第69話 うん、飲んだ?




 まだヒュージスライムは燃えていた。火球が直撃した瞬間よりは幾分か火力は落ちたが、スライムの体液が燃料になるのか、めらめらと光を発している。


 体育座りしながらサク、ウーデと共にそれを見守っているのだが、文化祭かなんかの後夜祭に校庭でキャンプファイヤーを見つめるみたいな感じになっている。


「まあ、俺の高校後夜祭にキャンプファイヤーなんて無かったけど」


「…実際後夜祭にキャンプファイヤーやる学校あるのか?」


「フィクションじゃない? ほら、実際に生徒会は権力持ってないし、屋上には行けない的な」


 あまり全国の高校生の夢を壊すような事は言うなよ。でもサクとウーデもキャンプファイヤー未経験らしい。良かった、仲間がいて。


 高校への憧れで言えば、高校行けば自然と彼女が出来るもんだと思ってたな。


「はは、後はあれか、恋人は全然出来ない」


「「…うん?」」


 裏切り者…!!


 二人との間に圧倒的な溝と壁を感じ、俺は目を逸らした。スライムに目をやると、燃料が尽きたのか、ようやく火が消えかかっている。


「三人とも大丈夫?」


 火が落ち着くのと同じタイミングで興奮が冷めたのか、シズが近寄ってきた。顔は熱っており、息も荒い。


 直前まで興奮してたからとも認識出来るが、これはMPが一気に減った事から来るショックによる症状だ。初心者魔法使いにはよく見られるものらしい。


「シズさん、あんた気を付けなさいよ…」


「う…、つい大きな力を目の当たりにしちゃうと大興奮しちゃうのよね」


「もう俺たちは慣れたよ。何年も一緒にやってるからな。それはそうとフクロウ、ありがとう。報酬なんだが––」


「––いや、もう貰ってる」


 サクが懐をガサゴソと探るのを見て、すぐに止める。彼らに告げたように、スライム討伐の手助けに関する報酬は感謝の言葉だ。たった今貰った。


「待ってよ、良い人みたいじゃん」


「みたいって言うなや」


「俺とシズの知ってるフクロウは、配信者からゴールドを巻き上げ出てたからな。警戒はするさ」


 立ち上がり、改めて三人を見てみた。腰を下ろすサクとウーデはシズを見上げ、楽しそうに話している。シズもイジられているが、満更でもなさそうに笑顔で返す。


 良い友人関係だなと、素直に感じる。下心の無い純粋な関係。作ろうと思っても簡単にはいかないからこそ、やはり大切な物になってくる。


 柄にもなくそんな事を考えてしまった。火も落ち着いたし、ヒュージスライムのドロップ品を確認しよう。体液はまあ全て燃え尽きただろうが、核は…。


「おお、綺麗に残ってるな」


「何が?」


「ヒュージスライムの核、ドロップ品だ。この大きさだと結構な額になるんじゃ無いか?」


 そう説明しながら転がっている核を持ち上げる。寸前まで火の中にあったからか、若干熱いが、すぐに冷めるだろう。


 スライムの核はアイテムやアクセサリーの素材として活用されており、粉末状にするため、大きさとその密度によって値段が決まる。


 今日のはバレーボール程の大きさで、重さもしっかりあるのでそれなりの値段になりそうだ。回復薬20個分の値段相当かな。


「ほれ、お前らの収穫品だ」


 シズに核を投げ渡す。重さからバランスを崩すかと思えば、しっかりキャッチしたので、力方面にステを振ってるのが分かる。


 いや魔法使いに力はそんな要らんだろ…。


「サク、フクロウにも分けるでしょ?」


「当たり前だ」


 シズの質問に即答し、核を受け取ったサクは剣でそれを砕く。大きさはちょうど半分程になり、それを手渡して来た。


「…はいはい、貰っとくよ」


「よし、これで気が晴れた」


 スライムの核をインベントリに入れ、交換するように回復薬を取り出す。コハルさんと出会った日に、野草を採取するついでに採った薬草を使って作った物だ。


「ほら、三人ともダメージあるだろ。無かったとしてもバフ効果あるから飲んどけ」


「おお、闇医者手製のポーションか」


「そう聞くとなんか複雑じゃない?」


「無料で飲めるなんて運が良いわね」


「……」


 俺に対して気を許してくれているのか、何の疑いもなく三人は回復薬を受け取り、使用する。


「俊敏性上昇のバフか、凄いな…」


「…うん、飲んだ?」


「「うん?」」


「え、ちょっと待って?」


「いや、飲んだっしょ?」


 その一言と俺の声音から察したのか、サクとウーデは回復薬の入っていた瓶を握りしめ、がくっと項垂れる。


「それタダとは言ってないからさ、まあ頼みを聞いて欲しいっていうかぁ〜––」


「––あんたさぁ!!」


「ちょっと待って暴力反対!!」


 涙目のシズに胸ぐらを掴まれ、ぶんぶんと揺らされる。両手を上に挙げ、抵抗しない意思を伝えるも、どうやら無意味なようだ。


「なんか格好いいなとか思ってたのにぃ!」


「お金は、要求、しない、からっ!」


「…シズ、コイツと会ったのが運の尽きだ。話を聞こう」


 サクはそう言ってシズの肩に手をやる。


「うるさい!」


「ええ!?」


 シズは反射なのか、大きく振りかぶってサクの顔面に拳を繰り出した。綺麗に吹き飛ぶサクを見て、ウーデと俺は驚きのあまり大きな声を出してしまった。


「きゃあごめん!」


 地面に倒れ込むサクに、慌ててシズが駆け寄る。診察スキル的に大したダメージは無いが、それはそうと綺麗に飛んだな…。


「…落ち着けって。それで、頼みって?」


 倒れるサクをシズが起こす。献身的に見えるが、コイツがぶん殴ったからそうなっているわけなので、何とも言えない。


 てかサクが殴られてなかったら俺が殴られてたんじゃね?


「フクロウ?」


「え、あー、美味しい料理食べたいだろ?」


「「料理ぃ?」」


 俺から料理という単語が出る事がそんなに不思議なのか、彼らは首を傾げて復唱する。


「ああ。オススメの店がある。夜暇だったら来てくれよ」


 俺はそう言いながらコハルさんのお店が描かれたチラシをサクに手渡す。


「…はあ、恩人なんだ行くしかないな」


「ははは、待ってるぜ?」


 さてと、他のプレイヤーにもじゃんじゃん啓蒙活動お店の宣伝やって行きますか。

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