第5話

「お忙しい中、誰一人として欠席せずに出席してくれてありがとうございます。」


「そんな口上はどうでも良いんだよ。なんだよ、俺、最近出回ってる薬の成分解析に忙しいんだよ。」


「・・・・・・プルクラさん、私も忙しい。」


「うふふ、二人ともプルクラさんをいじめてはダメですよ。私は皆さんに会いたいと思っていたので丁度良かったですよ。」


 金聖教会が誇る鉄の庭園で茶会は開催された。

 此処に咲く花は全て聖鉄によって成形された造花だった。本物以上に綺麗で鋭い棘を持つ花達からは何処はかとなく鉄の匂いが漂ってくるが、これは材料の鉄の匂いなのか、それとも別の匂いなのか、それは知らぬが花というものである。

 火聖派かせいは聖女候補のフォボスと木聖派もくせいは聖女候補のイオは各々師匠から課された仕事があるのに態々絶対出席でもないのに来たのは真面目で優等生なプルクラが招集した為である。

 定期茶会以外でよく招待してくる水聖派すいせいは聖女候補のトリスなら忙しいと無視する事もあるが、プラクラが定期外で茶会を開くなんて余程のことがあったと考えれた。

 そして、それはさっきから怒りを隠すことなく腕を組んでいるタイタン、つまり土聖派と何かあった事はすぐに推測できた。


「それで何があったんだ?冷静、冷酷なお前らしくないな。妹分でも金聖派に殺されたか?タイタン。」


「フォボス。貴方のくだらない冗談を聞き流せるほど今の私は温厚じゃないのよ。」


「・・・は、お前が温厚?心が誰より冷たいお前に温かさなんてないだろう。」


 いつも通りフォボスがタイタンにちょっかいを出すとマジギレされた事に内心驚いてしまっていたが、そこは長年のレスバがいきて口が勝手に煽ってしまったのである。

 一瞬にして凍りつきそうになった茶会を溶かすものがいた。


「ほらほら、茶会なんだから。楽しくいきましょう。あら、茶葉変えた?」


 こんな茶会をまだ楽しもうとしているトリスの心は波一つ立たない凪のような落ち着きがあった。

 呑気に淹れられたお茶を味わっているのは空気を読めていないようにも見えていた。


「・・・・・・あのー早く本題にいきませんか。私、本当に忙しいんです。」


「そうね。では、これから共同食堂土金騒動の話に移ります。」


 給仕係から今回の資料が各々の前に配られた。

 そこには今回の共同食堂で起こった事とそして、その後の対応と罰則について書かれていた。

 フォボスとしてはタイタンの怒り具合からガチで金聖派が土聖派の誰かを殺害、もしくは重体に追い込んだのではないかと思っていたのに、ただの男同士の小競り合いで拍子抜けだった。


「おい、プルクラ。こんな事で俺達を招集したのか?男子雑魚の事なんて適当で良いだろう。このオンリーって言うガキに上が納得する罰を与えて終わりで良いだろう。」


「まぁまぁ、フォボスちゃん、そんな事を言わないの。タイタンちゃんが凄く睨んでいるわよ。」


 フォボスが属する火聖派はその必要能力から典型的な女性至上主義である為、フォボスも例に漏れず女性主義だった。

 その為、今回の事件には男性しか関わっていないので一瞬で投げやりになっていた。

 可愛い弟分であるオンリーを罰しようとしているフォボスに殺気MAXで睨んでいるタイタンを落ち着かせようとトリスが間に入って取り持とうとしていた。


「・・・・・・このオンリーって子、もしかして二年前にサトゥルヌス様が弟子にしたという男の子?」


「・・・その通りだ。イオ。オンリーは私の可愛い弟分だ。金聖派に組みして不当に罰するようなら誰であっても潰すぞ。」


 プルクラにとって何よりも計算外だったのが、オンリーが男でありながらサトゥルヌスの正式な弟子になったとして話題になっていた男の子であった事を調査書を作成している時に知ったのである。

 他派閥でもサトゥルヌスをはじめとしてタイタン達上位弟子もお気に入りとして知られている秘蔵っ子である。

 今も教会全体を敵に回しても我を通す気満々な土聖派の総意を見て、着地点をどうするか、頭を抱えて考えていた。


「はっ!大層気に入っているようだが、所詮男だろう。」


 タイタンのオンリーへのご執心ぶりが気に入らないのか、挑発すると共に心の底から優秀と言っても女より下という本心がフォボスにはあった。


「あの子を見た事もないのにそこら辺の雑魚と一緒にしないで欲しいな。まぁ良い。此処で何を言っても変わらない。それにその内、嫌でも分かるさ。」


 今から一日中オンリーがいかに凄いのかを語っても良かったが、無知のままオンリーに会った方が衝撃も凄いだろうという、オンリーを甘く見ているフォボスへのちょっとした意趣返しだった。


「あぁ、それはどういう事だよ?」


「茶会に参加する人がそう遠くない内に私じゃなくなるという事よ。」


「はぁ?!うなわけないだろう!」


「・・・・・・・・・過大評価しすぎ。」


「タイタンちゃんが嘘をつくとは思えないけど、流石に信じられないわね。」


「あぁ、胃が痛い。」


 タイタンが言った事は何より信じられない事だった。

 それはつまりタイタンを超えてオンリーが聖女候補になるという事であるからだった。

 そんな偉業はこの長いことある教会の歴史にもないものなのだ。

 プルクラは話が脱線しているのにこの話が本当なら実力主義の土聖派全体が敵に回る事になる事を意味していた。

 そんな事になったらと考えると胃がキリキリと痛くなって来ていた。


「それだけじゃない。千年変わることなかった席がようやく変わるんだ。あの子にはそれだけの力を秘めている。」


「おい、法螺を吹くのもそれくらいにしろよ。そんな事があるはずないだろう!」


「ええ!!もう脱線しすぎているので!この件は裁判を開きますので、三派閥は中立をお願いしたいのです!」


 これ以上の爆弾を投下してもらう訳にはいかないので強制的に茶会を終了する事にしたプルクラは速やかに従者に指示して裁判の準備に取り掛かる為、茶会を後にした。

 主催が終わりを告げた為、しこりは残るものの結局は当人がいない以上話していても埒が開かないので、各々自身の教会に戻って行った。

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