第40話 シリアスは似合わない



「キリがありませんね…」


「だな」


 何人のウォーカーを弔ったのか分からないが、それでも押し寄せてくる数が尋常じゃない。まるで聖印に釣られて、自らの腐敗を解いて貰いにきたようだ。


 戦線も押され気味で、そろそろドリューが家にある封印を復活してくれないと、物量でウォーカーの波に飲み込まれてしまう。


「このままでは家ごと押し潰されます…!」


「もう少し耐えるぞ!」


 これはある種の時間制限式防衛クエスト。


 ドリューが封印を復活させるまでの時間、家を守り切ることがクリア条件ってとこだろう。


 正確な時間は分からないが、体感10分は過ぎている。そろそろキリの良い時間なんじゃないかな!


「……!?」


 そんな事を考えながら、ウォーカーへのデバフを掛けまくっていると、背後から、一瞬眩い光が放たれた。


 かと思えば、ウォーカーの動きが止まり、一斉に後退を始める。振り向いてみると、光はすでに弱まっており、家の屋上では、ドリュー少年が大きく手を振っていた。


「フクロウ! よく耐えたぁ!!」


「…ドリューも、良くやったよ」


 封印に近づけないのか、後退していくウォーカーを見送りつつ、その場に座り込む。


 仮面を外して大きく息を吸うと、体全体に血が巡っていく感覚が、なんとなく分かったような気がした。


 周りには、朽ちた魂亡きウォーカーの骸が転がっており、この数を相手に良く頑張ったなとピノー含め俺自身を褒めてやりたい。


「ようやく、終わりましたね」


「まあ、報酬も貰えたし良しとしよう」


 感謝の言葉という、手元に何も残らない報酬だったが、確かに心の中には大きな衝撃を残していった。


 大活躍だったピノーも、疲れた様子で息を上げていた。やはり聖印の体力消費は大きいようだ。


 聖印という存在がなければウォーカーの正体に気付く事すら出来ず、大量虐殺を行っていたのかもしれないと考えると、何とも言えない感情が湧き起こってくる。


「……いや、聖印持ちのピノーがいたから、このクエストが俺の目の前に現れたのかもな」


「拙者ですか?」


「幸運の黒猫だな、ピノーは」


 立ち上がり、インベントリから地面を掘れそうな道具を探す。いつの間に買ったのか分からないシャベルがあったので、それを取り出してみた。


「さて、埋葬のフクロウと呼ばれた男の力、見せてやるか」


「そんな二つ名があるのですね…」


「いや、今自分で付けた」


「え…!?」


 やはりピノーにツッコミはまだ早いか…。




******************




「ドリューも手伝ってくれてありがとな」


「いや、ウォーカーを弔うのはビルズの使命だからな。お前達もあの墓地を見ただろ? 数百年前から俺たちはウォーカーを弔い、埋葬してきたんだ」


 あの異様な数のお墓はウォーカーになった人々の物だったのか。最初こそあの墓地で眠る死者がウォーカーになっていると考えていたが、まさか逆だとはね…。


「さて本題だが、ドリューは知っているのか? ウォーカーの正体を」


「正体? 正体も何も、彼らは彷徨い続ける哀れな魂だ。動きを止め、燃やすことで弔う。じゃないとまた動き出すからな…。今日は特殊だったぜ、何せ肉体が既に朽ちてたからな」


「……そうか」


 ドリューは不思議そうな表情をすると、先に家に戻ると言い、手に持ったシャベルを肩に引っ提げて歩いて行った。


「気付いていないのでしょうか」


「いや、きっとビルズが衰退していくにつれて情報が歪んで伝わったんだろうよ」


「真実を伝えるのですか?」


「伝えてどうする。聖印がなければ腐敗の除去は出来ない。伝えたところで彼の心を迷わせるだけだ」


 この聖浄の封印も、ピノーの扱う聖印と似た仲間なのだと思う。しかしドリュー自身が聖なる力を使えると言うわけでなく、遠い昔のビルズ達が作りだした、半ばロストテクノロジーと化したものなのだろう。


 ならば伝える必要性はない。いや、伝えてはならない。これまで父を亡くしながらも必死にビルズの使命を全うしてきたドリューを否定しかねないからだ。


 マジで運営、人の心ないだろ……。


「それに、俺たちが終わらせれば良い。エーテルとか言うボスを倒し、明かずの墓地全体を覆う封印を復活させる…!」


「承知しました。拙者の力はフクロウ殿の物です。存分に奮いましょう!」


 ピノーと目を合わせ、頷きあう。するとお互い腹が大きく鳴り、張り詰めた空気が一気に緩くなったのを感じる。


「フクロウ、ピノー! ばあちゃんが飯を作ってくれたぞー!」


 ドリューがわざわざ家から出て、俺たちの事を呼んでくれた。


「……まずは腹ごしらえからだな」


「異論ございません…!」


 やはり俺にシリアスは似合わないらしい。







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