↓第2話 のんすとっぷ(プロローグ2)

 20××年。

 著名なミステリー作家、『才城リリィ』は死んだ。

 彼女が死ぬまでに発表された小説は数知れず、その物語は世界の人々に愛された。

 家族に看取られながら寿命で死ねたことは、彼女にとっては幸せだったのかもしれない。


 ただ一つ心残りなのは、最後の作品が未完に終わったことだ。

 これには世界中が落胆し、悲しみの声をあげる。


 ――ところが。


 リリィが死に際に放ったことばが、再び世界を揺るがすことになった。


『遺作は完成している』と。

『その作品をこの世界のどこかに隠したらしい』、と。


 この言葉を受けた孫娘――『才城迷子さいじょうめいこ』は約束する。

 わたしがかならず遺作を見つけてみせると。

 おばあちゃんとの約束を果たすと。

 そう意気込んだのだが、ここで問題が生じた。


 ノーヒントだった。


 遺作の在処はおろか、それに関する伝言すらリリィは残していなかった。

 手掛かりは、ない。

 この状態でどうやって遺作を探せというのだろう?


「…………」


 迷子は顔をあげる。

 これはリリィからの挑戦状だ。

 世界最強のミステリー作家が残した謎は、一筋縄ではいかない。

 それを解明するには、自分はまだ実力不足だと。

 だったら実力をつければいい。

 自分が探偵になって、謎に立ち向かえばいい。

 世界中の謎を解決して、世界最強の名探偵になってやる。

 そう決意した迷子は、物語の主人公になることを選んだ。

 小説を読む側から解く側へ。


「迷ってる場合じゃありません!」


 瞳の奥に閃光が走る。

 見据える先には、解決編の未来が待っていると信じて。

 真っ直ぐ迷走する彼女は、止まらない。


 今ここに、『迷探偵』が、爆誕する――

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