第44話 夜を与えてやる





「––勝ちの目は見えたって、最後まで聞けぇい!!」


 格好つけたセリフを最後に、華々しく散ろうと思っていたのに、何でこうもせっかちさんが多いんだこの世界は!


 エーテルにトドメを刺され、視界は暗転。しばらくして、明るくなってきたと思えばRSFのタイトル画面に戻ってきた。


 ゲームを始める時は、画面中央の『スタート』からRSFの世界に入れるのだが、今回は死んでしまっため、デスペナが科された。


 RSFではリスポーンまで数分のインターバルが用意されている。これは死んでもすぐにリスポーンしてゴリ押しプレイをする、いわゆるゾンビアタックを防ぐ目的のためだ。


 このインターバル中に、現実世界でトイレやら水分補給やらを済ませなさいよ、という運営からのメッセージにも捉えられる。


「RSFのデスペナマジで重い…」


 RSFはゲーム内での死をかなり重く扱っている部類だと思う。NPCは生き返らないし、プレイヤーに対しても、かなり重めのペナルティを与えてくる。


 このシステムのおかげで、RSFの世界観に入り込めるし、リスポーン前提のメチャクチャなプレイをする奴も少ない。


 個人的にはありだと思っているのだが…。


「装備ロスト痛いよ〜ん!」


 フクロウの仮面はピノーが持って行ってくれたが、装備していた黒衣やナイフ、その他インベントリに入っていたアイテムは、全部黄昏の下に落としてしまった。


「…取り敢えず、戦闘ログの確認をしよう」


 インターバル中には、ランキング付きのミニゲームで遊んだり、死亡時の戦闘ログを確認する事が出来る。


 ミニゲームについては、タイトル画面からいつでも遊ぶ事が出来るが、死亡時戦闘ログに関しては、死んだ時にしか見れないので、このインターバル中に優先して確認したい。


「さてと、エーテルのスキルとか確認できないかな〜?」


 確認すると、エーテル戦丸々の戦闘ログが記録されていた。


 ボス戦開始時の、距離を一気に詰めてきたエーテルのスキル名は『腐敗の侵蝕』というらしい。効果は調べられないが、テキストを確認する事が出来る。


【腐敗の侵蝕】


『数百年前、彼の地では戦が繰り広げられていた。傷つき死して逝く者達は、その怨嗟を呪いへと昇華させ、遂には朽ちない肉体を得た。しかしその魂は日が経つにつれ腐敗し、彷徨い続ける者を産み落とす。その侵蝕方向を変える事は出来ず、急速に腐敗は蔓延していった。』


「腐敗の起源ってやつか…。最後の文がスキルの効果を表してるって捉えていいな」


 とんでもない速さで距離を詰められるが、スキル発動時は細かな方向転換が出来ない。俺がエーテル戦で体感したものと一致している。


 あの距離を瞬時に詰めるスキルは、とんでもなく強力と言って良いだろう。だがこの戦闘ログを見て驚くのが、エーテルが使用したスキルの少なさだ。


 鎌での攻撃は、そのほとんどが通常攻撃。バフを掛けるようなスキルも無く、単純な能力だけで俺は圧倒されていたのだ。


「やっぱ素の能力であのパワーなのかぁ。さて他のスキルは…」


 黄砂のようなエフェクトを飛ばし、腐敗の状態異常を付与させてくる範囲攻撃は『ヴィル・ショック』と表示されている。


【ヴィル・ショック】


『眠れずに彷徨い続ける者達を弔うため、とある民は聖霊に導かれた。移住した民は、その血を使い大地の浄化試みる。彼らは彷徨う者達の増加を食い止める事に成功したが、その数を減らすには至らなかった。』


 そしてこう続く。


『呪いに身を落とした英雄の血に、もはや聖霊は宿らない。』


「『聖霊』とやらは精霊と違うのか? ちょっと分かりませんなぁ…」


 この『導かれた民』がきっとビルズの民なのだろう。このテキストを読むに、その血に聖印と同じような聖なる力があって、ウォーカー達への有効打になっていたと…。


「それでも被害の拡大を抑えるに留まり、根本の解決に至らなかったか…」


 そして気になるのは最後の一文。


「呪いに身を落とした英雄…、これはエーテルの事なんだろうけど。って事はアイツはそもそもビルズの民って事になるな」


 情報が点として小出しにされるが、それが繋がるにはもう少し情報が欲しいところだ。


 だが、何となくエーテルの望む『夜』が何なのか、分かったような気がする。


「取れそうな情報はこれくらいか」


 戦闘ログからタイトル画面に戻ると、インターバルも終了しており、『リスタート』の文字が煌々と輝いていた。


 ReStart Fantasyリスタートファンタジーの名に恥じないリスポーン演出だなと、毎回死んだ時に思う。


「さて、残り一週間か…」


 今日の日付を思い出し、大学が始まるまでのタイムリミットを考える。


「……待ってろよエーテル。俺がお前に

 

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