第18話 ちょっと調べてみるよ


「またストライク!?」


 ボールとピンがぶつかる音が響き渡るここは、ボウリングを中心としたアミューズメント施設の「ランウド10テン」。


 コスケとは週に一回のペースでラウテンに訪れているのだが、上手くなるのはコスケばかりで、俺は一向に上達しない。


「えぇ、3連続ストライクじゃん」


「週一で来てるからね」


「俺も週一で来てるんだが!?」


 春休み中に家から出ないのは不健康だ、そんな正論で毎週外に連れ出されているのだが、まあまあ楽しめている。


「見てろよ、コスケぇ!」


「はいはい」


 ボウリングボールを持ち上げ、投げるモーションに入る。この春休み中に何回も繰り返した動作だ、俺もストライクぐらい取れる。


 俺の投げたボールは真っ直ぐピンに直進、せずに横へそれ、溝に落ちて転がっていった。


「……よし、ストラーイク!」


「ガーターだよ…。相変わらず下手だね」


「うるせえ!」


「別にラウテンじゃなくて、他のところでも良いんだぜ?」


「負けっぱなしじゃ終われねぇだろ!」


「……じゃあ一生ラウテンか」


 は、うっざ!


 コスケは深いため息を吐きながらマイボールを手に持つ。


 完璧なモーションから、回転のかかったボールは、一回横に逸れてから真ん中に高い威力で当たった。


「……4連続ぅ〜」


「気持ちが良いね、ボウリング」


 俺がこのレベルになるまで、どのくらいラウテンに通わなければならないのか。そしてコスケはなんでこんな上手いのか。


「マジきめぇ…」




******************




「あそうだ」


「ん?」


 ラウテンの帰りに入った、お洒落な喫茶店にて、コーヒー片手にコスケが何か思い出したように話しかけてきた。


「リスファン、俺も始めてみよっかな〜って」


「おお、良いじゃん。最初だけちょっと教えてやろうか?」


「いや今すぐじゃなくて、アップデート後にやろうかなって」


「アップデート?」


「やっぱ知らなかった…。公式サイト見てみなよ」


 コスケに促され、机の上に置いていたスマホを開く。ブクマしてあるRSF公式サイトを開くと、そこにはアップデート予告が大々的に取り上げられていた。


 3月16日にアップデート完了予定と書かれている。


「通知オンにしてても見なきゃ意味ないよな」


「あはは、ヨルの悪い癖だよ。連絡の返信も遅いよね。だからモテないんだよ」


「うるせえな」


 コスケは楽しそうにしてるが、俺はまったく楽しくない。コイツは小学生の時からこうだった。俺の煽りの見本は、なんならコイツだしな。


 スマホの画面をスクロールし、アップデートの内容を確認していく。


 アップデートのメインはアヴェロア以降の街の解放。他にも各自スキルの追加や修正、NPCのAI更新など、多岐に渡っている。


 このアップデートをリアルタイムで行うと言うのだから、制作会社の技術力の高さが伺える。


「エルフとドワーフ?」


「そう、それが目的なんだよね」


 コスケは俺のスマホの画面を覗き込み、エルフを指さす。


 アップデート後はゲーム開始時に種族を選べるようになるらしい。今まではヒューマンのみだったのに対し、エルフ、ドワーフという二つの種族が追加されるようだ。


「見た目だけじゃないんだな」


「そりゃそうだ」


 種族ごとに初期ステータスも違っており、簡単に言えば、エルフは体力が低い代わりに俊敏が高く、ドワーフは俊敏が低い代わりに体力が高いと言った具合だ。


 他にも細かなステータスの違いがあるが、注目すべきは最初から持っているスキルだろう。


「エルフは最初から魔法スキルと精霊スキルを持ってて、ドワーフは戦士スキルと鍛治スキルを持ってるんだって」


「精霊スキル?」


「ヨルが知らないって事は新しく追加されるスキルだろうね。エルフで始めたいな」


「なるほどな〜」


 確かに初期ステータスや初期スキルの新鮮さから、この二つの種族が魅力的に見えるのかもしれないが、結局ゲームを進めればどこかのタイミングでスキルは手に入るし、ステータスも上げられる。


「そこまで魅力的に映らねえな」


「俺がエルフで始めたい理由は何もステータスとスキルだけじゃない。絶対に何かあるだろ、NPCや世界観の補正が」


「……何が言いたい?」


「考えてみてよ。今スタットにエルフっているの?」


「……いないな」


「急にエルフが現れたら?」


「あーなるほど…」


 コスケが言いたい事がようやくわかった。スタット、と言うかアヴェロアまでを含む全ての街でエルフとドワーフの数は圧倒的に少ない。


 そこにエルフがやって来たら、NPCの対応も、ヒューマンのプレイヤーとは違うものになるのが自然と考えられる。


「そこで、アップデートまでに調べて欲しいんだよ。エルフやドワーフがあの世界でどんな存在なのかを」


「抜け目ないねぇ〜。まあ良いぜ、友人が俺のやってるゲームを始めてくれるって言うんだ。ちょっと調べてみるよ」


「ありがとう」


 コーヒーを飲み干し、γを開く。トレンドにはRSFのアップデートに関するもので埋め尽くされていた。


 俺はこんな盛り上がっていたのに、それに気付かなかったのか…?


「ちょっとお手洗い行ってくる」


「あい」


 一人で情報集めるのもなんだし、誰か誘ってみるか?


 ウイセは、二人だと気まずいか…。レイに関しては一回しか話してないし、ここは虫取り仲間のあの子かな。


 γの検索欄から、目当てのアイコンを探してタップする。そこにはルナの文字が書かれていた。


 彼女はDMを開けているようなので、早速メッセージを送る。


「フクロウです。一緒に情報集め……。いや、イタいファンだと思われるか」


 フクロウ=ヨルと言うのは今のところ俺とルナしか知らない。それを文の最初に書き、一緒にRSFをプレイしないかと誘いのメッセージを送った。


 スマホを机の上に置いた瞬間に通知が来たため、情けない声を出してしまった。


「返信はっや…」


 ルナからは、オッケーの一文が送られて来ていた。



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