第27話 俺の天敵





「おお、マジで自分の思った通り体が動くんだな…」


 始まりの草原にて、コスケがスライム相手に勝利した。


 最初のエリアという事もあり、マップは広く設定されていて、始まりの草原自体が混雑するという事はまずありえない。


 俺とウイセの付き添いもあるからか、トゥルワ近くの林エリアでも十分安全にゲーム感を確かめられている。


「ティタニティより操作感はどうなんだ?」


「こっちの方が良いね。あっちは慣れるまで時間かかったけど、そう言うのまったくない」


 コスケがステータスを確認している。戦闘量的にそろそろレベルが上がっている頃だ。後で一緒に虫取りもやってやろう。きっとレベルが上がるぞ。


「ウイセは何か戦闘スキル持ってんの?」


「体当たりなら持ってるよ」


「完全博士特化か…」


 ウイセはRSFの考察を楽しむ系プレイヤーであり、まったく戦闘系スキルを持っていない。


 ゴールドは、集めた情報を攻略組やクランに売ることで稼いでおり、そのゴールドを報酬として、サバイバルゾーンでの情報収集のため、同行してもらった他プレイヤーに渡しているそうだ。


「ウイセちゃん、聞きたいんだけどさ」


「なにかしら」


「俺たち探索者はどう言う設定なの?」


「別の世界からを探しにやって来た人の事を、探索者と呼ぶらしいわ。本体が別世界にあるから、この世界で死んでもリスポーン出来てるって設定らしいよ」


「「はえ〜」」


「ヨルくんは知ってたでしょ?」


「…うん」


 初耳である。


「てかそろそろ精霊スキル使ってや!」


「そうよ! 早く見たい!」


「わかったって」


 そう言うと、このゲーム初めての精霊スキルを発動させる。若草色のエフェクトがコスケを包み込んだと思えば、一直線に木々の向こうへ吹き抜けていった。


「…うん?」


「失敗した?」


「いや、なんか来るぞ」


 エフェクトが完全に消えたかと思えば、優しい風と共に、小さい光がふわふわと飛んできた。


 たんぽぽの綿毛のように見えるが、よく目を凝らすと、蝶の羽のような物がうっすらと見える。


「あれが精霊かしら」


「じゃなかったらなんだって話だよな」


 ウイセと俺がヒソヒソ話している間、コスケは現れた精霊と何やらコミュニケーションを取っている。


 俺たちには精霊の声が聞こえていないが、アイツにはしっかりと精霊の声を認識できているような、間やリアクションをしていた。


「なんか喋ってるな」


「なんか喋ってるわね」


「何喋ってんだろ」


「アフレコしてみる?」


「ふはっ、良いね!」


 コスケが精霊と会話してる最中、暇な俺たちは、コスケの口の動きから予想でアフレコをして遊びはじめた。


「今暇? これからどこか遊び行かない?」


「ふふ、コスケくんってナンパしたりするの?」


「いや、男出してるコスケ見た事ないからな」


「ヨルくんたち、大学の男の子の中でも浮いてるもんね」


「…え、そうなの?」


 衝撃の事実を突然突きつけられたような気がしたが、精霊とのお話しが終わったのか、コスケが手を振って、羽の生えたふわふわを送り出していた。


「お、初スキルどうだった?」


「なんか、会話ができたよ。まだスキルレベルが低いからか簡単な単語の羅列だったけどね」


「どんなお話しをしたの?」


「なんか、近づいてくるモンスター? がいるから気をつけてねって。うるさい音は心臓に悪いんだぁって。良く分かんないんだよね」


「…あー、どんなモンスターかって言ってたか?」


「ん? 大きな狼?」


「おっけ、すぐにトゥルワ行くぞ!」


「コスケくんも早く準備して」


「えな、なに?」


 大きい狼なんて、ここ始まりの草原にはいません。つまりはイレギュラーモンスターって事だろ!


 狼系統のイレギュラーは今絶対に相手したくない。闇医者と博士と初心者エルフだぞ?


 てか精霊スキルはイレギュラーの予知までしてくれるのか? それとも精霊の気分次第による乱数なのか?


「だとしても有能すぎんだろ…」


「イレギュラーってそんなやばいの? ヨルだってグリフォン倒してたじゃん」


「不意打ちでな? 真正面からやって勝てるわけないんだよ。初心者のお前とひ弱な闇医者と体当たり系博士だぞ? まだ遭遇する前に街に逃げ込めるかも––」


 トゥルワに向かって走り出そうとした時、一度聞いたら忘れられないアラートが、大音量で鳴り響く。


 脳内に直接響いているはずなのに、木々にこだまして、盛大に反響しているようにも感じられる。


 画面端には【イレギュラー発生】と赤い文字で警告文が表示されていた。


「うるっさ!」


「コスケくん、イレギュラー発生の文字押すとアラート音の調整できるよ」


「助かる!」


「まだ近くには来てないみたいだ。始まりの草原は広いからな。さっさとトゥルワに逃げ込むぞ!」


 三人でトゥルワを目指して走り出す。


 アプデ直後のこのタイミングってのが一番やばい。イレギュラーに対応できるレベルにあるプレイヤー全員が、新しいエリアに行っているため、モンスターが討伐されないからだ。


 これはイレギュラーモンスターがどこか行くのを待つ他ないんじゃないか…?


「…今の聞いた?」


「え、なに?」


「遠くからプレイヤーの悲鳴が聞こえたんだよ。それとなんかめっちゃ速い何かが近づいてきてる」


 エルフは自然の声を聞くとバルクハムが言っていたが、単純に耳も良いのかぁ〜。後でどこまで聞こえるのか実験してみよ。


「じゃなくて、その音どこまで––」


『ワオォーンッ!!』


 次の瞬間、獣の雄叫びが鼓膜を揺らしてくる。精霊の言う通り、狼型のモンスター。始まりの草原にいるはずのない強敵。


「追いつかれたみたいね」


「よりによってコイツなんだよな…」


「知ってるの?」


「ハンティングウルフ…、俺の天敵」


 後ろから飛び出して来た巨大な狼は、灰色の体をのけぞらせ、再び空へ咆哮した。

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