第47話 ドヤ顔可愛いっ…!
「やはりな…。建物の高さはブラフ。人目に付かないのはやはり下か…」
「気付いていたのですね」
「……」
よし。
何とか最初から分かってましたよ感は出せたな。それはさておき、地下となるとどう侵入しようか。
上に進むのならやりようはいくらでもあったんだけども。
「それで、どうやって地下へ?」
「……一回ダメ元で試してみるか」
聖教会に入ると、一階は大きな聖堂になっている。椅子が並べられており、奥には祭壇が置かれていた。
ちらほらNPCやプレイヤーが見受けられるが、目当てのNPCは…。
「……いた」
祭壇の横にひっそりと立つ教会の人間、神父NPCとでも呼ぼうか。清潔感のある、深い青色をした衣装を身につけている。
「あのすいませぇん」
「どうかされましたか?」
「聖女様に会えたりってします?」
ダメ元の策と言うのは正面突破だ。このまま聖女のところに案内してもらえる事に、花◯院の魂を賭けよう。
「聖女様はただいま修行中ですので、お会いする事は出来ません。そもそも聖女様は人の身でありながら精霊と繋がることを許された神聖なるお方なのですから、簡単にお会いする事自体不可能なのです。聖女様とは––」
「––あーすっあすあす、すいやせんっした〜」
話が長くなりそうだったので、早々に離脱した。神父NPCから離れ、ピノーの所へ戻るのだが、まだ一人でぶつぶつ喋っている。
「花京◯の魂が無駄になったところで、どう地下に向かうか…」
教会内部で怪しい動きをしたら衛兵NPCを呼ばれそうだし、最小限の時間と動きで終わらせたい。
「……ん、おや? あれ何だと思う?」
「えっと、通気口でしょうか」
「繋がってそうだな、地下に…」
「なるほど…!」
教会の入り口から左に逸れた天井付近に、空気の循環を目的とした通気口を見つけた。定期的に掃除をするためだろうか、人が中腰で入れる程の広さに見える。
「ピノー、あそこまで登れるか?」
「朝飯前でございます」
「流石だな」
インベントリから縄と煙幕を取り出す。行き当たりばったりだな、なんて声が聞こえてくるが、聖女が地下にいる時点でこちとら作戦崩壊しとるんじゃ。
「はい、この縄持って」
「上についたら縄で合図しますね」
「ああ。じゃ、作戦開始っと…!」
教会内部に煙幕を投げ込む。白い煙は聖堂を一気に広がり、全員の視界を奪った。
煙幕多投事件の時に、街中でも煙幕が使用できるのは学んだ。用法容量にお気をつけ下さいの一文が大事なのだけれども。
「なんだ!?」
「敵襲か!」
「誰か私の荷物取ったでしょ!?」
聖堂は俺のせいで大パニックになってしまった。ただ煙幕を投げたのが俺だと言うのはバレていないらしい。これなら通報されたとしても問題なさそうだ。
「……エーテルを倒したらお詫びの品持って来るんで、許してください」
頭を下げたタイミングでピノーからの合図が来たため、もう一度煙幕を投げ、念のために隠密スキルを使用し、縄を登って通気口までたどり着く。
「よし、バレる前に進むぞ」
「はい!」
ピノーは縄を剣に括り付け、壁に突き刺す事で縄に強度を持たせていた。こう言うところを見ると、ピノーの実戦経験豊富さが伺えてきてなんか良い…。
「あ…」
ピノーは通気口に登るため、一度獣人型に戻っていたが、思い出したのか、人型に変化し直す。
うちの相棒は良い子です。
「ヨル殿、なんだかこちらから良い匂いがします」
「食堂か?」
「いえ。食べ物ではなく、精霊様から感じられる心地の良い匂いです」
「……案内してくれ。その先に聖女がいると見た」
******************
「この通気口、無駄に入り組んでんな」
「確かに長い時間進んでいますよね」
ピノーの鼻を頼りに進んでいるのだが、地下へ向かっていると言うよりも、くねくねと蛇行しており、何なら少しずつ上に向かっているようにも感じられた。
そろそろ中腰の姿勢が辛くなってきたな、なんて思った瞬間。ピノーが姿を消した。
「え!?」
「にゃ〜…!?」
前に急いで進むと、通気口の先は真下に降りており、それに気付かなかったピノーが落下してしまったのだ。
「ちょっ、待ってろよピノー!!」
縄を取り出すため、インベントリを開こうとしたのだが、一瞬の焦りから通気口の狭さを忘れ、頭をぶつけてしまう。
「いってぇ…!?」
その拍子に足を滑らせ、俺もピノーに続いて落ちてしまった。
「あぁ〜…!?」
やはり長い時間上に進んでいたらしく、それなりの落下時間をかけ、地面に背中から着地した。
鈍い音がしたし、HPが若干削れたが、着地は着地だ。うん。
「いっ…たぁ〜」
腰を摩りながら起き上がると、どうやら天井に付いていた通気口から落ちてしまったらしい。
「まあ、人のお客様とは珍しいです!」
「んぇ?」
振り向くと、猫型になったピノーを抱える美女が立っていた。
「私はアリエッタ。貴方の名前はなんですか?」
「……ヨルですぅ」
白いドレスに、肩まで伸びたブロンドの髪。おっとりとした表情は、無意識に安心感を感じられる。
その包容力からピノーはすでに喉を鳴らして懐いてしまっていた。
いや、ピノーは人懐っこいしあんなもんか。
「え、絶対聖女じゃん…」
「はい! サリアで聖女をやっています!」
胸を張ってそう言うドヤ顔のアリエッタ。
「ドヤ顔可愛いっ…!」
拝啓故郷の母さんへ。
ゲームのキャラに恋をしてしまったかもしれません。
僕はアリエッタさんと幸せになります。
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