第3話

「ねぇ、あれ・・・」


「多分、そうだよね。」


「あの身体の何処に入るんだ?」


(なんか凄く見られてる。)


 此処は教会共同食堂である。

 いつもは土聖教会の食堂で一人で黙々と食べているオンリーだったが、サトゥルヌスが他の派閥の奴なら話せる奴もいるかもしれないとこの共同食堂で食事をするように言ったのである。

 オンリーは産まれながらの大食漢ではない。

 なら何故、オンリーは5歳の大食漢になったのか?

 それは食事の場が交流の場だからである。

 誰もが食堂に集まり、朝、昼、夜の出来事を話しては盛り上がり馬鹿騒ぎをするのは教会内の食堂でも変わらなかった。

 そんな陽キャの場をコミュ障が過ごせる訳もなく、誰にも話しかけられないように産まれた時から大食漢になる為の胃を強化していた。

 大量の食事を黙々とまるでそういう機械のように食べるオンリーに話しかける人なんていない筈だった。


「おいおい、誰だ?このガキ。」


「どけよ!ガキ!そこはコッパリアン様の場所だぞ!」


「あ?何、無視しているだ!」


 ステレオタイプの不良みたいな輩がオンリーに絡んできた。

 見た目からして10歳程度男子の3人組、ザ・取り巻きみたいなデブとガリにギザそうな嫌な笑みを浮かべている煌びやかな服を着ている子供は多分、貴族の子息である事が伺えた。

 しかし、オンリーが気がつく事はなかった。


「おい!なんか言ったらどうっ!??」


 デブな取り巻きがオンリーを肩を掴もうとした瞬間、見えない何かに弾かれたようにデブの手に衝撃が伝わった。

 オンリーは更に話しかけるな結界オーラ(物理)を身に纏って外界からの干渉を全てお断りにしていた。

 サトゥルヌスにはそれでは訓練の意味がない為、解除しておくのじゃと注意されていたが、いつもの癖で席に着いた瞬間に展開させてしまっていたのだ。

 オンリーも食事に集中するせいで、周りが不自然に静かでも一切気がつかなかったである。

 それでも結界に接触した事を知覚したオンリーは内心、慌てて結界を解いたのである。


「誰ですか?」


「誰だと?無知なガキめ。」


「このお方はな!五神教会に代々司祭を排出して最高司祭にもなったことのあるブロンズ伯爵様の御子息!コッパリアン様だぞ!」


「頭が高いぞ!其処はな!コッパリアン様の席なんだよ!さっさとドキやがれ!!」


 邪悪な笑みを浮かべて偉そうに言う3人組にオンリーは無表情で首を傾げた。


「共同食堂の席は自由席ですよ。それに金聖派きんせいはの君達の所は親が偉かったら子も偉いのかもしれないけど、土聖派どせいはの私には関係ない事です。」


 オンリーはそう言うと再び食事に没頭し始めたのである。

 そんなオンリーの態度に怒り心頭になったコッパリアンはオンリーの座っている椅子を転かそうとおもっいきり蹴った。


「いっ!たーーー!!!」


「あぁ、すみません。私自身の結界は解きましたが、絶対、貴方達が怒りに任せて暴力に出てくる事は読めていたので、椅子や机は勿論、料理にも結界を張っているんです。」


 オンリーはスプーンでスープをコンコンと叩いて見せた。

 それを遠巻きに見ていた人達は驚愕していた。

 結界とは大抵が丸型か、四角型など自身の周辺に張るものでなのである。

 自身に身に纏ったり、器物に纏わせるなんて技術は高等技術として有名な部類の技術だった。

 それもこんな子供な上にコッパリアンの蹴りから見ても強度も申し分ないレベルである事が遠目でもハッキリと理解出来た。


「くっ!この野郎!よくも俺に恥を掻かせてくれたな!!もうゆるさねぇ!!デーバァ!ガーリィ!このガキに俺の恐ろしさは分からせてやれ!!!!」


「「は、はい!!」」


 なんと怒りに満ちたコッパリアンはこんな大衆の面前で腰についていた剣を抜いてオンリーに切りかかろうとしていた。

 コッパリアンの指示に従って各々の武器を抜いてオンリーに攻撃し出した。


「死ねぇぇぇぇ!!!!」


「痛ぶってやるぜぇぇぇぇ!!」


「俺の剣は聖剣だ!!お前の紙のような結界なんて意味がないぜぇぇぇ!!!」


「「「は?」」」


 コッパリアン達は信じられなかった。

 自分達の自慢の武器がオンリーの結界に当たった瞬間に壊れてしまったのだ。

 ぶつかった衝撃に耐えれなかった武器は粉々に砕けて散っていた。

 オンリーは攻撃された事を意にも介さずに食事を続けていた。飛んできた武器の破片を結界で弾いて料理に入らない様に衝撃を調整していた。

 まるで相手にされていない事にコッパリアンは己の愛剣が壊れた事より怒りのボルテージを上げていた。


「この野郎!!!!!!」


「そこまでです!」


 破れかぶれに殴りかかってこようとしていたコッパリアンを静止させる声が食堂に響き渡った。

 その声はまるで天使の歌声のような美しい声だった。

 静止した女性はコッパリアンと同い年くらいに見える背丈をしていた。

 本物より綺麗ではないかと思える金髪は何より価値がある様に皆が見えていた。


「プルクラ様!」


「キャー!プルクラ様よ!!」


「今日もなんてお美しい!!」


 プルクラと呼ばれる少女は有名なようで食堂がさっき騒ぎ以上に歓声でうるさくなっていた。

 プルクラはオンリーの方へ真っ直ぐ向かって来ていた。


「これはなんの騒ぎですか?!!」


「いや・・・これはそこのガキが・・・」


「そうです!このガキが悪いんです!!」


「はい!コッパリアン様に逆らうから!!」


「馬鹿!やめろ!お前ら!」


 プルクラに説明を求められたコッパリアンは何か言い訳を考えながら言葉を濁していたが、取り巻き二人が大声で馬鹿な事を言い出した為、コッパリアンは急いで止めようとしていた。


「・・・そこの君、結界を解かなくて良いので、私の質問に答えてください。」


「?何、その声、結界を通り過ぎて聞こえるんだけど?・・・良いですよ。」


 コッパリアンにこのまま聞いても埒が明かないので、質問をオンリーにする事にした。

 音も遮断しているオンリーの結界を当然のように通り抜けるプルクラに興味が湧いたオンリーは事務的に答えようと思った。

 因みにプルクラに食事の手を止めることなく、返事するというかなり人に対して失礼な事をしている事に食堂の大半の人間が苦言を呈したいと思っているが、あの騒ぎに巻き込まれたくないと考えて遠目から念を送るだけで止めていた。


「この騒ぎは何ですか?」


「金聖派の人達が此処は自分達の席だと後から来たのに、言ってきたので断ったら逆ギレして暴れた結果です。」


「・・・・・・!!」


 コッパリアンは何か言い訳をしようとしたが、何故か、口が開かず言葉を出す事が出来なかったのである。

 それは取り巻きの二人も同じだった。

 オンリーの証言を聞いたプルクラは何か考える仕草を見せて続けて質問した。


「そこに転がっている壊れた武器は何ですか?」


「金聖派の人たちが私に攻撃して来た時に私の結界で壊れた成れの果てです。」


「は?」


 プルクラは食堂で自分と同じ派閥の人達が騒ぎを起こしているという報告があった為、急いで来たのにまさか他派閥との小競り合いかと思ったら、武器まで使っていると思っていなくて頭痛がしてきたプルクラだった。


「・・・・・・分かりました。処分については改めて伝えます。その間、諸君は各々の部屋で謹慎にします。」


「今すぐですか?」


「今すぐです。」


「分かりました。ゴクン!」


 机の端から端まであった料理の数々が一瞬にしてオンリーの胃の中に消えていく光景は頭痛が吹っ飛ぶ程の衝撃をプルクラに与えた。


「それでは失礼します。」


 良し、誰か話せたとサトゥルヌスに良い報告が出来ると内心、喜ぶオンリーを他所に食堂は今日一番の衝撃な光景に呆気に取られていた。

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