↓第9話 ブッコロされると思いました

「ゼェ……ゼェ……」


 迷子は勾配を上り切り、息を切らした。

 教会の反対側は意外と平地だったので、そこでひとまず呼吸を整える。


「なんだよ迷子、もうへばったのか?」


「うららんは体力オバケなんですよ。わたしは身体より頭をつかうのが仕事ですから……」


 そんな言い訳をしながらふと顔をあげたのだが、


「……あれ?」


 カミールがいないことに気づく。

 よく見ればゆららもいなかった。


「ぜぇ……ぜぇ……ま、……待たんかぁ~……!」


 はるか後方から、カミールはゆららにお姫様抱っこされてやってきた。

 かなり体力を消耗しているようだ。


「カミらんわたしより弱っちいですね……」


「う、うるさいぞアホ毛! ひきこもりを舐めるなぁ~……!」


「カミちゃんは運動よりゲームが得意だもんねぇ」と、ゆららはにこにこしながら答える。


「わ、我はランカーだぞ! ナメおって……! 貴様らの血を……血の涙を、流す、が……いい……ッ!」


「おまえが泣きそうじゃん」


 中二病ポーズでキメようとしたカミールに、すかさずツッコむうらら。

 もはや口から魂が抜けそうだ……。


「あたしがおぶってやろうか?」


「うるさいぞギザ歯! ニンジャの助けなどいらん!」


「もう抱っこされてんじゃん……」


「ウフフ、カミちゃんお人形さんみたい~」


 愛でるようにカミールを抱き寄せると、ゆららはおもいっきり頬ずりする。

 普段なら手で払うカミールだが、もう体力がなくてされるがままだ。


「はぁ、スキンシップは勝手にやってください。とりあえずわたしは神父さんに会いますので」


 迷子は大きく息を吐き、ぐぐーっと背を伸ばす。

 教会の扉が開いていたので、中に入ろうとした。


「――!!」


 が、その瞬間。

 うららが咄嗟に迷子の身体を抱き寄せ、そのまま数メートル先に跳躍する。


「わうっ!?」


 なにが起こったのか理解できない迷子。

 するとさっき自分が立っていた場所に、『銀の杭』が刺さっていた。


「なんだテメェ!」


 戦闘モードに移行するうらら。鋭い眼光を屋根に向ける。

 ――人がいた。

 太陽を背に、一人の男が佇んでいた。


「キサマたちこそ何者だ?」


 謎の男は問いかける。

 狙った獲物を逃さない、ハンターのような、あるいは獣のような目つきだ。

 殺気もさることながら、気になるのはその出で立ちだ。

 あまりにも目立つ。

 どういうわけか、黒塗りの棺桶を背負っていたからだ。


「ええ~~い! やめい、やめんかぁ~~!」


 そこへ、へばっていたカミールがやってきた。

 ゆららの腕から降り、大きく手を振って男に声をあげる。


「こやつらは我の眷属じゃ! 安心せい!」


 その言葉を聞いた男は、訝しい表情をしながらも攻撃の手を緩める。

 相手を探るように視線で警戒しつつ、軽々と跳躍して屋根から飛び降りた。


「……」


 男はまだ警戒している。

 そこへカミールが口を挟んだ。


「彼は大工の『ウェルモンド』じゃ! 『トリガー・ウェルモンド』。我の城もこやつに修理してもらっとる!」


「……」


 黙していたウェルモンドは、やがて口を開く。


「ミズ・カミール、彼女たちは何者で?」


「探偵じゃ。このあいだの事件の捜査をしてもらっとる」


「捜査……」


「ウェルモンドよ、なにか知っていることがあれば話してくれんか?」


「……すまないミズ・カミール。俺から語れることはない」


 棺桶を担ぎ直すと、


「仕事は終わった。あとは神父に聞いてくれ」


 静かに帽子を被り直し、彼はこの場を去る。


「なんか変わった人? ですね……」


「う~む、悪いヤツではないんだがな」


 彼の背を見つめる迷子に、カミールはフォローを入れる。

 突然襲ってきたり棺桶を背負っていたり、いろいろ気になる男だ。


「とりあえず中に入るのじゃ」


 気を取り直してカミールはみんなを案内する。

 教会の中には、パイプオルガンの音が響き渡っていた――

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