第17話 狩るのはフクロウだ
林地帯を抜けて、野生連合が拠点にしていたテントへ戻ってくる。煙幕も残り一つだし回復薬もない。満身創痍のこの体で出来ることなんてたかが知れている。
「あ、まだ火がついてる…」
運良くモンスターと接敵することなく、明かりにつられた虫のように一直線に歩いてきた。薪を消えかかっている焚き火に投げ入れ、火を確保する。
ドロップしたアイテムは根こそぎ取られたのか残っていなかったが、火の横には新規プレイヤーの装備であろう鎧と剣が落ちていた。それなりに時間が経っているのに消滅していないのを見ると、何かしらの意思を感じられる。
「仇はとったぜ……」
「こんばんは、フクロウくん」
剣を拾おうと屈んだタイミングで、声をかけられる。すぐに声のした方向を向き、ナイフを構える。煙幕が少ない状況で戦闘だなんて絶対にしたくなんだが…。
「あはは、安心してよ。私はPKプレイヤーじゃないよ」
「じゃあ何なんだ?」
声をかけてきた女性は、わざわざ持ってきたのか、街で買える木製の椅子をインベントリから出して、そこに座った。
紺色、いや黒色か? 夜空のような美しい色をした、隊服と高校などでよく見る制服を足して二で割ったような装備を身につけている。市販に売っているのを見たことがないので、アヴェロアの仕立て屋かなんかで作らせた一点物だろう。
腰にはレイピアと片刃の剣をぶら下げており、二刀使いなのかと推測できる。つまりちゃんと戦闘を行える攻略組ということだ。ワーハルなんかとはオーラが違う。
「あまり見られると恥ずかしいな……」
「あ、ごめんなさい……」
びっくりした、可愛いっ。剣を見ていたつもりなのだが、スカートからすらっと伸びた脚を見ていると勘違いされたようだ。確かにエッチではある。
「じゃなくて、どちら様で?」
「そうだよね、自己紹介からだよね。私は【
スターレインって、俺でも聞いたことあるクランだぞ。そんな最大手様が一体何のようだってんだ。
「俺は―」
「―フクロウくん、でしょ? 知ってるよ」
そういや話しかけられた時に名前呼ばれてたっけか…。まさかこいつも狼紅蓮同様に俺を狙って捕まえにきたのか?
「まさか、俺が狙いで……」
「ううん。ここには凹凸平野の金縛りについての調査に来たんだ」
「あっすぅ~……」
これは恥ずかしいですねぇ。「手を振られたと思って振り返したら、自分じゃなくて後ろの別の人に向けてだった」と同じ羞恥度です。実際に今の気持ちを聞いてみましょう。現場のヨルさーん。
「……恥ずかしいです」
「ご、ごめんね? でも会いたかったんだよ、興味があって」
「え……」
これは、ラブコメの波動を感じてもよろしいか?
「診察スキルや治療スキルの件でね」
「ああ……」
どうやら俺単体ではなく、スキルについてだったらしい。もうこの際だから聞かれたこと全部喋っちゃおうかな。そしたらワーハルももう追ってこないだろうし。
「もちろん、スキルの仕様に自力で辿り着いたフクロウくんが一番興味あるよ」
「……さいですか」
その一言から雰囲気が変わる。俺が感じていた波動は全然ラブコメなんかではなく、殺意の波動だった。敵意とはまた違う、純粋な悔しさから来る殺意。俺がコスケとボウリングをしている時に、コスケがストライクをとった時、悔しさで顔を歪ませる俺と同じ顔をしている。
「君のこと、教えてくれないかな?」
完全に彼女のペースだ。疲れからか、完全に思考能力も落ちているし要らない事まで喋ってしまいそうだ。
だからこそ、闇医者を全力でロールプレイしなければならない。どっかのバ○ージも「それでも!!」って言ってくれている。
「良いだろう。俺は心優しきお医者さんフクロウ。君の心の不安を取り除いてあげよう」
「わぁ…!」
俺はインベントリから荷物を包む用に買った毛布を取り出し、それをレイの膝にかける。他にもリラックス効果のあるアロマを置いたり、薬草から調合したハーブティーを渡したり、準備を完了させた。
「これはフロイトが考案した自由連想法をモチーフにしたものだ。質問する側もリラックスできた方が気持ちいいだろ?」
「ふろいと?」
「ん、気にしないでくれ。で、質問は?」
俺も椅子をインベントリから取り出し、それに腰掛ける。アロマのいい香りが漂う中、ハーブティーを口に含む。アロマの匂いとハーブティーの匂いが混ざってちょっと気持ち悪いか……。次回から改善しよう。
「ルナちゃんとは付き合ってるの?」
「ブッ…、はぁ!?」
「だっていつも一緒にいるから…」
いつもって言ってもまだ二回しか会ってないんだが。あーでも、フクロウとしてRSFをプレイしてる時間の半分以上はアイツと一緒にいるのか?
一緒に虫取りもしたしな。
「そんなんで付き合ってるとか、恋愛経験のないお子ちゃまですかぁ?」
「……だったらなんですか」
「効きすぎだって…。他は?」
「うーん……」
そう言ってレイは視線を下げた。その間に薪を焚き火に突っ込んで、明かりを維持しておく。キャンプとかに行った時とかにも感じるが、この絶妙な明るさがいいんだよな。
「じゃあ、私が配信してるの気づいてる?」
「え」
画面端を確認すると、そこには配信者が近くにいる事を示すマークがともっていた。ルナの時もそうだったが熱中してたり疲れたりしてるとマジで気づけないんだよな。
そしてこれからはこのマークをデンジャラスマークと呼ぶことにしよう……。
「気付いてたヨ」
「ふふ、なら良かった」
配信されてるのか~。それならもう少し派手にやった方が盛り上がったかなぁ。
「実はフクロウくんを見つけたのはもう少し前なんだ。10人くらい引き連れて走ってたでしょ?」
「……え、じゃあ全部見てんじゃん」
「ふふん、コメントの皆んなと大盛り上がりしちゃった」
「楽しんでいただけたなら幸いです」
「そうだ、視聴者に向けてコメントをどぞ」
急に言われても特に何も思い浮かばない。だが一流の闇医者ならここでバッチリ決める。そして俺は一流だ(キメ顔)。
「そうだな、視聴者ってよりかは俺を探してる奴らに。俺を探してる連中は、自分のことを狩る側だと思ってのかもしれないが、狩るのは
「……それは宣戦布告?」
「どうだろうな」
ああ、後は……。
「今日凹凸平野でPKされたプレイヤーへ。仇はとったぞ」
俺は落ちている装備を拾い、レイに渡した。彼女なら元の持ち主にきっと届けてくれる。そんな謎の自信がある。
「フクロウくんが渡せばいいのに」
「ガラじゃない。じゃあなレイ、その毛布は返さなくていいぜ」
最後の煙幕を地面に投げつけ、隠密スキルを発動。お決まりの逃走手段だ。
「また会おうね、フクロウくん」
後ろからは悲しげな女性の声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます