第33話 そうであってくれ
「はい! と言う事で今回は…!」
「ど、急にどうされたのですか…?」
俺とピノーの二人は、イルルーンへ向かうと言う事で落石山道にやって来た。
アヴェロアからイルルーンへ向かうには、落石山道以外にも不道の森林があるが、今回はアプデの検証も兼ねているため、ちゃんと道がある山道の方に来た。
アプデから数日が経っているため、多くのプレイヤーはすでにイルルーンへ到達してしまったのだろう。アヴェロアにもプレイヤーは少なかった。
「よし、イルルーンを目指しながらアプデの検証もしてくから、ゆっくり行くぞ」
「承知しました!」
ピノーは敬礼し、姿勢をビシッと正す。今日は三銃士を連想させるような羽付き帽子も被っている。後で写真撮ろ。
落石山道はその名の通り、アヴェロアとイルルーンの間にあるアバル山に作られた山道だ。
元々行商人の通る道だったのだが、数十年前にアバル山が噴火し、安全な道とは言えなくなってしまった。
活火山のアバル山が原因の揺れは、頻繁に落石を起こすようになり、落石山道と名付けられた。
一見開けた見晴らしの良さを感じるが、落石によって道は複雑化しており、岩に擬態したモンスターや、死骸を狙う鳥獣系モンスターが多く配置されている。
アプデ以前は落石により、イルルーンへの道が塞がっていたが、それが取り除かれたようだ。不道の森林も似たような状況だったと記憶している。
「まあ、今回検証するのは自分のよく使うスキルだけで良いか。ピノーは周りの警戒をよろしくな」
「お任せください!」
いつでもレイピアを引き抜けるように身構えながら、辺りを索敵してくれている。今まで一人でリスク管理しながらやってたから、めちゃくちゃ頼もしいな…。
「さて…」
まずは診察スキルからだな。アプデ以前は警戒度によって見える情報が異なっていた。
この警戒度は俺が名付けた指標なのだが、隠れ数値として確かに存在していると考えている。
警戒度の少ない対象からは、HPの量や状態異常、怪我の箇所など細かい詳細が確認できる。
警戒度の高い、それこそ完全に敵対したモンスター相手では、怪我の箇所くらいしか確認出来ない。
怪我の箇所が分かれば、そこが弱点化していたりするので十分ではあった。
「……特に変わりはないみたいだな」
ピノーや、岩に擬態しているアルマジロのようなモンスター、ロックザスに診察スキルを使用してみた感じ、このスキルに手は加わってないらしい。
「【黒奏剣】」
「……ん?」
「障害を排除しておきました」
「おお…、ありがとな」
やっべぇ、ちょっとピノーが有能すぎるなぁ。フクロウが霞んじゃわない?
擬態していたロックザスを、お得意の剣技で破壊したピノー。控えめに言ってカッコいい。
さて、検証に戻ろう。このゲームのパッチノートも見たには見たが、RSFだからなぁ、どうせサイレントに修正やら追加やらしてるやろ!
治療スキルも、クソガキ配信者三人組に試した時に何か変わった感じはなかった。RSFで一番使って来たスキルなんだ、この感覚はあってるはず。
「若干スキルの範囲が狭くなった気もしなくはないけど、まあ誤差だろ」
「二手に別れてますね、どっちに行きましょうか…」
「右に行こう。クラ〇カも言ってたし」
「ご友人ですか?」
「いや?」
次はデッドスピアの検証をしてみたいけど、ぶっちゃけピノーがいてくれるなら戦闘スキルは捨ててもいいんよなぁ。
だって闇医者とは言え、お医者さんって普通戦わないもんな。ルルカル先生も医療特化だし…。
でもルルカル先生の裏の顔が暗殺者だったりしたらロマンあるな。やっぱデッドスピアくらい持っとくか。
ロックザスに向けて小石を投げ、目を覚まさせる。
「ピノー、タンク役頼む攻撃はしないでくれ」
「は…っ!」
隠密スキルを使用し、俺はロックザスの認知から外れる。
ロックザスはピノーに向けて大振りな攻撃を繰り返すが、それを赤いマントを翻して華麗に避けている。その姿はまるでスペインの闘牛士だ。
ロックザスのスタミナが切れたのか、動きを止めた瞬間に、背後からナイフを突きつける。
「【デッドスピア】」
ロックザスの硬い外殻ごと、デッドスピアを叩き込む。
ナイフが刺さったとは思えない鈍い音が鳴り響いたと思えば、ロックザスのHPは一気に減り、絶命した。
デッドスピアも変わらず、不意打ち判定とクリティカル判定の、ダブル補正によるバカデカ火力は健在のようだ。
「凄まじい威力ですね…」
「不意打ち限定だけどね。基本的に戦闘はピノーに任せるつもりだから、頑張ってくれよ」
「我が剣、フクロウ殿のために振るいましょう!」
隠密スキルには
「罠スキルも試すか」
ホーンラット用に回数を重ねた麻痺罠。それを落石山道に設置しようとしたところ、現在設置されている個数が表示され、置ける数に制限が課されていた。
材料さえあれば無限に設置できた罠スキルにナーフが入ったと言う事だろう。
「……いやいや、俺以外にも設置しまくってた奴がいたんだよ。きっとそう。そうであってくれ」
それ以外には、罠が大幅に見やすくなっていたり、使い勝手はだいぶ悪くなったが、それでも対モンスターへの強力なスキルである事は変わらないか。
「一先ずはこんなもんか…。あとはまた時間のある時に検証しよう」
「フクロウ殿、イルルーンが見えて来ました!」
ピノーの声と潮の香りがして、第五の街イルルーンに到達した。
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