↓第13話 ィ……誰もいません

 しばらく歩くと、ウェルモンドの家が見える。木で出来た小さな家だ。

 迷子は入り口に立つと、軽くドアをノックした。


「ウェルモンドさ~ん、迷子で~す。事件のことでお伺いしたんですけど~」


 呼びかけるが、返事がない。

 そのままテラスに回り、窓から室内を覗いてみる。


「う~、留守ですかね~?」


「ヤツにも仕事があるからな」


 腕を組むカミール。するとゆららが、


「いつごろ帰ってくるのぉ?」


 と、問う。カミールは室内に視線を移した。


「夕方ごろにはいると思うが……いつもあそこで飲んどる」


 そこには木で出来たテーブルがあった。

 上には酒瓶とパンが置いてある。あとはペンチとブローチ。小さな器には、細かな装飾用の宝石が入っていた。


「お皿の上にハムやチーズがあります。おいしそうですね」


「おい迷子、食べ物の捜査に来たんじゃねえぞ」


「スンスン……」


「だから食べ物のことは――」


「違いますようららん」


「え?」


「臭いません? ほら、こう……花火のような」


「すんすん……あ、ほんとだ」


 匂いを確かめる迷子とうらら。

 横からゆららが顔を出し、


「火薬ねぇ」


 と、小さく呟く。

 迷子はさらに室内を観察する。

 床や壁に大工の道具が置いてあった。しかし火薬を使うようなものは……ない。


「う~ん、どこから臭うんでしょう?」


「どうでもいいだろ。事件とは関係ねぇって」


 うららはそう言うが、迷子はどうも気になっている。

 カミールはなんでもないように、こんなことを言った。


「どっかに猟銃でも置いとるんじゃろ? この辺ではクマやオオカミが出るからな」


「そ、そういえばビリーさんも言ってましたね……」


「気をつけるんじゃぞ。食い荒らされた羊が森なんかで発見されとる」


 迷子は獣たちに囲まれる姿を想像して身体を震わせる。襲われたらひとたまりもない。


「ら……ラムゥ……!!」


「おまえ、それ言いたいだけじゃね?」


 うららは白けた視線を主人に向ける。

 ゆららは「大丈夫よメイちゃん。森に行くときは私がついていってあげるからぁ」と、小さな身体を抱き寄せて頭を撫でた。


「ほんとにクマやオオカミだけなんですかね? 吸血鬼とかもいるんじゃ……」


「いや、それはねぇだろ」


「わからんぞギザ歯。何せここは伝承の地じゃ。背後から首筋をガブリといかれるかもしれんぞ?」


 カミールは、わざと脅かすようなことを言う。


「あわわわわ、たいへんですカミらん! とにかく一人は危険です! 万が一に備え、才城家から『秘密兵器』を取り寄せましょう!」


 口元をわななかせ、迷子は端末を操作する。

 どこかにメッセージを送ると、「これでばっちりです!」と、鼻息をフンスと荒げた。


「おい。なにしたんだよ?」と、うらら。


「秘密です」


「アホ毛のやることじゃ。イヤな予感しかせん……」カミールが白けた目を向ける。


「そんなことより次です。ウェルモンドさんがいないんじゃ意味ありませんから」


 迷子は気持ちを切り替えて丘の向こうを指差す。

 ビリーに端末を借りるつもりだろう。


「さぁ、行きますよ! 時間はムダにできませんから!」


 ズンズン進む迷子のあとに続くカミールとメイドの二人。

 ひとまずウェルモンドの聞き込みは時間を改めることにした。

 あたりは静かになり、おだやかな風が吹く。


「…………」


 だが、誰もいなくなったわけではない。

 このとき室内から、去っていく迷子たちを見つめる一つの視線があった。

 トリガー・ウェルモンド。

 室内で息をひそめる彼の手には、弾の入った猟銃が握られていた――

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