第19話 もう始まってるみたいだぞ




 ルナがアヴェロアを拠点にしていると言う事で、あの街の中心部を待ち合わせに指定した。


 予定時間の10分前に着いたので、どこかの店に入って時間を潰そうとも思ったが、ルナもそこへちょうどやって来た。


「あれ、ヨルさん。もしかして待たせちゃいました?」


「いや、ちょうどやね。てかいつもの装備じゃないんだな」


「当たり前じゃないですか。最近あの装備だと声をかけられることも増えて来ちゃいましたから」


 普段のルナは姫騎士と言った風貌だったが、今の衣装はRSFの世界観にあった街娘のようだ。絶対に口には出してやらないが、可愛いと思う。


「この服どうですか?」


「世界観に合ってるな」


「……ヨルさん、モテないでしょ」


「うるせえな…」


 俺の服装はサリアでルナに身バレした時と同じ物だ。彼女と並ぶとなかなかに世界観がバグるため、俺もちゃんとした服を今度買おうと思う。


「それで、情報集めでしたっけ? 具体的には何をするんですか?」


「もう一週間切ったけど、もうすぐでアップデートだろ?」


「はい」


「種族でエルフとドワーフが追加されるのは知ってると思うが、その二種族がこの世界でどういった存在なのかを調べる」


「なるほど。取り敢えず私はヨルさんに付いていきますね」


「うんそれでいいよ。スタットにドワーフの知り合いがいるから、まずはそいつに話を聞こう」


「じゃあ早速スタットに転移しましょうか」


「……あ」


 実は転移してアヴェロアに来たため、インターバル中なのだ。


「え、インターバル中ですか?」


「はい…」


「スタットでの待ち合わせにすれば良かったのでは?」


「……ホンマやん」


 流石にバカすぎる。これにはルナも呆れた表情をしていた。フクロウの仮面をつけて顔を隠したい…。


「しょうがないですねっ。それなら転移できるようになるまで、私の買い物に付き合ってください」


「承知」


 そう言ってルナは歩き出した。その後をついて行くと、ルナは振り返って怒ったような表情をする。


「せっかく一緒にいるんですから、隣に来てください!」


「ごめんって…」


 妹がいたらこんな感じなのだろうか、と考えたが、一人っ子の俺には知る由もない。




******************




「買い物って釣り竿?」


「はい」


「服だと思った」


 ルナに連れられて歩いて行くと、プレイヤーの多い商店街を通り過ぎ、NPCの多いエリアに辿り着く。


 生活用具やアウトドア用品が売っている店が多い印象だ。


「この前は虫取りでレベルを上げたので今度は魚釣りでレベルを上げるんです!」


「……あそう」


 この子可愛いところあるよなぁ…。


「痛ぇ!」


「おい大丈夫かよ…」


 俺の目の前で、男の子が怪我をしてしまったようだ。服装を見た感じ、他のプレイヤーに頼んでアヴェロアまで観光に来たのだろうか。


 俺は反射的にフクロウの仮面を装備し、治療スキルを展開しながら彼らのもとへ走る。


「ちょっ、ヨルさん!?」


「お前ら大丈夫かぁ!!」


「な、なに!?」


「うわフクロウだぁ!」


 どうやら転んで膝を擦りむいてしまったらしい。それなら診察スキルを使うまでもない。止血だけして、大袈裟に包帯を巻いてやろう。


「もう大丈夫だからなぁ!」


「転んだだけなんで大丈夫です!」


「何してんの、この人何してんの!?」


「治療費1000ゴールドね!」


「やめてぇ!」


 怪我をした男の子は俺の事を知っていたからか、闇医者ロールプレイにも付き合ってくれているが、もう一人の子は何がなんだかわからない様子でおろおろしている。


「……はいこれで良し。治療費はいらないから、街でも怪我するって事、覚えとけよ」


「はーい!」


「…ねぇ、あの人なに?」


「フクロウだよ、知らないの?」


 男の子二人組は喋りながら歩いていった。


 フクロウの仮面を外し、満足気な顔をしていると、後ろからルナに叩かれた。


「他のプレイヤーに見られてたらどうするんですか!?」


「でも怪我をした子どもがいたんだぞ!」


「擦りむいただけじゃないですか!」


「擦りむいただけ!? 雑菌が入って膿んだらどうするんだ!」


「このおじさんああ言えばこう言うな…」


「おじさんじゃねえって」


 まあ確かに不用意ではあった。が、闇医者は出来る時にしとかないと、いつ邪魔が入るか分からないからな。


 そんなこんなで釣具を扱うお店までやってくる。


 現実世界でそう言ったお店を利用した事が無いのでなんとも言えないが、釣り竿や擬似餌、その他釣具用品が並んでいた。


「いらっしゃい」


「どもー」


 NPCの店員に挨拶を返し、壁に立てかけてある釣り竿を眺める。


「釣りはまだした事ないんだよね」


「え、そうなんですか?」


「そんな意外か?」


「RSFでやってない事がないと思ってました」


「流石にだろ、それは…」


 釣り初心者の二人が釣り竿を選べるはずもなく、どれが良いのか迷っていると、店員NPCが話しかけてきた。


「何をお探しで?」


「いや、初心者なんでね。どれが良いとかあるんすか?」


「なるほど。ならまずは安い物で川釣りをしてみては? それを楽しいと感じれば、海釣り用の釣り竿をまたご用意しますよ」


 あれ、海釣りなんて出来るとこあったか?


「海釣りはどこでやるんです?」


「イルルーンなんかは有名な釣りスポットですよ」


「イルルーン?」


「はい、アヴェロアの次の街ですね」


 ……え?


「アヴェロアの次の街!?」


「どうしたんですか、ヨルさん」


「イルルーンって知ってるか?」


「モンスターですか?」


「違う」


 ルナも知らない…。


 俺も情報は色んなNPCから集めており、情報通を気取っているのだが、イルルーンなんて初めて聞いた。


「どうしたんですか?」


「ルナ、もうアップデートは始まってるみたいだぞ」







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