第30話 誰だぁ今言ったの!?








「いや、初日からイレギュラーとかマジ?」


『運が良いのか悪いのか分からんwww』

『いや悪いだろ!w』

『初心者パーティーが喰われるの悲しいよ』


 俺はエグゼと言う名前で活動している配信者だ。


 メインはFPSゲームのティタニティなのだが、同じ配信者仲間のソーダとユエに誘われて、アプデの終わったRSFを初めてプレイした初心者ヌーブだ。


 ゲーム開始前のキャラクリからレベルが高く、操作性も抜群。そりゃ人気が出ますわってレベルの神ゲーだと言うのがここまでプレイしてみての感想だ。


 ただ妙に現実的な理不尽も再現されていて、このイレギュラーシステムもそのうちの一つだと思う。


「エグゼ動けるー?」


「動けるけど、めっちゃHP減ってるから自然死しちゃうかも」


「今はアプデ直後だから、上級者が皆んな新しい街にいっちゃってるんよね。だから助けは来ないかも…」


「まだ始めたばっかで良かったよな。これでめっちゃアイテム待ってるとかだったらガン萎えよ」


 このゲームのデスペナはそれなりに重いらしく、持っているアイテムは一部を除いて全ロストしてしまうらしい。


 初心セットはロストしないとは聞いたが、それでもやっぱりデスペナは辛いな。


「見てる皆んなこれ俺たちが自然死するまで雑談配信になるかも〜」


『草』

『回復薬もっと買えって言ったのに』

『雑談もおもろいから良いよ』

『あれ、イレギュラー終わってね?』


 コメントを見て気付いたが、確かにイレギュラーアラートが鳴り止んでいる。あのデッカい狼モンスターがどっかに行ったのだろうか。


「もしかして討伐された?」


「え、だとしたら助かる可能性出てきたな」


「助けてぇ!」


「ガチ叫びやめて?」


『笑笑笑』

『気付いてくれるかなー?』

『死体撃ちされない? 大丈夫?』

『RSFの民度を信じるしかないwww』


 助けが来るとは本気で思っていないが、配信の盛り上がりのためにも、希望は見せておいた方が良い。


 自然死まであと10数秒ほどだし、こりゃデスペナかなぁ〜。


「…っちです!」


 ん…?


「…れか!」


 なんか声聞こえね?


「声聞こえるよな!?」


『本当に助け来た!?』

『ここだぁ! ここにいるぅ!!』

『やばいあと数秒で死んじゃうって!』


 まさか本当に助けが来たのか!? やっぱり俺は持ってる。ティタニティでバズった一発屋なんかじゃないってことよ!


「皆さん大丈夫ですかぁ!」


 林の中から現れたのは、梟の頭に人間の体をした化け物だった。


「なんかやばいの来た!?」






******************




 ピノーの案内について行くと、林地帯で大怪我を負ったパーティーを発見した。全員で3人。アプデから始めた新規プレイヤーなのか、初心セットで身をかためている。


 デンジャラスマーク(配信マーク)が表示されているが、もう今更だな。


 そりゃ初めてばっかなのにイレギュラーモンスターに襲われたらこうなりますわ。萎えてゲームを落としてないだけ、この人たちもRSFを楽しんでいたのだと思いたい。


「皆さん大丈夫ですかぁ!」


「なんかやばいの来た!?」


 治療スキルを展開し、症状の悪化を食い止める。診察スキルを使って状態を確かめると、自然死まであと数秒だったのがわかり、冷や汗が流れた。


「ピノー、この探索者たちを一か所に集めてくれ」


「は…っ!」


 指示を受けたピノーは、迅速に離れ離れで倒れているプレイヤーを俺の手元に連れてきてくれた。


『え、ネコちゃんだ!』

『おい待てフクロウじゃねえかwww』

『お医者さんが来てくれた!』

『助かった〜』


 別に離れたままでも治療スキルの効果範囲内ではあったので、そこは良かったのだが、こう指示した方がそれっぽいでしょ?


「まずい状況です。これは一刻も早く治療しないといけませんが、よろしいですか?」


「治療していただけるならお願いしたいですけど…」


「治療費かかりますが、よろしいですよね」


「え…。あ、じゃあ回復薬の分だけお支払いするので、治療は別に––」


「ピノー、治療するぞ!」


「お手伝いいたします!」


「ちょっ待って聞いて!?」


 薬を渡しさえすれば、動けるまでは回復出来るため、街へ行って治療を受ける方が、それはそれはお安い。


「治療しまーす!」


「ちょっと待ってってぇ!!」


『!!??』

『闇医者ムーブの餌食にされちゃったぁw』

『治療費って高いの?』

『治療費をまだ明言してないのがヤバいだろwww』

『ちなみにスタットでの治療費は100ゴールドです笑』


 いつもの手際で出血の状態異常を取り除いて行くのだが、ピノーと言う優秀な助手を手に入れられたおかげで、さらに効率良く治療を進められている。


「治療費なんですけどぉ…、今っていくら持ってますぅ?」


「ホントに始めたばっかなんで全然持ってないです!」


「始めたばっかって事は、初期の10万ゴールド分は持ってますよねぇ?」


「…まっずいかこれ」


「エグゼ余計な事言うなや!」


 よくよく見れば、3人全員が配信をしている活動者のようだ。アプデが入ったから配信のネタにしようとやってきたのだろう。


 声がよく通っているし、リアクションも過剰すぎず冷たすぎず、やはり配信者はプロフェッショナルなのだなぁ。


「まって、この人がフクロウか!」


「あ、γで見た事ある」


「闇医者名乗って虫取りしてる変人だろ?」


「おーいなんか変な伝わり方してるな?」


 3人を同じ場所に集めたせいで、なんだかうるさくなり始めた。状態異常の回復は済んだので、後はHPを回復させて、おまけに移動速度上昇のバフをかければ終了。


「ピノー、この薬剤1対1で混ぜてくれ」


「任せてください!」


 2本の液体が入った瓶と3本の空の瓶を渡し、移動速度上昇ポーションの調合をピノーにやってもらう。俺はその間に、治療費の請求とHPの回復を済ませちゃおうか。


「まとめて回復させちゃいますねぇ」


「俺たちも薬漬けにされちゃう感じ!?」


「やめろそれ! イメージ悪くなるだろ!」


「……もともと悪いじゃん」


「誰だぁ今言ったの!?」


『コントすんなやwww』

『この3人に絡まれてるの大変そう』

『ティタニティのクソガキ三人衆。エグゼ、ソーダ、ユエwww』

『あのフクロウが、ツッコミに回っているだと…?』


「治療費は1000ゴールドにしてやろうかと思ったがやめだ! 一人10000ゴールドな!」


「それはヤバいですって!」


「払わないなら治療キャンセルしちゃいますよぉ?」


「いや、話し合いましょう。俺らが悪かったっす!」


「3、2…」


「やっばいカウントダウン始まった!」


「払ったっす! 俺払ったっすよ!!」


 通知を確認し、しっかり入金されたのを確認して、治療を完了する。そのタイミングでピノーも、移動速度上昇ポーションを完成させてくれたみたいだ。


「ピノー、それを渡してあげて」


「はい! お三方、こちらをどうぞ!」


「ありがと〜。これなんすか?」


「青色だ…」


『え、やっぱり危ない薬なんじゃ…』

『シャブ漬けにされるぅ!!』

『てかこのネコちゃんはなに?』

『ネコちゃん目当てでRSF始めようかな…』


「それは飲んでからのお楽しみさ。それじゃあまた怪我した時は呼んでくれ。治療集金にくるよ」


 ピノーを抱え、煙幕を投げつける。向かうはコスケとウイセがいるであろう第二の街トゥルワだ。


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