大国の王女は推しと初恋の君との間で揺れ動く

米穀店

第1話 ある日の憂鬱な朝食

「全くお前という奴は!少しは一国の跡取りという自覚を持たんか!」


大国シューベンハルツの国王である父上が真っ赤な顔をしながら、淡々とパンを口に運ぶ娘の私へ怒鳴りつけた。

普段は温厚な父上の怒りっぷりに、最初は横で静かに見守っていた側近達も正に目を泳がせて私達の様子を伺っている。


「聞いておるのかアリス!?」


ドンッ!!


父上が私と共に卓として囲んでいた長テーブルを力強く叩いた。

するとちょうど私と父上の間に置かれていた山積みの書類達がズササと雪崩の如く崩れ落ちていく。


その中からたまたま1枚の紙がヒラヒラと私の目の前まで飛んできた。そこには父が親しくしている隣国の王子の肖像が描かれ、横にはその彼のものらしきプロフィールがみっちりと書き込まれている…いわゆる釣り書、見合いの申込み書ね。


そう、ここにある塔の様に積み上げられた書類は全て全世界に点在するシューベンハルツと親交のある国から届けられたお見合いの申し込み。


こんなに沢山の婚姻の申し込みが送られてくるなんて、私って人気者…という訳ではないのよね、残念ながら。


私の父上が統治するシューベンハルツは世界一の法治国家とも称されている。そんな大国唯一の子孫である私と婚姻関係を結べば、他の中小国にとってこれほど強固な盾は無い。


つまり、

この山積みの書類に記された何百、何千に上るであろう見合い相手の誰1人、

私を好きになったどころか私の人となりも知らないまま婚姻を申し込んでいるという事なのよね。


はぁ、と1つ溜息を吐いてフォークを置くと、目の前で私をジットリ睨みつける父上なんて目もくれずナプキンで口元を拭って差し上げた。


「父上にご心配頂く必要などございませんわ、自分の結婚相手などすぐに見つけますから。今はまだ心の琴線に触れる相手がいないだけで…」


「何を言っておるのだ!!そんな猫の様に気まぐれなお前の琴線なんぞに委ねていたら、我が国は廃れに廃れて、ぺんぺん草1本生えぬ更地になってしまうぞ!!」


そんなバカな…と言いたいけれど、まともに返していたらそれこそ父上の思うツボだわ。

説教を長引かせないようピシャリと終わらせなきゃ。


「とにかくっ!!時が来ればいずれこのアリスが自ら結婚相手を選びますから!!これよりアリスは午前の公務に取り掛かりますので失礼します!!」


「これ待ちなさい!!まだ話は終わって…」


バタンッ!!


最後は半ば強引に話を切り上げ、自分の部屋へと避難した。


全く、朝から父上の小言を聞かされて気分が台無しだわ。


今日は、“あの方”と会える最高の日だというのに…

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