第22話 人手が足りてないな






 バルクハムは続けてエルフについて教えてくれた。もちろんドワーフ目線の説明なので、これが全てだとは思わないよう、あくまで参考にする程度に聞いておこう。


 エルフは自然を愛し、自然に愛された種族だと言う。種族として美形揃いであり、長い耳は自然の声を聞き、碧色の瞳は精霊を認識するためのものらしい。


「精霊、確かアップデート内容に精霊スキルの追加がありましたよね?」


「エルフの初期スキルだな。精霊ってのは何なんだ?」


「精霊は自然界の力が集まり、自我を持った存在だ。俺たちには見る事も感じる事も出来ない。まあ、精霊種を先祖に持つ妖精種が存在してはいるものの、彼らは基本人前に姿を現さん」


「妖精、覚えておこう」


 他にも、エルフはサバイバルゾーンに里を作り、そこで暮らす事で、社会との関わりを最低限に保っているらしい。精霊を知覚できる存在としての、防衛策の一つでもあるのだろう。


 こう聞くと、ノガミたちPKプレイヤー達と生活基盤は似通っているように感じられる。


 里を追放された「はぐれのエルフ」は街で生活しているらしい。追放の条件はバルクハムもよく知らないようだ。


「なるほどな。じゃあドワーフもエルフも差別されてるとか、そう言うのはないんだな」


「ああ。差別とはまた違うが、恐れられているのは魔族くらいだろ」


 おっとぉ…?


「ま、魔族––」


「––ルナ、一旦保留だ。今回の収穫を整理してから、魔族の情報が欲しくなった時、また聞きに来よう」


「…分かりました」


 煮え切らないのだろう。態度から好奇心が漏れ出ている。確かに魔族について俺も聞きたい。聞きたいが、今はドワーフとエルフ。そして精霊や妖精の情報で手一杯だ。


 これ以上の断片的な情報は思い込みにより、かえって自身の視野を狭めかねない。それはゲーマーとして致命的な弱点になり得る。


「ありがとうバルクハム。それじゃあ俺たちは行くよ」


「いや待て待て、情報を話したんだ。報酬をよこしてくれないとな」


「え…?」


「まあそうなるよなぁ。情報的に50万ゴールドでどうだ?」


 見返りの無い行為や情報は信じるな。バルクハムに言われた言葉だ。等価交換が成立する事で、初めて信頼が成り立つと言う良い言葉だと俺は思う。


「金は良い。その代わり、俺の頼みを聞いてもらうぜ」


「はいはい、相変わらず人手が足りてないな」



******************





 俺たちがバルクハムから受けた依頼はとある家具の回収だ。以前納品した家具をどうやら返品したいようだ。


 彼にしては、作品の返品とは珍しいなと思いつつも情報に対しての対価として要求された仕事だ。必ずやり遂げなければならない。


「そう言えば、レイさんとの切り抜きが上がってましたけど良かったんですか?」


「レイ? あー、スターレインのね。別に良かったけどなんで?」


「一部で燃えかけていたので、ヨルさんはどう思ってたのかなって」


「え、燃える? なんで?」


 俺のやってる事の方が断然燃えそうなんだけど…。


「いえ、そんな感じなら心配しても意味なさそうなので大丈夫です。あ、あそこのお家じゃないですか?」


 そう言ってルナが指差したのは、スタットにある高級住宅街でも、一際大きいお屋敷だった。


 この辺りには、家を持ってる数少ない富豪プレイヤー以外には、有力なお家柄のNPCが住んでいる。


 俺もいつかこんな家に住んでみたい。RSFを始めた頃はそんな事も考えていたが、今思えばこんなデカい家に住んでも落ち着かないだろうな。


「お、大きいですね…」


「だな。さっさと終わらせよう」


 でっかい家にあるでっかい門の横にある小さいチャイムを鳴らし、誰かが出てくるのを待つ。


 俺たちが回収するのは、バルクハムの店にも置いてあって鉄製のソファという事で、そりゃ硬くて座り心地は悪いわな。


 バルクハムが俺たちに依頼したのも、インベントリがある分、荷運びは俺たちが適任だからだ。


「あ、人が出てきましたね」


「早くしてくんねぇかな…」


 黒い制服を来たお爺さんが出てきたと思えば、ゆっくりと門に向かってくる。足腰が弱いのか、わざとかってくらいゆっくりだ。


「お待たせいたしました。私はファウード家執事のジルでございます。ご用件をどうぞ」


「バルクハムに依頼されてソファの回収に来た。俺はヨルで、この子はルナです」


「お待ちしておりました。どうぞ中へ」


 許可を得る事が出来たので、さっさと門から敷地内に入る。


「返金代金はソファの状態を確認してからでよろしいですか?」


「はい。主人はインテリアとして飾る事も考えていましたが、流石に大きすぎるとの事で」


「はえ〜」


 家がこんなにデカいのにソファを置く場所は無いのか。俺にはよくわからんなぁ…。


「おや、あの黒猫は…」


 ジルさんは屋敷に繋がる中庭で、何やら見つけたようで立ち止まってしまう。俺とルナも中庭を見ると、怪我をしているのか、ネコが倒れていた。








 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る