第66話 あわよくば
【始まりの草原】。名前の通りRSFのプレイヤーが一番最初に訪れる始まりのサバイバルエリア。
面積は広大で、八割を草原が埋め尽くしている。残りの二割は森林エリア、洞窟エリアと別れており、全てのプレイヤーがこのエリアでRSFというゲーム性を知る。
一番最初のサバイバルエリアと言う事で、出現するモンスターは初期レベルでも倒せるよう設定されており、チュートリアルとしての役割を担っているわけだ。
出現するモンスターは、ツノがチャームポイントの【ホーンラット】。赤い核が弱点の【スライム】。色毎に討伐報酬の異なる【カラーグレムリン】。
他にも出現率の低い上位モンスターがいたりもするが、主に遭遇するモンスターはこの三種類だろう。
コイツらの攻撃モーションは少なく、楽に対処出来る。それこそエーテルの脅威度を100としたら、ホーンラットどもは1にも満たない。
ビルズのイベントを考えた鬼畜運営とはまるで思えない、初心者にも優しそうな難易度設定だ。
とまあ、ここまで始まりの草原が如何に優しく、初心者にとって素晴らしい環境なのかと説明してきたが、これだけじゃ説明不足と言われてしまうだろう。
「始まりの草原をくまなく探索した闇医者フクロウことヨル先生が、ここの理不尽設定を紹介して行くぜぇ!!」
まずは普通に現れるイレギュラーモンスター!
初心者がチュートリアルとして探索する場所にも、このイレギュラーは普通に起きる。ヤバい。
以前にも、アプデ直後に我が天敵ハンティングウルフ先輩が初心者を破壊し、蹂躙していた。俺もピノーがいなかったらしっかりぶっ殺されていただろう。エグい。
しかも何が理不尽かって、イレギュラーモンスターに対応できるような上位プレイヤーは最前線を拠点にしており、始まりの草原はモンスターがどこかに消えるまで討伐されず、荒らされ続ける事だ。イカれてるぜぇ!
続いて紹介するのは、調子に乗ったプレイヤーを狩る上位モンスター!
モーションの少ないモンスターを、簡単に倒せると知ったプレイヤーはさらに奥へと進む。しかしそこに待つのは、分裂する【ヒュージスライム】に、巨体かつ高い知能を持つ【ボスグレムリン】。そして【ホーンラットの群れ】。
レアエンカウントな彼ら上位モンスターは、しっかり知識と準備を備えなければ軽くその命を吹き飛ばされてしまう。
いやはや、調子に乗ってゴールドグレムリン厳選してた時、急に赤くてデッカいボスグレムリンが現れた時は死んだかと思ったぜ。
「…いや死んだんだったか」
俺の最初のデスペナは凹凸平野での
完全ランダムで、自分のレベルじゃ到底手に負えない上位モンスターが現れるわけだからな。
ある種イレギュラーモンスターの脅威が他のエリアの倍あるって言っても良い。
「こんな理不尽な世界なんだ。準備が不足しがちな初心者プレイヤーに向けて啓蒙活動をしなければいけない!」
あわよくば闇医者ムーブもしたい!
始まりの草原にて、一人でそう決心していると、近くの森林エリアに索敵スキルが引っかかる。
索敵スキルのレベルも、これまでの修羅場によりかなり上がった。この汎用スキル、かなり使いやすくなったな。
「スライム…、いやこの大きさヒュージスライムか」
ちょうど話していた上位モンスター、ヒュージスライムがポップしたようだ。
始まりの草原のボスモンスターであると同時に、低確率で一回り小さい個体がランダムな森林エリアに出現する。
その戦闘力はスライムの遥か上を行くものであり、対策を知らなければなす術がなく負けてしまうだろう。
「…まあそんな運悪くヒューちゃんと遭遇する初心者プレイヤーなんていないよn––」
「––おいなんだコイツっ!?」
いたわ。
なんか最近フラグたてるの上手くなった気がする。全然嬉しくない…!
声の方向へ急ぐと、森林エリアでホーンラットを狩っていたのだろうか、ツノや毛皮を片手にヒュージスライム相手に苦戦している三人組のプレイヤーがいた。
両手剣を持った戦士風の男はヘイトを受けつつ、弓を持ったエルフと、杖を持った女性が必死に遠距離攻撃を行なっている。
木に飛び移り、その戦いの行方を見守ってみると、装備的に初めて2〜3日だろうか、まだ少し動きがぎこちなく、非効率的だ。
しかし別ゲーの影響か、連携は洗練されており、各々の役割を理解して戦っている。
「連携取れるだけじゃ勝てないんだよな、そいつ」
木の根に躓いた戦士に、ヒュージスライムが襲いかかりそうになったところで、核に向かってナイフを投擲する。
通常、核を覆うベトベトに阻まれてしまうのだが、今回はヒュージスライムが攻撃のため、ベトベトを戦士に向けていたおかげで、ギリギリダメージが通った。
驚いたスライムは攻撃をキャンセルし、図体には似合わない速度で一度距離を取った。
そしてどうやら驚いたのはスライムだけじゃなく、三人組のプレイヤーも安堵と困惑の表情で木の上にいる俺を見上る。
「え…?」
「こんちゃ〜、フクロウです〜。宜しければそのヒュージちゃんの倒し方、お教えしましょうか?」
「フクロウ…って、あの動画の!?」
お、知ってるのかな?
杖を持ったプレイヤーが俺を指差して、ヒュージスライムの事などまるで忘れたのか、目と口をパクパクさせている。
「な、なに、凄い人なの…?」
エルフのプレイヤーがそう聞く。さて、なんて答えるのかな、魔法使いさんよ。
「え、なんか、…詐欺師」
「おぉい!? 普通にただの悪人じゃねえか!」
これアレだな、あの人の言ってた動画ってビルズの夜明けじゃなくて、ルナに闇医者した時のヤツだな。そうじゃなきゃ詐欺師なんて言われないだろ。
いや別にあれも詐欺じゃないしね!?
「詐欺師でもなんでも良い! アイツの倒し方を教えてもらえるんだろ?」
タンク役の戦士が、ツッコミの際に木から落ちそうになった俺を見上げ、そう聞いてくる。
ちょっと、一旦姿勢を直すね…。
「…ああ、RSFの怖さと、それに抗う術を教えてやるよ。報酬はそうだな…」
あの魔法っ娘に調子を乱されたが、ロールプレイは継続だ。
「…感謝の言葉で良いぜ」
良し、決まった!()
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