第16話 面倒くさいからまとめて




 起動した罠は音を立てて、効果範囲内の対象を痺れさせる。一つ起動した罠は連鎖して隣の罠を起動させ、8人全員に麻痺をプレゼントした。


「なんっ、だ…?」


「まさか、凹凸平野の金縛りか!?」


 ワーハルのセリフに、ようやくパズルのピースがかっちりハマった。凹凸平野の金縛り事件は、俺の仕掛けた麻痺罠に引っかかったプレイヤーが、金縛りだなんだと言ったことから広まったようだ。


 罠はホーンラットのような小型のモンスターにのみ反応するよう設定していたはずなのだが、きっとモンスターに反応した罠の巻き添えをくらってしまったのだろう。


 そりゃ運営は動きませんわ。バグでも何でも無いんですもの。


 えー、謝罪します。今回の件、本当にすみませんでした。


「麻痺罠だよ。対ホーンラットを想定して作成したから、一つの効き目は弱いけど、連鎖して強力になってると思うんだ。どう? 傷に染みたりしない?」


「バカにしやがってぇ…!」


「最初から、これを狙ってたのか」


「まあ、そう…!」


 罠が残ってなかった時の事を考えていなかったけど、まあ結果オーライ!


「ノガミさん、これHPも減ってます!」


「なに?」


 え、マジ? 連鎖するとそんなに威力上がるの? いや、それか怪我を負ってる個体には罠によっては定数ダメージを与える、みたいな仕様があるとか…?


 検証する価値があるな…。


「……ってポチ太郎死んじゃうじゃん!」


 木から飛び降り、治療スキルを展開。ポチ太郎が死亡する前に、さっさとHPだけを回復させる。


「あっぶねぇ〜」


 ここまで来て不必要に指名手配犯にはなりたくない。プレイヤーを殺さずに追っ手を無効化させたのだ。まずはそれを褒めて欲しいくらいだぜ。


 さてと……。


「……おや、探索者さん! こんな所でどうしたんですか!?」


「な、なにを言ってるんだ?」


「お前がやったんだろ」


「こんなに怪我をして! もう大丈夫ですよ、俺は医者のフクロウ! すぐに治療しますね」


 ついに、ついに念願となる2回目の闇医者だぁ!!


 ここまでの道のりが、何故かとてつもなく長かった。神が俺の邪魔をしていたと言っても過言ではない。


 それでは、皆さんお待ちかね。


「レッツ闇医者ぁ!!」


「待て、何で今来たみたいな感じ出してるんだ!?」


「まずは診察しますねぇ! こちらは無料ですのでぇ!!」


「話を聞けフクロウ!」


 8人まとめて診察スキルで状態を確認する。状態異常の麻痺と、切創に打撲。戦闘によって負った傷と、低下したHPが回復目標だな。


「それでは治療しますねぇ」


「会話をしろ!」


「ふははっ、これがお前のやりたい事みたいだな」


 ノガミ含む野生連合は、全てを察したように静観している。対する狼紅蓮、特にワーハルは良く鳴いてくれる。これはルナを思い出すな。まあルナの方が華があったけども。


「もう面倒くさいので8人まとめて治療しちゃいますね!」


「おい雑だな!?」


 治療スキルを展開し、痺れて動けないコイツらをまとめて治療していく。まずは切創と打撲の除去。手持ちの薬剤的にも足りるかギリギリだが、治療スキルの補正込みで行けると判断した。


「この薬剤が一つ20万ゴールドでしてぇ。8人分なので取り敢えず160万ゴールドですねぇ」


「いや高すぎるだろ!? 街でなら1万も掛からないぞ!」


「え、ここが街に見えるんですかぁ? もしかして眼もやっちゃってる感じか…。追加診察もいたしますので、その分の請求もしますねぇ」


「診察代は無料じゃないのか?」


、診察代なんで。ノガミさんも他に悪いとこあるか見てあげましょうか?」


「いや、大丈夫だ……」


「遠慮しないでくださいよぉ〜」


「良いから治療するなら早くしてくれ!」


 ワーハルは顔を真っ赤にして大きな声を出す。麻痺の独特な感覚が初めてなのだろうか、不快なようだ。


「まだ入金確認できてないのでぇ。あと10秒で入金が確認出来なかったら治療キャンセルしますよぉ?」


「わかった、払う! 狼紅蓮分の80万だ!」


「俺も、野生連合分の80万だ」


 通知で入金されたというのを確認し、状態異常を取り除く。あとはHPと麻痺を治すだけなのだが…。


「なあ、これ治療終わったら皆んなで仲良く街に帰るよな…?」


「「「そんなわけ無いだろ!」」」


 全員から総ツッコミを受けてしまったが、そりゃそうだ。完全に治してしまったら俺は殺されるか、確保されて情報吐くまでストーキングされるかなんだよなぁ。


 まあ、完全回復はしたくても出来ないんだけどさ。


「あのぉー、お話があってぇ…」


「何だよ、早く麻痺治してくれ」


「それがね? 薬剤がもうなくてさ。HPの回復と麻痺治せねぇわ」


「「は…?」」


「マジごめん、こんな人数治療するとは思ってなくてさ!」


「じゃあどうすんだよ!?」


 これはハッタリでも何でもない事実だ。薬剤切れでこれ以上の治療は見込めない。


 治療出来ないのが本当だと悟ったのか、ノガミは口をぽかんと開けて、唖然としている。


「スキルの補正込みでも全然足んなかったわごめんなwww」


「なに笑ってんだ貴様ぁ!」


 8人分の不満をぶつけられて耳が痛い。設定からプレイヤー音を下げてと、これで良し。


「まあ落ち着けって…。確かにこれじゃあ納得いかないと思う。だから代わりに気分が良くなる薬投与しとくね」


「気分が良くなる薬だぁ…?」


「そう、友人にドワーフがいるんだけど、そいつに酒に似た成分を持つ薬草を貰ってさ。それで作っ––、あ…」


「なんだ、おいっ!」


「なんで気まずそうな顔してるんだ!?」


「……まあまあまあ、大丈夫っしょ。この気分が良くなる薬さ、初めて使うんだけど、予定の三倍使っちったwww」


「「何やってんだお前ぇ!?」」


 ツッコミが気持ち良い…。使いすぎるとどうなるんだろ、この薬。


「実験って意味でも、コイツらに試せて良かったか」


「闇医者ってこうなのか!?」


「ただのマッドサイエンティストじゃねぇか!」


 手を叩き、治療を終了した。エフェクトが消え、目の前のワーハルに診察スキルを使ってみる。


 少ないHPと、状態異常欄に、麻痺の他に泥酔が加わっていた。酒の成分に似た薬草を使ったんだから、そりゃ泥酔になるか…。


「なんだ、目が回る……」


「痺れてるし、気持ち悪いし……」


 側から見れば、ゾンビが徘徊しているような奇妙な光景だ。流石に可哀想だと思い、余っていた酔い覚ましを置いておく。


「あー、酔い覚ましは余ってたから、置いとくね」


「ちょっ、どこにあんの…?」


 あ、ノガミが転んだ。ワーハルに至っては木に手をついて吐いている。そんなキツいんだ、泥酔と麻痺の合わせ技。


 研究しよ。


「じゃっ、俺行くね」


 久しぶりの闇医者ムーブ楽しかったな。これじゃあヤブ医者ムーブだろって? うるせえ殴るぞ。


「あ、そうだ。HP回復出来てないから気を付けろよ。眠りを妨げられたはそこらのモンスターより怖いぜ?」


 俺はそれだけ言い残し、空き地を後にした。

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