第2話 城外脱出作戦 決行
午前中の公務·勉学が終わり、大きなダイニングルームで1人のんびりと昼食をとる。
ふぅ、父上が別の公務に出られているから、この時間は気が楽だわ。
これが終わればようやく“あの方”にお会い出来るのね…
ナプキンで口を拭い、横にいた従者の方を向いた。
「今日の午後からの予定は?」
「本日は夕食までご予定はございません」
うふふ、本当は知ってたのよ。
略式的に聞いてみただけ。
わざとらしく「そうだったわね」なんて言いながら、椅子から立ち上がった。
「それでは、私は夕食までお部屋で休ませて頂きます。部屋には誰も入れないで頂戴」
「かしこまりました」
従者の返事を聞いた所で歩を進め、使用人数人を引き連れてダイニングルームを後にした。
「おやすみなさいませ、アリス様」
「ありがとう、おやすみ」
部屋の前で使用人に微笑み、ドアを閉める。
このままベッドへ…という訳にはいかない。
ドアの内側にぴったり耳を付け、外に警護以外の人間がいなくなった事を確認。
よしっ、いなくなったわね。
「早速準備に取り掛からなくっちゃ」
駆け足でベッド下まで向かい、隠しておいた革のトランクケースを取り出し開けると、中から取り出したのはドレスと帽子。
とは言ってもお城で着ているような物ではなく、国民女性がお出かけ用におめかしして着るようなドレス。
え、何でこんなドレスを持っているのかだって?
これは私の側近の1人であるジャスミンが他の従者の目を盗んで買ってきてくれたものなのよね。
それだけじゃない、
ジャスミンには私が立てた“計画”を実行してもらう為まさに今、城外の指定しておいた待ち合わせ場所へと向かってもらっている。
私も早く行かなくちゃ、
この計画が頓挫したら私だけじゃなくジャスミンにまで迷惑が掛かっちゃう。
…まぁこの時点で大迷惑だと思うけど。
用意していたドレスに着替え、帽子を目深に被ると鏡で自分の姿を確認する。
よし、帽子で顔が隠れるからパッと見じゃシューベンハルツの王女だなんて思わないわね。
“変装”は完了、
これより城外脱走へと移らせて頂くわ。
この部屋で唯一外との接点である窓から顔を出し、人の目が無い事を確認する。
よし、誰もいないわね。
「よい、しょっと」
窓の縁に足を掛けて外側へ移る、怖いけど全ては脱走の為よ。
城壁にある細い取っ掛かりに足を移動させると蟹の様に数歩歩く。
ここからよ、一番の難関は…。
少し離れた所に渡り廊下があるんだけれど、この足場の悪い取っ掛かりから飛んで移動しなければならない。
落ちたら最悪死ぬわね、
でもここまで来たら後には引けない、早くしないとバレてしまう…
「えぃっ!!」
……
やった!!
何とか自分を奮い立たせて飛び込んだ結果、見事渡り廊下に飛び移るのに成功した。
あー怖かった。
でもここまでくればもう安心ね。この渡り廊下は警備が手薄だし、昼食の片付けが終わり人気のなくなった厨房へと続いているから、そこの勝手口から外へと容易く出る事が出来る。
アリ1匹入れない要塞と言われる我が城も、内側からならここまで守りが脆いとは有り難いやら悲しいやらで複雑な気分だわ。
そうして警備の穴を憂いながら改めて帽子で顔を隠し、ジャスミンと落ち合う予定の場所まで小走りで向かった。
私が指定したのは、城下町にある何の変哲もない一角。
「うぅ~…あっ!」
待ち合わせ場所へ到着すると、先に来ていたジャスミンが私に気づいた途端泣きそうな顔でこっちへ突進してきた。
「アリス様遅かったではないですかぁ!!ここでお待ちしている間、お城にバレたのではないかと思って気が気では無かったのですよ!!」
「ご、ごめんなさい、少し落ち着いて」
あまり人気の無い場所を選びはしたけれど、全く人が来ない訳では無いこの場所。
こっちが圧倒されるような剣幕で訴えかけてくるジャスミンを見て、周りが不審に思ってはいけないと思いどうどうと宥めるも、当の彼女は聞く耳を持てない程不安だったみたい。
「落ち着いてなんていられますか!!アリス様を城下町の演舞場へ行かせる為に城外脱走の手助けをしたなんて知られたら、反逆罪で断首刑にされてしまいます!!」
そう、今日私が身の危険を冒してまで城から出た理由。
今ジャスミンが言った通り、身分を隠して演舞場で定期的に行われているとある音楽公演を観覧する為。
「え?それだけの為にお城抜け出してきたの?」と通常の感覚を持つ皆様ならそう思うかもしれないわね。
でも、でもね、この公演は私にとっては本っっ当に大切なものなの。
そのせいでとばっちりを受けているジャスミンには申し訳ないと重々承知しているけど。
だってこの公演は、“あの方”がご出演されるんだから……
っていけない!!誰に向けてなのか分からない独り言を頭の中で思い浮かべている間にもうこんな時間!!
「ジャスミン行くわよ!!開演時間が迫ってるわ!!」
「えっ!?ちょ、ちょっと待って下さいアリス様…じゃなかった!!待って~!!」
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