第62話 盛り上げに行きましょう!




「結構集めたっすけど、こんな食べられるんすか?」


「一人では食べませんよ。皆んなに食べて貰うんです。そうだ! ヨルさんもぜひ!」


 コハルさんとすっかり夜になったスタットの街を歩いていると、話をしているうちに色々と彼女の事について知る事が出来た。


 コハルさんはやはりこのRSFが初めてのゲームらしく、俺と同様リリース初日からやっている。


 一般的なプレイヤーとは楽しみ方が少し異なり、スタットの街で働き、生活までしている。プレイヤーというよりも、NPC達と近い生活をしていると言っても過言ではない。


 どおりで服装もNPC感満載な訳だ。楽しみ方のジャンルとしてはロールプレイの部類に入るのだろうが、彼女は無自覚にそれを行っている。


 以前出会ったPKプレイヤーのノガミ達や俺よりも、より一層深くRSFをもう一つのリアルとして捉えていると言える。


 そして、コハルさんの働き先がお茶も出来るお食事処だと言う。その店で出す料理に今回採った野草を使うようだ。それならこのカゴいっぱいの量にも納得だね。


 特製弁当の販売もしているらしく、テイクアウト販売もしているようだ。ちゃんと営業しているのが分かる。


「俺の勝手なイメージっすけど、こう言うのってどこかのお店から仕入れる物だと思ってました」


「…うん、前まではそうだったんだけどね」


 コハルさんの表情が、どこか暗くなったのを俺は見逃さなかった。


「あ、次はこっちに曲がりまーす」


「はーい」


 コハルさんの指示通りに歩いてきたが、この通りには見覚えがある。それこそルルカル先生の病院へと向かう道と一緒だ。


 もしかしたら病院へ通ってた時に、どこかですれ違っていた可能性もあるかもなぁ…。


「ここです!」


「おおー」


 そんな事を考えているとどうやら目的に着いたらしい。木製の看板には【イツヒの家】と描かれている。


 外観には長年の経年劣化が見られるも、良く手入れされており、アンティークな質感を醸し出している。


「味がありますね」


「ありがとうございます!」


 コハルさんはそう言いながら店の扉を開ける。今は営業していないのか、店内は必要最低限の明かりのみつけられ、人っこ一人もいない。


 店内は広いとは言えず、二人掛けの席が二つと四人掛けの席が一つ。そしてカウンター席が四つ用意されているのみだ。


 カウンターの目の前には料理をするための厨房があり、カウンターに座れば料理をする店員さんと喋りながらの食事も可能なのだろう。


 店内の掃除は行き届いており、飲食店に必要な清潔感がしっかりなされている。今すぐにでも客を入れて営業出来そうだ。


「他の従業員はいないんですか?」


 野草の入ったカゴをカウンターに置きながら、厨房へと入って行くコハルさんに質問する。


「それがいないんですよ。元々店長が一人で営んでいたお店で、私を拾ってくれたんです」


「はえ〜、その店長さんは?」


「少し前に亡くなりました…」


「…え?」


「暗い話になっちゃいますから、ヨルさん今日のお礼にお酒はどうですか?」


「あーいや、飲めないので」


「あ、そうなんですね。じゃあ代わりの物を用意しますよ」


 そう言ってコハルさんはカウンターの目の前で何やら料理をし始めた。俺はその目の前のカウンター席に座る。


「飲めないって言うと、弱いんですか?」


「いや、未成年なんすよ。今年大学2年なったんで20の年ではあるんですけどね」


 って、コハルさんに釣られて個人情報出しちゃったよ…。まあ良いか、コハルさん以外聞いてないし、俺もコハルさんの本名聞いちゃったし。


「じゃあ私の方がお姉さんですね!」


「はは、お姉さんっすか。じゃあタメ口で良いっすよ」


「えー、じゃあそうしよっかな?」


 ここでおいくつですか? なんて聞くほど野暮じゃないぜ。こう見えてもそれなりの経験をしてきた男だ、しっかりと弁えている。


「私も去年成人式があったんですけどね? 久しぶりの友達に会うとやっぱりテンション上がったな〜」


 うーん、コハルお姉さん。年齢バレしちゃったぁ…。


 この人はあれだな。ちょっとどころじゃないな。ドが付く程の天然だな、この感じ。


「コハルさん、あまりゲーム内で個人情報は出さない方が良いっすよ」


「はっ、ごめんさい! もうずっと一人だったからお話しするのが楽しくて」


「呼んでくれたらいつでもお話ししますよ」


 なんて、遊び慣れたチャラ男みたいなセリフを言ってみたは良いものの、果たして自然に言えていただろうか。


「ふふ、ありがとう」


「……ぅす」


 コハルさんは小さく微笑んでそう言う。その一言には、とてつもない程のお姉さん力が込められていた。


「はい、野草の和え物どうぞ!」


「おお、美味しそう」


 コハルさんのお姉さん力に恐れ慄いている内に、どうやら料理が完成したらしい。


 カウンターに出て来たのは、今日採ったばかりの野草を使った和え物で、ごまのような食材と和えられた野草は彩りも良く、とても美味しそうに見えた。


「いただきます」


「どうぞ!」


 コハルさんから箸を受け取り、和え物を一口食べる。


 ほのかな苦味としょうゆの塩味が合わさったコクがクセになり、ごまと合わさった香りも食欲をそそる。採れたてだからか食感も良く、無限に食べられるような気さえする。


「…どう?」


 感動してしまい無言でいると、心配になったのか、コハルさんに味の感想を聞かれた。


「…めっちゃ美味いです! これ永遠に食えますよ」


「良かったぁ…。でも食べ過ぎはダメだよ? 食べ過ぎると毒ですからね」


 本当にタラの芽みたいだな。


 味以外に何か効果があるのか確認してみたが、特に何もなく、完全に料理専用の素材なのだと改めて知らされる。


「一人になってからはお客さんも減っちゃったんだけど、こうやって美味しいって言ってくれる人が久しぶりで、凄い嬉しい…」


「…もしかして、一人で野草採取してたのも」


「うん、色々あってお金も無いから、自分で食材取りに行かないと回らないの」


「なるほど…」


 箸を一度置き、コハルさんの話に耳を傾ける。亡くなったという店長の事や、その後どうやって一人でこの店を守って来たのか、俺にはまだ深く聞けない。


 ただ、関わりを持ってしまった。もう他人事とは自分の中で言えなくなってしまった。


「なんてね、せっかくのお礼なのに暗くしちゃったら嫌だよね」


「…コハルさんは明日もログインしますか?」


「え、うんそのつもりだよ」


「じゃあ明日、このお店を盛り上げに行きましょう!」


「盛り上げる?」


「はい。俺に良い考えがあるんです」

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