしていたが、その程度の魔法が効く訳もなく筋肉で無理矢理壊したのである。

 自分の魔法に自信があったのか、ヒュッロにかけた女の子は落ち込んでいた。

 そんな女の子を見て、折角の素質をドブに捨てるような行為に嫌悪して侮蔑な表情を見せていた。


「おや、騒がしいですね。」


「神父・・・やはり黒幕はお前か。」

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ぼっち神父は孤高を目指す 栗頭羆の海豹さん @killerwhale

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