第39話 おやすみの時間だ
「ピノー、出来るだけ攻撃はするな! 人なんだよ、コイツら…」
「承知…!」
ピノーはウォーカーの攻撃を掻い潜りながら、聖印を当てたウォーカーをこっちに連れて来てくれる。
「フクロウ殿、こちらの方を」
「任せろ」
腐敗が解け、本来の姿に戻りつつあるこの人を、治療スキルで回復するよう試みる。アリオさんの時と同じく、肉が焼けるような音と、それに伴う蒸気が発生していた。
「今助けるからな…!」
診察スキルを使用し、外傷の有無を確認。目立った外傷は無いものの、意識は朦朧としており受け答えが出来ていない。そして何よりHPが急速に減っていく。
「何でだよ…!?」
手持ちの回復薬を使用するも、HP減少は止められず、焦りが出始める。
「くっそ…!」
「……あぁ、旅の人」
「今は喋らないで。すぐに治す!」
「何十年も、彷徨ったのです…」
何十年って、十年単位…?
「肉体は腐っているのに、決して朽ちることはなく、魂は縛られ続け、ついには、化け物になってしまいました…」
「大丈夫だから…、治すから…!」
腐敗が完全に解けたからか、透けた綺麗な女性の姿が現れた。横たわる肉体は崩れ落ち、その魂だけが天に昇っていく。
十年単位での『腐敗』は、肉体を完全に腐らせるも、決して朽ちずに魂を肉体に縛り続ける。そのうち魂は疲弊し、彷徨い続けるウォーカーとなるのだろう。
何が歩く死者だ。これが、
「俺は、何をしてるんだ? 医者を名乗っておきながら、人が死ぬのを見てるだけじゃねぇか…」
空になった回復薬の瓶を握り締め、己の無力を知る。まさかゲームで悔しさから涙を流す事になろうとは思わなかった。
『旅の人…』
「……」
見上げると、微笑みを浮かべた女性が、その姿を散らしていた。魂だけとなった者の末路なのだろう。不謹慎ながらも、その姿を美しいと感じてしまった。
『旅の人、お救いくださり、ありがとうございます…』
「俺は、何も…」
『貴方がいなければ、私は永遠にこの世を彷徨い、人を傷つけていたでしょう。だからこそ、この呪いが解かれた事が嬉しいのです』
女性はそう言うと、俺の頬に手を寄り添ってくれる。
『だから泣かないで…。貴方は自分のすべき事をしたのです』
「……」
女性はそう言うと天を仰ぐ。彼女の魂に一切の穢れはなく、散っていくその様は、今この場所から、煌めく星々が生まれているかのようだった。
「……そうだな、俺のするべき事をしよう」
涙を拭い、戦線に目を移す。ピノーがウォーカーの攻撃をギリギリの位置で回避しつつ、必死に聖印を当てる隙を窺っていた。
一対一なら聖印を当てるなど、わけないはずだが数が数だ。ピノーが聖印の準備をしようとすると、すぐに攻撃が飛んでくる。
「すぅー、はぁ…」
大きく息を吸い、吐いた。今は感傷に浸っている場合ではない。このままじゃピノーが危ないんだ。
罠スキルを確認、残り置ける数を確認した後に、インベントリから取り出したナイフを握りしめる。
「ピノー、待たせた!」
「フクロウ殿…!」
「コイツらは体の腐った患者みたいだ! しっかり
「は…っ!」
ピノーにヘイトを集めてもらい、俺は隠密スキルで、ウォーカーの死角に入り込んだ。道中に罠を仕込みつつ、聖印の隙を確保するよう動く。
ウォーカーのアキレス腱目掛けてナイフ振り、最低限の損傷で動きを鈍らせる。こうする事で、元々動きの遅いウォーカーを、さらに鈍足化させる事に成功した。
ヘイトを引き受けてくれていたピノーに、罠の位置を教え、設置した麻痺罠を有効的に使える地点へと誘導させる。
「任意起動…!」
指を鳴らす必要はまったくないが、カッコいいと言う理由で罠の起動と同時に指をパチンと鳴らす。
麻痺罠は正常に発動し、ウォーカーの動きを完全に止める。
「痺れるよな、ごめん…。でも、俺は貴方達を人として弔いたい」
複数対ピノーだった現状を、ナイフによる妨害や罠による足止めで、ピノー対ウォーカー一人の状況へ作り変える。
「流石はフクロウ殿です…!」
ピノーは十分に出来た隙を見逃さず、レイピアに聖なる力を集めた。
「【聖印・黒奏波】」
聖なる風がウォーカーを包み、腐敗を吹き飛ばす。肉体が崩壊し、魂のみが表出したかと思えば、散り散りに霧散していった。
『あぁ、ついに…』
「診察結果は『腐敗』。聖印による治療は完了した。治療費は、感謝の言葉で良いぜ」
『旅の方、ありがとうございます…』
白い光となって消えていく老人は、一言そう言うと、空の彼方へ消えていった。果たして天国へ行けたのだろうか。
「…RSFは宗教的に天国とか地獄はあるのか?」
「フクロウ殿?」
「ああごめんなんでもない。さて、ドリューが家の封印直すまで、患者から
最初に家の窓から見えた数より、明らかに数が増えており、ゾンビモノの別ゲーを思い出す。
あの時はコスケとの二人プレイだったが、今回はピノーとの協力プレイだ。襲ってくるウォーカー達のためにも、失敗するわけにはいかない。
「彷徨はもう十分だろ、おやすみの時間だ」
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