第26話 リア友はすーぐイジって来る



「いや本当にありがとう! ここ5日間非常に助かったよ!!」


「いえいえ、臨時収入あざす。んじゃお疲れ様でーす」


 バイトが終わり、夜の街を歩いて帰る。


 バイト先の社員さんがインフルに罹ってしまい、急遽俺が代わりにシフトに入ることになったのだ。


 そのためここ最近はRSFをまったく触れていない。なんなら今日がアプデ完了日だからか、お風呂に入りに来る客の中にも、RSFを話題に出している人がいて、血の涙を出しそうになった。


「…ん」


 スマホが振動したため、画面を見ると、コスケからメッセージが届いていた。


『バイト週間お疲れ。RSFの案内、明日から頼んでも良いか?』


「あったりめぇよ!」


 こちとら5日もお預けをくらったんだ。RSF欲が凄まじいんじゃボケコラ。





******************





「待ち合わせはここで良いはずなんだけど」


 アプデが終わったからか、スタットの街ではヒューマンの他にも、ドワーフやエルフを選択した新規プレイヤーで溢れかえっている。


 そういえば、γで見たのだが、レイ率いるスターレインが最速でイルルーンに到達したらしく、その記念写真は万バズしていた。


「アプデはやっぱりどのゲームでも盛り上がるよなぁ」


「ヨル、お待たせ!」


「おお、コ…、コスケ?」


 俺の名前を呼びながら待ち合わせ場所に現れたのは、長身エルフの美少女だった。パッチリとした大きな目に通った鼻筋。金色の長い髪は後ろで結ばれている。


「ごめんごめん、キャラクリに時間かけちゃったわ」


「お、おお…」


 そのくせ声はコスケのままで、頭がバグる。こいつ、アバターを女にしやがった…。


「…まあええわ。人それぞれだもんな」


「なにが?」


「いや、何でもない。にしても可愛く作ったな」


「だろ? 3時間かかったわ」


「えぇ…?」


「そういうヨルはリアルのまんまじゃん」


 3時間は異常だが、自由度が高いため、凝る人はとことんキャラクリに時間をかける。


 俺は別にこだわりがないため、デフォルトで設定される自分の顔でゲームを開始してしまった。


 個人情報的にどうなの? と当初は言われていたが、リアルよりもゲーム側が多少美化してくれるため、顔による身バレ事件は今のところ大きな問題になっていない。


 なんかどこかで見たことあるなぁ? はたまにあるが、他人の空似である事がほとんどだ。


 俺も、ルナを初めて見た時には誰かに似てると感じたが、結局誰に似てるのかも分からなかったし。多分テレビに出てる芸能人とかに似せてるのかな。


「とりまフレンド交換しとくか。プレイヤー名は?」


「いつも通りゴースKだよ」


 ゴースKで検索をかけ、一番近い人物として出て来たプレイヤーにフレンド申請を送信する。すぐにフレンド登録が完了した。


「よし、あとはウイセだけだな」


「あれ、ウイセちゃんもRSFやってんだ」


「うん。世界観の考察とか研究とか、変わった楽しみ方してるよ、アイツ」


「ヨルも人のこと言えないと思うよ」


「えぇ?」


 いやいや、俺は闇医者ロールプレイをしてるだけで一般的なRSFプレイヤーの括りには入ってるだろ。何言ってんだコイツ。


「ヨルくんがナンパしてるんだと思ったけど、エルフの人がコスケくんなのか」


「あ、ウイセ。久しぶり」


「えー、ウイセちゃんのアバターめっちゃ可愛いじゃん!」


「ふふ、ありがと。ヨルくんもコスケくんを見習わないと一生モテないよ」


「うるせえよ」


 いつの間にか近くまで来ていたこのプレイヤーは、透川とおるかわウイセという。彼女は大学の唯一と言っても良い女の子の友人だ。


 白いトレンチコートに丸ぶちメガネ、手にはステッキを持っており、リュックサックを背負っている。


 俺が闇医者のロールプレイをしているとすれば、彼女はこの世界について研究している博士のロールプレイをしていると言っても良いだろう。


「私ともフレンド登録しよ?」


「良いよん。名前は?」


「ユイ。コスケくんは?」


「ゴースK」


「かっこいいね。アバターは可愛いのに」


「あははっ、ありがと」


 なんか二人がイチャイチャしてるせいで俺が蚊帳の外みたいだが、まあ別に気にしてない。全然気にしてないよ?


「…ふふ、そろそろヨルくんにも構ってあげますか」


「やめろその感じ…。まずは始まりの草原にでも行ってみるか?」


 ウイセが生暖かい目で俺の事を見て来たため、すぐに顔を逸らす。どうしてこう俺のリア友はすぐにイジって来るのだろうか。ルナを見習ってほしいぜ。


「装備は買わなくて良いの?」


「初期装備だけで始まりの草原は十分だよ。普通は回復薬とか買ってくけど、それは俺がいるし、さっさとゲーム性に触れた方が楽しいだろ」


「そうね、私もそれに賛成だわ。早く精霊スキルとやらも見てみたいし」


 ウイセはそう言うと、フンフン鼻を鳴らした。未知のスキルに対しての興奮が凄いんだから。


 かと言う俺も、実際精霊スキルは気になっている。戦闘用なのか、サポート用なのかで取るかどうかも決まってくるしな。


「えーっと、初期装備が、『初心の剣』『初心の盾』『初心の弓』『初心の槍』。あとは防具系か。どれが良いとかある?」


「無難に槍だな。間合いこそ最強。レベル上がってステータスに余裕ができたら好きな武器握ってみろよ」


「うんそうする。じゃあ早速行こう!」


 いったんコスケのボイスだけ切って、美少女エルフとして接するのはありか?


 いやないな。虚しくなるわ。


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