第36話 わーお…




「うーん、流石は墓地と言ったところ…」


 明けずの墓地に入ると、辺りは陰鬱とした木々に囲まれており、整備されたとはとても言えない道が、見え隠れしながら続いている。


 『明けず』という文字から、夜が明けない特殊なエリアなのかとも思ったのだが、そういうわけでもなく、日はちゃんと登っていた。


「若干木のせいで薄暗いか…」


「空気も淀んでいますね」


 ピノーの言う通り、空気も重苦しい。地形の影響か、空気が循環し辛い環境下にあるのだろう。


「そりゃ不人気スポットですわ」


 ガルガントに行く道は3つ。ここ【明けずの墓地】と【晴天海道】【バクラ鉱山】。


 晴天海道は海に隣接したエリアらしく、景色が良いことや、行商人NPCのルートであったりと、モンスターが少なく、ガルガントへ向かうプレイヤーに人気なエリアになっている。


 バクラ鉱山はその名の通り、鉱山エリアになっており、装備やアイテムの材料となる鉱石で溢れていると聞いた。


 攻略組は、晴天海道を通ってガルガントへ向かい、素材確保のためバクラ鉱山を攻略しているらしい。


 そのため、明けずの墓地の攻略は後回しにされており、今現在まったくプレイヤーを見かけない。


「『夏休みにヤンキーカップルが肝試しに来そうな場所ランキング』上位なのに…」


「やんきー?」


「ん、何でもない」


 ピノーにはツッコミはまだ早いらしい。


 しばらく明けずの墓地を歩いているが、ウォーカーどころかモンスターも少ない。


 さっきようやく鳥獣系モンスターが現れたのを、ピノーがぶっ飛ばしたくらいだ。


 お墓は道にそってずらっと並んでおり、何十年も前からのものなのか、お墓に彫られていたであろう文字は、ほとんどが読めないほど雨風によって削られている。


「どんだけお墓があるんだ、ここ…」


「どれも古くからの物のようですね。それも10年単位…、もしかしたら100年以上かもしれません」


 奥に進めば進むほど、お墓が古くなっているのか、それとも手入れをされていないからなのか、ボロボロに崩れている。


「……なんかいるぞ」


「はい…!」


 途切れ途切れの道が分岐した先、何か動いている気配を感じ取り、警戒態勢にはいる。


 隠密スキルを使用しつつ、先に進んでいくと、ようやく話に聞いていたウォーカーを発見した。


 人の姿をしてはいるが、腐っているのか、肉体はボロボロに汚れており、目は虚でどこにも焦点が合っていないように感じられる。


 診察スキルを使ってみるものの、警戒度が高いようで、状態異常以外に取れる情報が無い。


「……状態異常は『腐敗』。これまた初めて見るが、ゾンビだから腐ってる的な?」


「どういたしますか?」


「任せても良いか? 隙を伺いつつ俺も不意打ちデッドスピアを狙う」


「承知」


 ピノーはそう言うとレイピアを抜き、駆け出して行く。ウォーカーもそれに気付き、臨戦態勢入った。


 俺は他の敵にも注意しつつ、いつでもデッドスピアを使用できるよう用意しておく。


「【黒奏剣】」


 持ち前の身軽さでウォーカーの懐に入り込んだピノーは、素早くレイピアを突き出し、攻撃する。


 黒いエフェクトで彩られたピノーの攻撃は、動きの遅いウォーカーの胸を撃ち抜き、一瞬で勝負がついた。


「…やっぱ戦闘面で俺いらないな」


 寂しいような頼もしいような複雑な感情だが、ピノーの戦闘力ならウォーカーも瞬殺って事がわかって良かった。


「……」


「流石だな」


「ありがとうございます」


「聖印は使わないのか?」


「聖印を使うにも体力を使うので、この程度の相手には温存しています。ただ気になることが…」


 ピノーは倒れているウォーカーに鼻を近づけ、何かを確認している。匂いを嗅いでいるようだが、その表情はどこか険しいように感じられた。


「どうした?」


「…いえ、人を斬った時と似た感触だったので、少し気分が悪くなっただけです」


「まあ、アンデッド系ってのは元々死んだ人間ってのがお決まりだからな。悪いな、嫌な役割を任せて」


「フクロウ殿のためならば、誰が相手でも剣を振るいましょう。それがたとえ竜であってもです」


「助かるよ」


 ……ピノーは人を斬ったことがあるみたいな口ぶりだが、意外な一面だな。


 まあ元騎士団所属だもんな。それも実戦部隊だったらしいし、そう言った仕事もあったんだろうなぁ…。


「おーい、お前ら大丈夫かぁ!?」


 そんな事を考えていると、遠くから男の子の声が聞こえて来た。見ると、クロスボウを持った物騒な少年が走っている。


「クロスボウってあるんだな」


「アレは、武器でしょうか…」


 ピノーの反応的に普及はしてないらしい。あの子の自作だとしたら相当な天才だが、果たしてどこで作成された物だろうか。


「探索者か! もうすぐで夜が来る。ウォーカーに襲われるぞ」


「それならウチのピノーがぶっ倒してくれるよ。な?」


「お任せください!」


「ってこっちはケット・シー!? じゃなくて、この墓地を埋め尽くす量なんだぞ、どんな強者でも数には勝てない…!」


 それはそうだ。


 この墓地を埋め尽くす数となると数百はくだらないことになる。流石のピノーもそれには対処できない。出来たとしても相当な無理を強いるはず…。


「忠告ありがとう。すぐに移動する」


「よし、ここを真っ直ぐに行けばガルガント行きの道に出る。そこへ行けばひとまずは安心だ!」


 ガルガントか…。


「ビルズに行きたかったんだがなぁ…」


「何で俺の名前を!?」


「え?」


 少年は目をまん丸にして俺を見つめてくる。今の発言の内容的に、この少年の名前がビルズって事になるんだが…?


「…俺はドリュー・ビルズ。ビルズ家の子だ」


「わーお…」


 

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