第3話 開場そして開幕
ジャスミンとの待ち合わせ場所から少し移動した先にあるウィルテリア演舞場。
ここが本日の最終目的地。
父上と古い友人らしい国外でも高い評価を受けているシューベンハルツの偉大な音楽家・ウィルテリア氏が「貧富の差関係無く、子ども達に上質な音楽を」という思いから、私財を投げ打って作られた国外でも類を見ない程大型の演舞場よ。
まぁ“貧富の差関係無く”とは言ったけれど、上演されている公演1つ1つに設定されている破格的な値段設定から、ここに通えるのはシューベンハルツでも一部の富裕層に限られているのよね。
しかし、とても個人の資産により建設された物とは思えないわ。
優美ながらも威厳を感じさせる外装、でも見た目だけではなく、肝心のホールも音響設備は最新の物を取り入れているとの事。
因みに今話したのは全て、初めてここで行われた演奏会に招待された時、父上が聞かせて下さったのよ。
重厚なエントランスから広いロビーに入ると、ジャスミンが持っていた鞄からチケットを2枚取り出した。
「もう券は購入してございます。周囲の国民がアリス様の正体に気付く前に早くホールへ参りましょう」
ジャスミンとしては人通りも多く明るいロビーにいるよりも、薄暗く殆どの人が前を向くホールへ入った方がバレないと踏んだみたい。
その考えには私も賛成だったので、
「そうね、行きましょう」
と返事をし、2人でホールへと向かった。
今日の会場は収容人数500人で、演舞場の中では“中”にあたる。
2階席も設けられているんだけれど、私達が本日鑑賞する席はまさかのその2階席、しかも端の端だった。
「ちょっとジャスミン!!幾ら何でもこれはやり過ぎじゃない!?この席からじゃ出演者が小人にしか見えないじゃないの!!」
手配をしてくれたジャスミンには感謝しているけど、つい不満を言ってしまう。
しかしジャスミンも言われてばかりではない。
「当然でしょう!シューベンハルツの王女ともあろうアリス様が最前列にでも座っていたら、目立って仕方ありません!」
確かにこんな隅っこでは、誰も私の存在なんて気付かないでしょうね。逆にこんな辺鄙な席を希望する方が目立ってしまいそうだけど。
父上と共に招待された時は王室専用の特等席が用意されていたから、このあまりにもな差に愕然としてしまったけれど、脱走の手配含め骨を折ってくれたんだものね。
次第に他の席も埋まっていき、開園時間直前には全ての席がきっちりと観客で埋まっていた。
やはりそれだけ人気なのよね、“あの方”の演奏は…。
フッ
そうこうしてる内にホール内の照明が落ち、辺りが暗くなった。
周囲が開演に合わせて静まり返り、何だか緊張感さえ漂ってくる。
ゆっくりと前の幕が上がっていく、
いよいよ始まるのね…。
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