↓第16話 アシストもありません(仕様)

 夕食を終えると、各々は部屋に戻って身体を休めた。

 カミールは「ゲームをするのじゃ!」と言って、むりやり迷子たちを部屋に招き入れる。

 そしてうららがお土産に持ってきた、パッケージ版のインディーゲームを起動。

 内容は3DアクションRPG。カミールはわくわくしてコントローラーを握った。


「……なんじゃこれ?」


 ふと漏れた第一声が、不穏な空気を予感させる。

 どう見ても壁の向こうから敵がはみ出ていた。


「……バグ?」


 しかも一方的にこちらに攻撃を仕掛けてくる。

 応戦しながらカミールはネットで情報を集める。

 公式のSNSでは、「仕様です」と発表されていた。


「……」


「な? カッケェだろ?」


「おいギザ歯。おまえの感性どうなっとる」


「壁抜けみたいだろ? ディス・イズ・ニンジャ!」


「アホかぁ! 向こうから一方的に攻撃するせいで先に進めん! こっちからの攻撃当たらんし!」


「ごめんねカミちゃん。姉さんのセンス独特だからぁ」


 気の毒そうに謝るゆらら。

 うららはヘラヘラ笑いながら、愉快にキャラを操作していた。


「おいアホ毛! おまえんとこのメイド、頭バグっとるぞ!?」


「…………」


 迷子は沈黙して手元のタブレットを操作している。


「さっきからなに見とんじゃ?」


「教会のアーカイブですよ。まだ全部読んでないので」


 迷子は視線を落としたまま喋る。


「どうやらブラッディティアーの研究では、人間の死体も使われたようです。活動を終えた細胞が蘇るかどうかの実験みたいですが、結果は失敗していますね」


「そりゃそうじゃろ。成功しとったら今ごろ大騒ぎじゃ」


 カミールは「血の涙を流すがいいッ!」と言いながら、画面にひしめくゾンビの群れを薙ぎ払っていく。

 迷子は画面を見つめたまま続きを話した。


「アーカイブには、弟子の『ハリー・ブロートン』さんの記述も多いです。ゼノさんが死亡したあとも独自に研究を続けていたようで、彼の場合は医療目的でウイルスを調べていたとか」


「そいつも吸血鬼なんか? 師匠と違って人間を滅ぼす気はないようじゃな。ま、争い事はよくない。死んだら一緒にゲームもできんしな」


 カミールはやられたパーティーメンバーに蘇生魔法をかける。……が、復活する気配がない。システムのバグかと思いネットで検索したら、「リアリティを追及した仕様です」との回答が記載されていた。


「おい、ギザ歯。我は殺意の炎に目覚めそうじゃぞ?」


 カミールがコントローラーを持ったまま手をプルプル震わせていると、


「――ん、死体がよみがえらない?」


 迷子は顔を上げてモニターを見た。

 死亡したキャラのステータスに、お墓のマークが点灯している。


「どうしたんじゃ?」


「そういえばウェルモンドさんは、お墓を掘り返していたところを見られたんですよね?」


「ああ、4年前の話しじゃが」


「もし彼が死体を使ってウイルスの実験をしていたとしたらどうでしょう? 大工と見せかけて、じつはブラッディティアーの研究者だったとか?」


「まさか。あいつはそんなインテリには……」


「でも、墓荒らしの理由は言わないんですよね?」


「う……まぁな」


「怪しいと思いません? だって墓荒らしですよ? 普通しないですって」


「そうじゃが、でも仮にそうだとして、ヤツが研究をする理由はなんじゃ? 実は吸血鬼の子孫で、一族の復讐を果たすつもりだと?」


「わかりません。でも、行動するには理由があるはず。墓荒らしの真相が思わぬところで繋がるかもしれませんし、ウェルモンドさんに聞いてみる価値はあるかと」


「まぁ、聞き込みもまだじゃしな……」


 墓荒らしの理由は、付き合いの長いカミールも気になっていたことではある。

 それがわかるのなら、この際はっきり聞いてみたいと思った。

 彼はなにをしようとしていたのか? ほんとうに研究者なのか? 今回の事件と繋がっているのか?

 今の段階では、想像を巡らせることしかできない。


「ということで寝ましょう! 明日に備えわたしはこのへんで――」


「待つのじゃ」


 部屋を去ろうとする迷子の襟首を、グイと掴むカミール。


「まだ夜はこれからじゃ」と言いながら肩に手を回すと、強制的にコントローラーを握らせた。


「え? ちょ、カミらん?」


 戸惑う迷子に、悪役みたいな笑みを向けるカミール。

 迷子は助けを求めたが、うららもゆららもいつの間にか眠りにおちていた。


「さぁ、いくのじゃ!」


 このあと「仕様」だらけのゲームを、二人は攻略することになる。

 まさに血の涙を流す思いで、迷子はコントローラーを握り続けた――

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