第13話 逆にデッドスピアを喰らった話
凹凸平野。
起伏の激しい草原と、所々に林地帯が見え、海へと流れているであろう河を眺める事も出来る、始まりの草原がレベルアップしたようなマップだ。
「平野なのに凸凹とか矛盾しとるやんww」というボケを狙ったマップかと思いきや、起伏の影響でモンスターの接近に気付き難くなったり、遮蔽となるような障害物が少なく、防御行動をとり辛かったりと、始まりの草原に比べて凶悪さの上がり幅が凄まじい。
なによりマップが広い。現状では1、2を争う面積を誇っており、負けそうになったモンスターから逃げると言った状況や、瀕死になっしまい、すぐに街の病院へ行かなければならないと言った状況に陥ったいくつものプレイヤーに絶望を与えて来た。
「初めてのデスはどのマップでしたか」というインタビューでは、凹凸平野が堂々の一位に輝いた(ヨル調べ)。
「俺も初めてのデスペナはここだったな…」
起伏の激しい地面を歩きながら、サリアがあるであろう方向を眺める。
あれはリリースしてから二週間目の良く晴れた日だった。デッドスピアの仕様について研究をするために凹凸平野に訪れた俺は、ホーンラットにぶち殺された。
ツノの生えたウサギのような見た目をしたモンスターなのだが、コイツ自体は始まりの草原にも棲息しており、ろくな戦闘スキルを持っていない俺でも余裕で勝てるようなモンスターだ。
しかしここは凹凸平野。起伏に隠れたホーンラットに気付かず、横から飛び出て来た白い毛玉から、逆に
ホーンラットのツノは、俺の無防備な脇腹を突き刺し、自己治療を行おうとしたものの容赦ない追撃にて死亡した。
「今でもここ怖いんだよな…」
慎重に索敵しつつ、絶対に不意打ちを喰らわないよう進んでいく。ここで不用意に走れば死ぬと言っても過言ではない。ここはそう言うマップなのだ。
「遠くにプレイヤーはちらほら見かけるけど、怪我してないんだよなぁ〜。やっぱ闇医者ムーブはモンスターの強い前線がやりやすいっぽいみたいだな」
夕日に照らされた凹凸平野を眺めていると、革の鎧に質素な剣を装備した、見た目的に新規のプレイヤーがこちらに手を振ってくていたので、俺も笑顔で手を振りかえす。
「あ、仮面つけてるから表情わかんねーか」
闇医者ムーブは一旦保留にして、凹凸平野の金縛りについて調査する事にしよう。トゥルワで聞いた感じ、金縛りに遭ったプレイヤーは少ないみたいだから、人があまり通らない場所なのか?
「うーん…」
広大なマップと言えど、無限に続くわけではないこの凹凸平野で、そんな隠れスポットになるような場所が思いつかない。
強いて言うなら、ここから東方面に見える林地帯の中に、ぽっかり空いた空き地があるのだが、そこくらいだ。
「でもそこで麻痺罠を試した時には金縛りなんてなかったしなぁ…」
その空き地は、道なき林に囲まれていると言うこともあり、プレイヤーの数が少なく、相対的に狩られず残ったホーンラットが多くいたため、設置型の罠を試すために使った事があったのだ。
罠による麻痺が長く続くよう試行錯誤をしていたが、もちろんその時に金縛りに遭う事はなかった。
「あれっ、金縛りと麻痺罠……?」
何かパズルのピースが繋がるような気がしなくもないが、自分の視界が暗くなったため思考が一瞬にして切り替わる。
「やっべ、もう夜になるのか。視認性悪くなるから
あとは単純に夜行性モンスターがちゃんと強いから怖い。
さっきの新規プレイヤーくんはセーフゾーンに辿り着けたのだろうか…。お兄さんはそれだけが心配だよ。
「まあ怪我してたとしても俺が治療してあげるんだけどねっ。その場合治療費はいくらが正解なんだ…?」
ちょうどトゥルワとサリアの中間地点にいるため、引き返すか進むか迷う位置ではあるのだが、せっかくだしサリアに行こう。トゥルワでは追いかけっこが衛兵NPCに目を付けられてそうだし…。
麻痺罠が眠ってるであろう空き地方面からサリア方面へ向きを変える。
******
モンスターによる不意打ちを警戒して、のろのろと進んでいるうちに、とっぷりと辺りは闇に包まれてしまった。
夜行性のモンスターによる雄叫びや、風が木々に当たる音がリアルで凄く怖い。下手なホラゲーやるより夜の凹凸平野を爆走した方がスリル味わえるだろこれ。
「ああ?」
夜の凹凸平野だったが、前方にうっすらと焚き火による明かりが目についた。松明を掲げてサリアに向かっているプレイヤーなのかとも考えたが、それにしては移動してるそぶりが見られない。
「未発見のモンスターキタコレ!?」
急ぐが、決して索敵を怠らずに明かりの方へ向かう。もしかしたらこの明かりが凹凸平野の金縛りのヒントになるかもしれない!
「くっそ、アイツちゃんと手強かったな…」
「回復薬尽きてるんだぞ、どうすんだその傷」
なんとそこには怪我しているプレイヤーとそれを囲む3人の仲間がいた。焚き火の他にはテントが建てられている。
「怪我人キタコレぇ!!」
「な、なんだぁ!?」
大声に驚いたのか、4人のプレイヤーが一斉に俺の方を向く。
「俺は医者のフクロウ、今治療しますからねぇ! レッツ闇医者ぁ!!」
治療スキルを展開しつつ、怪我をしたプレイヤーに駆けつける。外野で彼らが叫んでいるが、久しぶりの闇医者ムーブにて、俺は周りが見えていなかった。
「まずは診察しますねぇ! これは無料ですのでぇ、はい!」
「アイツの仲間か!?」
「いや、コイツ見た事ある…」
診察結果はHP低下と、切創の状態異常。手持ちの道具で十分に対処の可能な傷だ。
さて、治療費はいくらにしようかなぁ…って、こんな切創を作るモンスターなんて凹凸平野にいたか?
ふとした疑問から、一気に冷静になる。視野が広がり、周りを確認すると、そこには身に覚えのある皮の鎧と、質素な剣が無造作に転がっていた。
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