第67話 青春の1ページ





「…いや、絶対嘘でしょ」


「凄い胡散臭いですね」


「あはは、そんな信頼ねえんだ!」


 闇医者としてのこれまでが、ここまで露骨に現れるとは。活動によって界隈での知名度が上がるこの雰囲気、とっても闇医者っぽい。


「俺の事を信じられないのは、まあ仕方ない。でもさ、三人でソイツを倒せるのかい?」


 そう言って俺は、ジリジリと距離を縮めつつあるヒュージスライムを指さす。


 両手剣を持った戦士のみがヒュージスライムと面と向き合って対峙しており、俺に言われて思い出したのか、魔法使いとエルフも武器を構えた。


「その人の言う通りだ。俺たちだけではまだコイツを倒すには早い」


「でも絶対なんか要求されるよ!?」


「あの仮面の下では、きっと下衆な表情を浮かべてるに違いない…」


 おおい、なんか最近好き勝手言われる事多いな。確かにニヤついてはいるけど…。


「…ふっ、死ぬよりマシだろう」


 戦士はそう言って両手剣を構える。


 この頼りたく無いけど頼らざるを得ない感じ!


 急を要する場面。噂を聞く限りロクな医者じゃないけど、この闇医者しか今はいない。みたいなこの状況!


 久々の闇医者ロールプレイ、沁みるぅ…。


「力を貸して欲しい」


「ああ、そのためにここに来た」


 俺は木の上から降り、音もなく着地する。体術スキルの受け身による効果だが、なんだか強者感が出て俺は好きだ。


「まずは名前を聞こうかな」


「俺はサク、エルフがウーデ、杖を持ってる奴がシズだ」


「なるほど。じゃあまずは状況把握からやっていこう。俺がヘイトを集める」


 ヒュージスライムに向けてもう一度ナイフを投擲する。今度はスライム状の体液に阻まれ、核には当たらなかったが、標的はサクから俺に移ったようだ。


「大丈夫なの!? 意外と速いわよ、ソイツ」


「大丈夫。なんせもっと速くて重い攻撃を捌いてきたんだからな」


 ヒュージスライムの攻撃モーションは大きく3つ。体当たりと体液を飛ばす遠距離攻撃。そして瞬間的に体液を硬化させ、針状になったものを押し付けてくる近中距離をカバーする攻撃。


 この見た目の重々しさに反し、動きの素早いヒュージスライムから繰り出されるこの攻撃陣は、見た目の割にかなり凶悪なものとなっている。


 まあ、エーテルに比べたら天と地程の差があるわけだが。


「ほら、要らない心配してないで、情報を共有しろ。コイツには何が出来て、どんな攻撃が通じなかったのか。言葉にして理解し、仮説を立てろ」


 攻撃を躱しながら、彼らの手助けになるよう声をかける。敢えて寸前のところで回避する事でヘイトを集中させつつ、ヒュージスライムの行動を体当たりと針出しに固定する事で要らない事故を防ぐ。


「…すげぇ」


「見惚れてないで、言われた通り情報を出そう」


「まず私たちの攻撃は一切合切効果無かったわ。ベタベタに邪魔されて核に当たる気がしない」


「うん、僕の矢もシズさんの魔法も無意味だった」


 ヒュージスライムの防御力を支えるのは、核を守るスライム状の体液だ。


 デカければデカいほど、核を守る体液の量は増えていくわけで、見た目で厄介さを判別できる。


「削ろうにも本体から離れた体液がスライムに変化するから、更にやり辛くなる。一撃で吹き飛ばせる火力が欲しい」


 そう、それがスライムとヒュージスライムの大きな違いだ。体液を削って核を守る体液を減らそうとしても、削った体液がスライムへと変化し、実質的な的な数は無限に増えて行く。


 チュートリアルエリアにいて良いような性能ではまず無い。


「でもアイツの体液が移動した瞬間を狙ったあの人の攻撃が通ってたりもしてたわよ」


 …さて、頃合いかな。


「サク、こうた〜い」


「はぁっ!? いきなり…」


「よし頑張れ!」


 俺はさっさとヒュージスライムから距離を取り、サクの肩を掴んで追いかけてくる巨大の前に差し出す。


「イカれとんのかぁ!?」


 サクが体当たりを避けて大声でそう言う。


 走り回ってギリギリ攻撃を回避するサクと、一生懸命にサクを追いかけるヒュージスライム。まるで青春の1ページだぁ。


「よし、じゃあ作戦はどうする?」


「いや、あれ助けないと…」


「大丈夫。当たりそうになったら俺がなんとかするから。ほら、対策は?」


「えっと、具体的な方法は決まってないけど、高火力で分裂させずに核を破壊するか、さっきあなたがしたみたいに体液が移動した時を狙って核を破壊するか」


「うんうん。じゃあ高火力か精密攻撃か、どっちにする?」


 ヒュージスライムとサクの追いかけっこを横目に、二人へ問いかける。攻撃モーションに慣れてきたのか、サクの回避行動に無駄が無くなってきていた。流石は別ゲー経験者。


「…高火力、じゃないかな」


 問いかけに答えたのはエルフのウーデだった。弓を片手に考え込むようにしていた彼だったが、回答に自信がありそうだ。


「なんでそう考えた?」


「フクロウさんの攻撃が通ったのは、多分投擲スキルのレベルが高かったからだと思う。俺やシズさんのスキルレベルじゃ、タイミングを見計らっての精密な攻撃は出来ないんじゃないかな」


「確かに…」


 ウーデの言う通り、俺のナイフがサクを助けられた要因として、エーテル戦にてレベルが引くほど上がった投擲スキルにある。


 技術と言うのは細かくなればなるほど難しくなり、経験が必要になってくる。それを始めたばっかりのプレイヤーに求めるのは酷だろう。


「じゃあ高火力か」


「誰が一番火力を出せるんだ? ヒュージスライムと青春を謳歌してる奴?」


 俺は、回避に段々と余裕が出来始めているサクを指さす。しかしまだツッコミを入れる余裕は無さそうだ。


「まあ攻撃力のアベレージは高いけど、一撃だけで言えばシズさんの溜め魔法かな」


「でも、あんなのダメージが高いだけで当たらないわよ」


 シズはそう言ってヒュージスライムから目を背ける。ダメージの心配はしてない。どちらかと言えば当たるかどうかの心配のようだ。


 魔法スキルは取っていないため、エアプではあるのだが知識はある。


 低レベルの魔法でも、溜めることによって、追加でMPを消費する代わりに火力の嵩増しが可能になる。


 命中率に関しては、溜めても溜めなくても変わらなかったはずだ。俺が見ていた限り、命中率に不安は無いんだがな…。


「当てる自信が無いのか?」


「そりゃ無いわよ! 普通は溜めてる間に悟られて警戒されちゃうもの。飛んでくるって分かる攻撃なんて回避されちゃう」


 あー、なるほど。


「普通なら、な。アイツは普通じゃないから、心配しなくて良い」


「「ええ?」」


 やはり情報だな。


 情報が正義だ。

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