第8話
「早く早く!オンリー!」
「遅いぞ!!」
「すぐに行くよ。みんな。」
片田舎の教会の花畑で子供達と一緒に遊んでいるオンリーを見ているヒュッロはこんな事をしていて良いのかなと思っていた。
地方教会の内部調査の為にこの片田舎の教会にも来ていた。
ここに来るまでにも幾つかの教会に訪れては子供達と戯れては教会の手伝いをするだけで調査らしい調査をオンリーがしている所を見たことがヒュッロにはなかった。
本部に調査書は送っているらしいが、何を書いているのかは秘匿事項という事で、自分にも見せてくれない事に信頼されていないのかと落ち込みながら最後の教会であるこのカッタナー村の教会にてこの仕事も終わりになっていた。
この仕事には不満があったが、そんな不満もオンリーの顔を見ているだけで溶けていくのをヒュッロは感じていた。
別にヒュッロは男が好きとかそんな事はないが、性別関係なく可愛い人を見ていると癒されるんだなとヒュッロは知った。
「オンリー様、これで良いんでしょうか?」
「何がですか?」
オンリー達は子供達と遊び終わると用意された自室に戻り、優雅にお茶していた。
オンリーの飲んでいるお茶はここら辺では手に入らない茶葉で作られている為、態々本部から持って来ていたのだが、そろそろ在庫がなくなってくる頃だった。
これを飲まないと無理して会話しているストレスでハゲしまうとコミュ障にとってはこの調査は苦痛でしかなかった。
それがやっと終われるとなってオンリーも微笑みながらお気に入りのお茶を楽しんでいた。
ヒュッロとも少しは打ち解けてきたと自分自身感じる所だが、此処らで何か起こってくれないかなとこの前読んだ小説みたいな友情イベントを望んでいた。
「いえ、調査をあまりしていないように思いまして。」
「私もする必要があるならしますよ。・・・ですが、此処らへんの教会はするまでもありませんでした。楽でいいですね。」
「確かにみんないい人達でしたが・・・」
この教会を任されている神父も、他の教会も良い人たちばかりだったので調査してなくても大丈夫だとしたのだとヒュッロはオンリーの呑気さに絶句していた。
でも、それが演技ならと自分より子供のオンリーには人を疑う事を知らないのではと思い始めたのである。
「そんなに心配なら自身でしてみたらどうですか?どうせ、調査が早く終わったので時間は余っていますから良いですよ。」
自分が信用ならないなら自身で調査してみろと言われたヒュッロはオンリーを疑うような真似は出来ないと思いながらそれでも自分達は簡単に騙されているだけではないのかという不安もある為、自分で調査をしてみる事にしたのである。
いってらっしゃいとオンリーに送り出されたヒュッロがまず先に向かったのは子供達の元だった。
神父に聞いても素直に教えてもらえるわけがない為、子供達に何かおかしい事はないかを聞いて疑いがあるならオンリーも調査に乗り気になるのではと考えたのである。
「神父さんの事?」
「そう、何か変わった事とかある。」
「特にないよね?」
「うん。いつも優しい人だよ。」
「あ、でも、最近よくマッサージしてくれるようになったの。」
「後、香水を変えた。凄く良い匂い。」
成果はあまりなかった。
自分と同じくらいの子に聞いても然程変わらなかったので、陰から神父を見てみる事にした。
「・・・・・・いた。」
神父は今、信者の話を聞いているようだった。
何の話をしているのかは分からないが、和やかに話しているのを遠くからでも分かった。
そんな感じで夜まで尾行を続けても結局、怪しい事は何もなかった。
懺悔室で信者さんからの悲痛な思いを聞いていたり、女神像に祈りを捧げていたらしていたが、特別おかしい事はなかった。
やたら体術などの修行を熱心にしている人だなと思ったが、シスターより力が大きく劣る神父は権力や知力、人脈を重視する傾向にあるが、神父の試験は力も査定に入る為、試験の為に頑張るのはおかしくなかった。
「何か違和感があるんだよな。」
「何が違和感なんですか?」
「っ!これはシスターアラマ。いえ、何もありませんよ。少し旅で疲れたのか、身体に違和感を覚えているだけですよ。」
肩を回しながら凝っているんですよと誤魔化すヒュッロ前にはこの教会に唯一いるシスターであるアラマがいた。
見習いと言っても本部の聖騎士である自分の背後をとるなんて流石はシスターだなとヒュッロは感心していた。
優しい笑みを浮かべながら妙な色気があるアラマをヒュッロは苦手としていた。
シスターに見えないシスター。
それがヒュッロがアラマの第一印象だった。
「ふふふ、誤魔化さなくても良いのよ。貴方達、本部から内部調査をしに来た子達でしょう。」
「・・・・・・何のことでしょう。私達は此処に来た時にも言った通り、才能のある子がいないかを調査しに来ただけですよ。」
これがオンリー達の表向きの仕事だった。
片田舎に才能の原石が埋もれていないかを発掘する為に地方の教会を回っている。
子供であるオンリーの初仕事。
オンリーが無理して子供達と遊んでいたのも表向きの仕事をしているように見せる為のものだった。
それを見破られたと勘付かれないために素知らぬ顔でヒュッロは答えたが、そんな嘘だとわかっているというようにアラマは笑っていた。
「隠さなくても良いのよ。実はビジョン様が最近おかしいのよ。」
「なんだって?」
此処に来ての神父に対しての疑いにヒュッロは警戒した。
内部調査と分かっているならもっと早く報告して来た良い上に、告発するにしても自分ではなくオンリーにするのが正しいのである。
場所も廊下という誰が聞いていてもおかしくない場所というのも怪しさに後押ししていた。
「分かりました。それで何がおかしいのですか?」
「此処では誰に聞かれているか分からないので、誰にも聞かれない場所があるのでそこに行きませんか?」
罠の確率が上がった。
明らかに此処から人がいない場所に行くのはこちらを暗殺する気しかしないが、それなら返り討ちにした良いまでのことと思ってアラマに着いていく事にした。
それに前もってオンリーとは時間になっても自身が帰って来なければ死んだと見て行動することを決めていた。
此処で死んでも教会への疑いが増すだけである。
「
「はい、昔、紛争地だった頃の名残です。」
慣れた手つきで床板を外すとそこには地下への階段が書かれていた。
ハッキリ言って怪しさしかないが、スタスタと降りて行くアラマの後を追ってヒュッロも降りて行った。
「うっ!なんだ、この匂い。」
「ふふ、良い匂いでしょう。」
鼻を抑えて地下から漂う悪臭に苦しむヒュッロとは対照的に本当に良い匂いだと思っているふうに嗅いでいるアラマを異常に見えているヒュッロはいつでも剣を抜けれるように柄を握っていた。
階段を降りた先には一室の扉があり、紛争時代のシェルターのようだった。
「なっ!これは!」
扉を開けるとそこには教会にはあるまじき光景が映っていた。
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