第32話 もういいよこのネカマエルフ…







「あーつまりは…、そのバルクハムさんのお手伝いで行った屋敷で、治療した黒猫が恩返しに来たって事か?」


「そうなるな」


 トゥルワの街の中、裏道にて、俺たち三人と一匹は、こそこそと小さな声で会話をしていた。


 ピノーは、なぜかウイセが持っていた猫じゃらしに夢中になっている。あのはしゃぎようは、ハンティングウルフを倒した猛者とはまるで思えないな。


「それはユニーククエストっぽいな…」


「やっぱそうなのかなぁ。ウイセは他のユニーククエストについて何か知らないか?」


「うーん、あるにはあるけど、ちゃんとお金を払ってくれないと言えないやつばっかり」


 めちゃくちゃ有用な情報じゃねえか…。ゴールドを払っても良いが、そこまでして欲しいかと言われるとそうでもない。


「じゃあ魔族については?」


「それはもう出回ってるから答えられるよ」


「おっ、俺も聞きたい」


「魔族はルーツが不明な種族みたいだね。今から数百年前から悪魔とか魔の者として恐れられて来たけど、数が少ないから脅威という脅威では無かったみたい。でも数十年前から発見され始めた遺跡に呼応するように、ここ最近で数を増やしてるらしいよ」


「遺跡?」


「前にRSFのことをお前に説明した時、『街並みからは良くある中世らしさを感じられるが、至る所にSFチックな機械や遺跡があったりと、何でもありな世界観』って言ったろ? それだよ」


「でもそんなのあったっけ?」


「始まりの草原には少ないけど、アヴェロアの近くは結構多いぜ。多分アプデで追加されたエリアから本格的に増えてくるんだと思う」


 ウイセはひょいひょい猫じゃらしを揺らしながら話を続ける。


「私たち人類はその遺跡が何なのか分かってないけど、聞いたり調べたりして見えて来た魔族の動き的に、彼らは何か知ってるんじゃないかって考察してるんだ。ほら、遺跡を起動したら人類を滅ぼせるとかさ」


 SFチックな遺跡はいったい何年前からあり、何のために建てられた物なのか。それは考察プレイヤーであるウイセでも知らないときた。


 その謎に満ちた遺跡を利用している疑惑がある魔族。こんなのRSFのストーリーに繋がってそうじゃないですかぁ…。


「魔族は宇宙人なのかもな。遺跡はでっかい宇宙船で故郷の星に帰りたいのかも」


「ふふ。それは思いつかなかったや」


 コスケの突拍子もない考察に、否定するでもなく優しく肯定してやるウイセに、どこか母性を感じられた。


 この先遺跡について調べる事があるかもしれないし、この話を聞いておいてよかった気がする。


「そうだ、妖精種については?」


「精霊を先祖に持つ種族って事しかしらないなぁ。どこかに妖精種に詳しい人いない?」


「ピノーがその妖精種なんだよ。自己紹介してあげな」


「は…っ!」


 ピノーは猫じゃらしから離れ、俺の目の前にて二足歩行になる。


「拙者はピノー=クル・フォーチェ。元ケット・シー騎士団ブラックテイルズ副団長にして、ヨル殿の剣であります!」


「えー、可愛い。撫でても良い?」


 ウイセは答えを待たずにピノーの頭を撫で始めた。最初こそピノーも弱く抵抗していてが、途中から気持ちよさそうに喉を鳴らし始めた。


 コスケも順番待ちのようにしているため、やはり猫と言う動物の魔力は凄まじいのだなと、改めてわかった。


「ケット・シー以外にも、妖精はいますよ」


 頭を撫でられながら、ピノーは質問攻めをを喰らっている。まあ情報の対価が撫で撫でで良いのかとツッコミをしたいが、気持ち良さそうだしいいか。


「人の住む世界の裏側に、妖精の住む世界があるのですが、その境界を潜れるのは強い妖精のみなのです」


「じゃあピノーちゃんは強い妖精さんなんだ」


「…そうにゃります!」


 すんごいゆるゆるになっちゃってるよ。レイピア一つでイレギュラーモンスター倒したって誰も信じてくれないんじゃない?


「妖精がこの世界にいられる時間は限られています。しかし、契約を執り行う事で、パートナーと魔力をリンクさせ、この世界に留まる事が可能になるのです」


「契約はどうやるの?」


「妖精によって違いますね。拙者たちケット・シーは握手による簡単なものですが、血の契約を要求してくる妖精もいます」


「ふむ。ヨルくんとはもう契約したの?」


 ウイセとピノーの会話を、俺とコスケの二人が横で聞くこの構図は暇と言えば暇だが、次々と出てくる情報はどれも重要なものばかりだ。


「なんか手持ち無沙汰だな…」


「俺の番くるかなぁ?」


「……」


 コイツまだピノーを撫でる順番待ちしてたのかよ。もういいよこのネカマエルフ…。


「ありがとうね、ピノーちゃん」


「いえ! ヨル殿のご友人であるならば、協力は惜しみません!」


「よっしゃ俺の番!」


 コスケはピノーを抱き上げると、まるで自分と血の繋がった赤ん坊でも愛でるように撫で始めた。


「うわぁ…」


「ヨルくん、ピノーを貸してくれてありがとね」


「いえいえ。一緒に遊んでくれたお礼だよ」


「ふふ。それにしては多く貰いすぎたから、私も情報をひとつまみ…」


 ウイセは俺の耳元に口を近づけ、小さな声で囁き始める。


「この前、レイちゃんがフクロウの情報を求めてやってきたよ」


「え…」


「フクロウ狩りは終わったのかもしれないけど、まだフクロウを探してるプレイヤーは多いみたいだね」


「それで、ウイセは俺の事をレイに言ったのか…?」


「フクロウって名前のプレイヤーについて聞かれたから、私は知らないって答えたよ。私が知ってるのは、フクロウを名乗るヨルってプレイヤーだからね」


「助かるよ…」


「ふふ。気をつけてね、ゲームを楽しめなくなるかもしれないから」


「その時はその時だ」


 俺はこれからも変わらず好きなようにRSFをプレイするさ。その先に何が待っているのか知らないが、そんな不安以上に、楽しめる予感の方があまりにもデカい。


 そんな事を、美少女ネカマエルフに撫でられまくっているピノーを眺めながら考えた。

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