第6話

「ハッ!ハー!!テメェの方から俺様達に殺されに来るとはいい度胸だなぁ!!!」


「謹慎中に頭でも打っんですか?結界を禁止しているからと言っても君たちが僕に勝てると思っているんですか?」


 裁判は泥沼化した。

 双方が一切妥協という言葉を忘れた裁判は裁判長が胃痛で苦しむだけの最悪の裁判となったのだ。

 サトゥルヌスに恩義があるが、上からオンリーの罰を重くしろと板挟みになっていた裁判長は休憩中にオンリーから胃薬の差し入れに心を打たれたお婆ちゃん裁判長はオンリーの双方が納得する妥協案を快く受け入れたのである。

 それは誰から見てもオンリーが不利な条件で当事者達三対一での決闘だった。

 条件として土聖派が得意としている結界使用禁止というものだった。

 その上で相手には特に条件はなかった。

 あの三人以外の決闘中の干渉禁止という当たり前のものがある程度だが、決闘当日まであのボンボンが送って来たと思われる暗殺者が何人もオンリーを襲いに来たが、その全てがオンリーに辿り着くことなく、タイタン達サトゥルヌスの弟子達によって始末されていた。


「馬鹿なのはテメエの方だろう!結界の無いテメェなんて甲羅のない亀も同然だ!嬲り殺してやるよ!」


 ゲラゲラと笑いながら自分達の勝ちを確信している3人はオンリーをどう料理しようかを考えていた。

 そんな馬鹿を見ていたオンリーは残念なものを見るような顔をしていた。


「はぁ・・・・この決闘場に張っている結界は即死級の攻撃を受けても死ぬ事なく無傷の状態で場外に叩き出されるのにどうやって私を殺すつもりですか?」


 相変わらず、無知なようですね。と無自覚に煽ってしまうオンリーは熱した油に水をぶち込む様に3人を煽っていた。

 一触即発な状況を冷ややかに見ているのは今回の決闘を担当する事になった審判だった。

 こんな小さい子に何をしているの?と思っているのはコッパリアンと同国公爵である水聖派のシスターだった。

 さっさと始めようと開始の宣言の鐘を鳴らす合図をシスターは送った。オンリーが危険な状態になったら無理矢理止めないと考えるシスターはコッパリアンの事を同国の面汚しだと見下しているだが、それでも男子ながら実力は高いと認めていた。


「オラオラオラ!!どうした?避けるだけで手一杯か?」


「ギャハハ!俺の槍で串刺しにしてやるぜ!!!」


「その可愛い顔を醜くしてやるぜ!!」


 鐘の音が会場に響くと同時に飛び出した3人は各々の武器を使って猛攻をオンリーに避けて来た。

 3人たちは己の攻撃にオンリーが防戦一方でギリギリ凌いでいると確信していた。その証拠に最初の方は余裕で避けていた攻撃を今では擦り傷を負うのが見えていた。

 そんなコッパリアン達を応援する貴族派の連中は全体的にコッパリアン優勢に盛り上がっていた。

 貴族派の人達はさぞかし土聖派の人達はオンリー劣勢を焦っているだろうと見てみるとつまらなそうに欠伸をしているサトゥルヌスがいた。


「なんじゃ。あの雑魚共はあれではオンリーの練習相手にもならぬじゃないか。」


「観客も節穴集団しかいませんね。あれを優勢に見えるとしたら眼科に行く事をオススメしますよ。」


「言い過ぎっすよ。タイタン先輩。教会でぬくぬく私腹しか肥してない豚共にはあれがハラハラドキドキする決闘なんっすよ。」


「お前も言い過ぎだ。ロゲ。あれで教会に貢献してきた先輩達だ。少しは敬意を表面的にでも出しとけ。」


 サトゥルヌスは既に勝負は決まったと見てさっさと終わらないかと今にも寝てしまいそうになっていた。

 弟子達は盛り上がっている貴族派をみてこれが貴族かと馬鹿にしていた。

 そんな煽りを隠そうとしていないため、貴族派の連中はブチ切れてオンリーを殺せ!!と罵声を飛ばし始めていた。

 コッパリアン達はその声援に答えてオンリーの急所を目掛けて攻撃を仕掛けるが、剣で切ろうとしても、槍で貫こうとしても、ハンマーでぶっ壊そうとしても擦りとすらしなかった。

 全ての攻撃を紙一重にして躱されてしまっていた。


「なっ、なんでだ!?」


「当たらねぇ!」


「はぁ、はぁ、くっ!ぶっ潰れろ!!!・・・は?」


 オンリーに躱されまくってイラついているコッパリアン達はコッパリアンとガーリィが左右から攻撃することによってオンリーをデーバァのハンマーの攻撃範囲にバレバレな誘導をした。

 デーバァは渾身の一撃をオンリーに直撃させたが、そんな全体重を乗せた一撃をオンリーは片手で受け止めたのである。

 自分の半分以下の体格のオンリーが自身とハンマーの重みを片手で受け止められた事が信じられず、呆然としていた。


「ぐぼっは!」


「「デーバァ!!!」」


 オンリーは隙だらけのデーバァのブヨブヨな腹に重い一撃をぶち込んだ。

 バカ重いデーバァを闘技場の壁まで吹き飛ばした威力は華奢な細腕から繰り出されたとは思えなかった。

 二人の横を通り抜けたデーバァはオンリーの一撃が致命傷になったのか、会場から強制退場になった。


「よくもデーバァを!!」


「待って!ガーリィ!」


「ぶはっ!」


 親友のデーバァがやられたことに怒りを燃やすガーリィはオンリーに突撃をかました。

 そんな軽率なガーリィを止めようとコッパリアンは叫ぶが、静止の声がガーリィに届く前にオンリーの手刀によってガーリィの骨と皮しかないような腹は貫かれた。

 心臓を貫いた上、倒れたガーリィをオンリーは蹴り飛ばしてデーバァと一緒の場所に飛ばしてあげた。

 そんなに仲が良いなら一緒の場所に眠らせてあげようというオンリーの優しさだった。


「くそっ!テメェ、良くも俺の手下を!」


「あっちが無防備に突っ込んで来るからですよ。私は土聖派、サトゥルヌス様の弟子なんですから。聖女護身術が使えると考えるのが普通でしょう。」


 聖女派閥にはそれぞれ継承している武術があった。

 金聖派なら金属製の武器を使った多種多様な武術、さっきからコッパリアンが使っていた剣術もその一つだった。

 そして、土聖派は聖女護身術という武術だった。

 デーバァを吹き飛ばした一撃も、ガーリィを貫いた一撃も、それぞれの攻撃を利用してカウンターとして放ったものだった。

 コッパリアンも聖女護身術については少しは知っていたが、男な上、こんなガキが使える代物ではない為、使えないと決めつけて警戒なんてしていなかった。


「あれ?さっきみたいに攻めてこないんですか?」


 聖女護身術は相手の攻撃を利用する技が多いと聞いているコッパリアンは手下達の二度枚にならないために攻めあぐねていた。

 そんなコッパリアンを見たオンリーはため息を吐いて、自分の足元に落ちていたガーリィの槍を拾った。


「は???!な、な、な、な、なんでお前がっ!ぐ、が、ば、や、め・・・」


「もうやる気がないなら師匠も飽きているし、終わらせるよ。」


 槍を拾ったオンリーが構えた立ち姿、所作、槍の握り方まで全てがガーリィの使っている聖騎士槍術のものだった。

 それを見たコッパリアンは混乱している上にガーリィなんかより素早く鋭い連撃によって苦しみながら退場していった。

 欠伸しているサトゥルヌスを見てからいつ終わらせるか、タイミングを計っていたオンリーはコッパリアンが攻めてこなくなって無駄に決闘が長引くと判断してさっさと殺したのだ。


「勝者!オンリー!!」


 三人が退場になった事によって終わりの鐘がなり、審判が宣言したことによってオンリーの勝利でこの決闘は決着した。

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