第31話 お前も食べるか?





「あ、ちょっと待てよ?」


「どうかされたのですか?」


 トゥルワに入る直前。ピノーを見てとある事に気がついた。


 この子がこのまま街に入ったら大騒ぎどころの話じゃないのでは?


 妖精種が今のところ、どの程度認知されているのかも分からない…。俺としても囲まれるのは避けたいし、ピノーを手放す事もしたくない。


「人に化けれたりしないよね?」


 流石にそこまで出来ないよなぁ…。


「可能です」


「っしゃピノー、街中では人に変化してくれ」


「かしこまりました!」


 ピノーは元気にそう言うと、自身の尻尾を掴み、何やら力み始めた。全裸になって現れても良いように、着れそうな服を用意しておこう。


「にゃっ!」


 可愛く鳴くと、煙がポンっとピノーの周りを囲み、その奥から人影が見える。煙が消えると、そこには猫耳の美少年が立っていた。


「これでよろしいでしょうか?」


「……あー、ちょっと後ろ見せて?」


 くるっと体を反転してもらい、背中側を見ると尻尾もバッチリ生えていた。服は用意しなくても着てくれていたので助かったが、これじゃあまずい気がする。


 人型と言う時点でだいぶ目立たなくはなるが、獣人種はまだRSFに出てきていないし、猫耳装備もまだ実装されていない。


 高レベルの生産職プレイヤーなら作ろうと思えば作れるのかもしれないが、俺はそんなプレイヤーを知らないしな。


 猫耳を珍しがって近づいて来たプレイヤーにピノーの正体がバレるとか容易に想像できてしまう…。


 ん?


 ああ、のか。




******************





「ねえ、あの猫可愛くない?」


「ね! どこでモフれるんだろ〜」


 すれ違うプレイヤー数人に、抱っこしている黒猫を珍しそうに見られたが、やはりバレる事は無さそうだ。


 人型じゃなく、ファウード家の屋敷に居た時のように、猫になってもらう事で街中での安全を確保する事に成功した。


「やはり主に抱えてもらうなんて失礼なのでは?」


「良いんだよ。猫状態なら軽いし、目立たないしな」


 大人しく腕の中に居てくれるピノーに感謝しつつ、トゥルワを探索する。あの二人はトゥルワにいると思うのだが、いったいどこにいるのだろうか。


「人がいっぱいいますね」


「まあな。珍しい?」


「はい。国から出てここまで遠くに来たのは初めてですので」


 そういや流れで仲間に迎え入れちゃったけど、ピノーの事なにも知らないな。アイツらにはメッセージだけ入れて、質問タイムといこうか。


「ピノーはファウードさんとこのマルゼン? さんとどんな仲だったんだ?」


「マルゼン殿とは特別深い関わりがあったわけではないのです。たまに人の街を訪れる際、あの家に寄るとマルゼン殿が魚を分けてくれるのです。誰にでも分け隔てないお優しい人でした」


「そうだったんだな…」


「マルゼン殿が亡くなったと知り、お別れの挨拶と言う意味で、最後にあの屋敷に向かった際、ファウードの次期当主が魔の者であるという事に気づいたのです。一人で挑んだは良いものの、返り討ちにあってしまい…」


 それであの中庭に、血を流して倒れていたのか。魔の者は魔族のイリヒトの事だろうが、あのピノーを返り討ちにしていた感じ、やはり強敵だったんだな…。


「ヨル殿に治療をしてもらい、動けるようになった拙者は仲間を呼び、今一度魔の者を討ち取りに戻って来たのですが、すでにヨル殿が討伐しておられました」


「よく俺とフクロウが同一人物だってわかったな」


「分かりますよ、マルゼン殿と同じで優しい匂いがしましたから」


「そうか…」


 ピノーの頭を撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らす。リラックス出来てるみたいで良かった。


「ケット・シー騎士団だっけ? なんで辞めちゃったのさ」


「それはヨル殿のお近くにいつでも居られるようにですよ! 騎士団を辞めた拙者にはもう戻る故郷こそありませんが、後悔はありません」


 騎士団辞めるって結構重い行為なんじゃないかと、話を聞きながら思ったが、ピノーが決めた事だ。そこには口を突っ込まないようにしよう。


「騎士団は皆んなピノーみたく強いの?」


「強いですよ。拙者が所属していたブラックテイルズは実戦部隊だったため、全員が歴戦の猛者です」


「へぇー! そこで副団長やってたんだ」


「はい」


 他にも「ホワイトアイズ」や「スリーカラー」と言った騎士団もあるらしく、それぞれに王家直属部隊だったり衛兵部隊だったりと役割があるらしい。


「……魔族と戦った時にさ––」


「あ、いたいた!」


 ピノーに気になっていた事を聞こうとした時、コスケが俺を見つけて駆け寄って来た。後ろにはウイセも一緒にいる。


「良かった、生きてたんだな…ってなんだよその黒猫」


「まあ色々あってな」


「ちゃんとお世話できるの?」


「いやオカンかよ。コスケも無事で良かったよ」


 コスケの肩に手を置き、俺はそう呟く。後ろのウイセを見てみると、手にはお菓子を持っており、まったく心配してなかったんだなとわかってしまう。


「……ウイセも元気そうだな」


「ヨルくん、ちゃんとお世話できるの?」


「いやだからオカンかよ。なんで二回連続で同じボケなんだよ」


「ふふ。はい、これお菓子。私の奢りよ」


「おおさんきゅ。お前も食べるか?」


「よろしいのですか!?」


「「え…?」」

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