第15話 俺の勝ちで決まった
煙幕は急速に広がり、視界を遮る。その隙にポチ太郎を突き飛ばし、逃走を試みた。
「煙幕か…! ハクジンは俺と一緒に来い。ポチ太郎は離れた場所から煙幕の範囲外に出たフクロウの位置を教えろ。りょへは俺たちとポチ太郎の中間位置を取れ」
うわ、煙幕使って逃げるプレイヤーの対処法も確立してんのかよ…。それでもやる事に変わりはない。ここでコイツらを潰す。
煙幕から抜けた瞬間に、もう一度煙幕を投げつける。これで残り煙幕も少なくなってきた。
「ノガミさん、東です!」
「足りてくれよ…」
ポチ太郎の指示を聞いた二人は、しっかり俺の後ろをついてくる。狼紅蓮の時のように、追ってくるのが一人ならまだやりようがあったのだが、人数不利を作られ、しかも少し離れた場所には遠距離攻撃を持っているであろう動きをするプレイヤーもいる。
統率、連携の取れた上手いプレイヤーの動きだ。伊達にPKプレイヤーとして生き残ってるだけはある。
「そのまま直進してるっす!」
「どこに向かうつもりだ、フクロウ…」
走る事で索敵スキルを十分に行えないが、今はそうも言ってられん。活動してる夜行性のモンスターは体が大きいため、目視による最低限の索敵で回避する他ない。
俺の目標は林地帯での乱戦。不道森林のように道なき林の中であれば障害物の何もないここよりかはチャンスがある。
それに、ポチ太郎の動き方がめちゃくちゃ良い。サリア方向とトゥルワ方向を牽制しつつ、しっかりと俺の位置を補足してくるせいで街へ逃げ込む択を取れない。
名前が可愛いくて油断した。
「煙幕足りねぇよこれ…!」
「ハクジン、回避だ!」
ノガミの声に反応して、俺も回避行動を取る。煙幕の中に赤い火球が放たれたかと思えば、小さな爆発を起こした。
火炎を吐くモンスターの接近は確認出来ない。という事はプレイヤーによる魔法スキルの【火球】か?
「見つけたぞフクロウ!」
「な、ワーハル!?」
「なんだ、アイツら…」
ここに来て更なる追っ手かよ。どうする、煙幕の無駄うちは出来ない、考えろ、考えるんだフクロウ…。
「……いや、チャンスではあるのか」
野生連合が足を止めている間にも、俺は走り出す。すぐにノガミが動くがそれをワーハル率いる狼紅蓮が牽制する。
「お前ら、フクロウの仲間か!?」
「貴様らこそ、
ワーハルが現れた瞬間、1対8だと考えてしまったが、アイツらは別に味方というわけではない。
現状は
野生連合は狼紅蓮が、狼紅蓮は野生連合を無視できない。
「りょへ、援護しろ! ポチ太郎はフクロウを見逃すなよ!」
「俺が打って出る。他三人は援護しろ!」
ここからは、いかにヘイトを管理しながら林地帯に移動させるかだ。一番近い林地帯は例の空き地があるあそこか…。
まだ罠が残ってることに賭けてみるのも面白いか…?
「お前ら、目的忘れんじゃねえぞ!」
「忘れてないさ、フクロウ!」
ワーハルが剣を構え、突進モーションに入る。それをノガミが大剣で阻止する形で割って入った。
「フクロウを殺すのは俺たちだ!」
俺を監視するポチ太郎が、離れた場所におり、野生連合VS狼紅蓮が巻き起こる先を、俺が走っている。
煙幕を戦っているノガミとワーハルに投げ込む。そこを中心に煙幕が広がり、カオスを作り出した。
「これで煙幕残り3つ」
いよいよ失敗出来ない数の煙幕。こんなに煙幕が大事になるならもっと作っとけば良かったな。
煙幕が晴れる頃、ようやく林地帯が見えてきた。距離にして約200メートル。
後ろを確認すると、見るからにボロボロになった野生連合と狼紅蓮の姿があった。
ポチ太郎を遠くに置いた、三人の野生連合を四人全員で相手取る狼紅蓮。ノガミの受けているダメージが他のプレイヤーに比べて大きいように感じられる。
「林地帯が目標か…!」
「ちっ、また逃げるのか!」
林地帯に入るタイミングで煙幕を投げつける。これで残りが二つ。
「ポチ太郎、こっちに加勢しろ! もうその位置に役割はねぇ!」
「了解!」
道なき林の中を、スピードを落とさずに駆け抜けるのは至難の業だ。俺も不道森林で慣れていなかったら、すぐに転んで追いつかれていただろう。
足場を見つけ、必要なら木を蹴り前に進んでいく。後ろを見ると、やはり彼らは速度を落とさず進む事に苦戦していた。しかも乱戦状態なのだ、俺よりもさらに困難な状態のはず。
速度を緩めようにも、凹凸平野のエリアとしての性質がそれをさせてくれない。この林地帯は、中心の空き地に向かってなだらかな下り坂を形成しているためだ。
「くそ、木が邪魔だ…!」
「ポチ太郎、お前は前に出すぎるなよ!」
乱戦の状況は林地帯に入って少し変わっていた。HPが少ないと言っても、ポチ太郎が加わった事により、人数差は無くなっている。
野生連合は持ち前の戦闘経験で敵の攻撃をいなしつつ攻撃の手を止めない。対して狼紅蓮は、攻撃がことごとく外れているものの、装備やアイテムの質によりそれをカバー。
セーフゾーンの恩恵を捨てた者達と、攻略クランとして前線に立つ者達の勝負という光景が、露骨に現れている。
「ワーハル、ボロボロじゃねえか!」
「フクロウ、うるさいぞっ!」
互角のようにも見えるが、そこには確かに明確な差があった。指揮をする者の差で、確実にワーハル達は削られている。
ノガミ、対人戦闘においてはやはり無類の強さを誇るか。
「でも、もうそれも関係ないぜ」
空き地に出るタイミングで煙幕を地面に投げつける。白い煙はこの場にいる9人の視界を奪うが、俺は行くべき場所に、予め目星をつけていた。
空き地を進み、罠スキルを発動させる。スキル発動時には現在設置されている罠の位置が確認出来るのだが、空き地の中心に辛うじて麻痺罠が残っていた。しかも8人全員を嵌めるには十分な量。
罠発動条件を任意に設定し直し、煙幕が晴れる前に木に飛び移った。武器同士が火花を散らしているため、彼らの大まかな位置を把握し、タイミングを見定める。
「足場が良くなったと思ったら、空き地に出てたのか…」
「フクロウはどこだ!?」
「ワーハルは相変わらずうるさいな」
煙幕が完全に晴れると、野生連合と狼紅蓮は空き地の中心で武器を構え、対峙していた。そのまま木の枝に立つ俺を見上げる。
煙幕の効果で自分の居場所を認識させなかった事で、位置はバッチリ罠の上だ。
「フクロウは俺たちが殺す。回復薬はちゃんと有効活用するさ」
「いや、フクロウは俺たちが捕え、情報を吐かせるのだ!」
ノガミはロールプレイを楽しんでいるし、ワーハルも本気で役に入り込んでる感じがある。ごめんな、親近感湧かないとか言って。多分俺たち似た者同士だぜ。
「…でも、残念。俺の勝ちで決まった」
指を鳴らすと同時に、俺は麻痺罠を起動させた。
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