第2話
「オンリー!オンリーはどこじゃ!!」
「サトゥルヌス様、どうされたのですか?」
「おぉ、タイタン。オンリーの居場所を知らぬか?」
「あの子なら書庫に篭っていますよ。」
此処はステッラ教国の土聖女がトップに立つ土聖教会である。
「そうか、あやつは・・・しょうがない奴じゃ。」
「どうかされたのですか?」
オンリーは言ってしまえば唯我独尊、マイペースでハイペースに物事を進める為、人とそりが合わない事がよくあった。そこにコミュ障が相まって他者から距離を置かれているのである。
今回もそうなのかとタイタンは思ったのである。
「あぁ、またじゃ。弟子の一人が辞めおった。根性のない奴と言うのは簡単じゃが、オンリーの才に絶望する気持ちは・・・分からなくないのじゃよ。」
「土聖女様が何を言っているのですか?嫌味に聞こえますよ。」
「いやいや、ワシなんてお主らに比べたら凡才じゃよ。」
若かりし頃を思い浮かべるサトゥルヌスの姿は何処か寂しげだった。
5人いる聖女の中でもサトゥルヌスは数多くの弟子をとっている聖女だったと言うより歴代の土聖女は皆、多くの弟子をとって一番優秀な弟子を聖女候補に認定するのだ。
そして、今聖女候補になっているのはタイタンだった。
「私もオンリーに比べたら凡庸なものですよ。」
「あの子は特別じゃ。比べるものではない。」
タイタンもオンリーの才能には常に驚愕し続けていた。
日に日に進化とも言える成長を遂げるオンリーの成長速度には同じ人間だとは思えなかった。
それも男が聖職者として自分より才能がある事にサトゥルヌスの弟子達の誰もが信じられずに挫折を味わっていたのである。
通常、聖職者は女性の方が強くなるのが常識である。それは聖職者の力を行使するには聖力という神から与えられる力が絶対必要であり、それを蓄積する器が女性の方が大きい上に出力も上なのだ。
つまり、男性では体術など聖力が関係ない技術面を工夫しないと聖職者同士の男女では必ず女性が勝つほど決定的な差が性差にあるのだ。
「じゃが、オンリーの才能はそんな常識を意図も容易く覆すのじゃ。誘ったワシですら彼奴の才能は男性とは思えないほどじゃ。」
「・・・着きましたよ。サトゥルヌス様。」
「入るぞ!オンリー!」
サトゥルヌスが書庫の扉を開けるとそこには窓際の椅子に座って本を読んでいるオンリーのすがたがあった。
少し身長が伸びたオンリーは可憐という言葉が似合う姿に成長していた。
オンリーの側に読み終えたのだろう本達が山積みされていた。今はゆっくり読んでいるが、あまり興味がそそられない本は一瞬にして速読してしまう為、巨大な書庫の三分の一の量を二年で既に読破し終えていた。
「どうかしましたか?師匠。」
「お主、また姉弟子を辛辣につけ離したな。」
「別に辛辣にしていない。事実を言っただけ。」
視線を少しだけ本から晒したオンリーは無表情に興味なさそうに本に再び目を向けたように見えるが、付き合いが長いものが見れば、凄く居心地が悪そうにソワソワしている事が一目で分かった。
「ワシは別に怒りに来た訳じゃない。この土聖派のモットーは実力主義じゃ。メソメソと逃げた彼奴の事はどうでも良い。じゃが、お主は友達を作りたいなら少しでもその努力はせい。」
「・・・・・・・・・・・努力はしてる。」
物凄く自信なさげにオンリーはボソッと呟いたが、サトゥルヌスからしたら努力しているようには見えていなかった。
いや、会話をしようとしているのは分かるが、男でありながら才能に恵まれてサトゥルヌス直々に弟子となったという異例な立場から男女共に嫉妬の目線に晒されていた。
オンリーはその事を理解している為、あまり仲良くなれる状況を作れていなかったが、そもそも常時、無口、無表情、無愛想と無の三拍子が揃って黙々と日常を過ごしているオンリーに自ら近づく者はいなかった。
そこに弱肉強食な所がある土聖派の特徴があった。
それもオンリーが孤立する状況に拍車をかけていた。
その上、タイタンなど派閥の強者もオンリーを気にかけている事が更に拍車を拍車にかけていた。
「オンリーは友達が欲しいの?」
「タイタンさん。」
「なら、私がオンリーの友達になっても良い?」
これは憐れみでも優しさでもなく、タイタンはオンリーと前々から仲良くなりたいと思っていたのだ。
最初は形でも友達になれば少なくても今よりは仲良くなれるという打算があった。
「やだ。」
「つ!!!!!!」
キッパリ断られた事にタイタンは凄くショックを受けて膝から崩れ落ちて涙を流して悲しんでいた。
オンリーもまさかそこまで悲しむとは思っていなかった。
さっき以上に動揺していた。
「タイタン、此奴はコミュ障なぼっちな癖に初めての友達は生涯の親友(同性)が良いと思っているめんどくさい奴なんじゃよ。」
「めんどくさくない。」
「ぅぅぅぅぅ・・・・そんな・・・友達になったら可愛いお洋服が着せ替え放題だと思ったのに・・・」
安くファーストフレンドを売らなくて良かったと確信したオンリーであった。
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