第12話 1v1に持ってくのは定石だぜ?



 これまでのあらすじ。


 リリース日からプレイ時間を全て費やしキャラビルド闇医者を完成させたヨル。


 フクロウと名乗り早速闇医者ムーブをするのだが、最初のターゲットは最近人気の配信者、ルナ!?


 なんと初手から晒されてしまう。


 満足に闇医者も出来ず、虫取りをしたり、グリフォンを毒殺したり、これじゃ闇医者じゃなくてただのRSF廃プレイヤーだよ〜。


 終いには狼紅蓮と名乗るクランがフクロウを捕らえようと追いかけてきてる!?


 ここが正念場よフクロウ。ここを逃げ切ったら衛兵NPCに相談したり、逆にSNSで晒したり、反撃のチャンスはまだあるんだからっ!


「次回、フクロウ死す!」


「なに言ってんだお前は!?」


 ワーハルからのツッコミに、このネタが伝わらない事へのショックを受けるが、確かにこんな馬鹿みたいなセリフを吐いてる余裕はなさそうだ。


 俺の真後ろにワーハル。建物の上に二人。もう一人は、多分少し離れたところで挟みうちの形を作ろうとしてる。


 煙幕投げて、転移で別の街に…って転移さっき使ったばっかだ。目先の楽さに誘惑されたぁ。


「……妙に手慣れてるねぇ、ワンちゃん」


「まあ、初めてじゃないからな!」


 常習犯かぁ。多分こうやってプレイヤーを脅して無理やり加入させるか、情報を吐かせるかしてきたんだろう。


「今はそれで良くても、この先絶対後悔するぞ」


「ふん、その時はその時だ!」


 あぁ、やっぱバカだ…。


 ただ運営に通報すると言っても、


 RSFの運営は良くも悪くも放任主義。プレイヤー自身でゲームを作り上げていってほしいとPVで断言するほどだ。


 運営が動くのは例外を除いて、ゲームの根幹を揺るがす場合のみ。チーターや、バグを利用したグリッチ使用者が該当する。


 他にも、配信を生業としている人達への悪質なゴースティングや誹謗中傷は業務妨害等の罪として、法的処置に則って運営が対処してくれるらしい。


 まあそんなはRSFリリース日から一週間以内に死滅した。『リスファン 冬のBAN祭り』として盛り上がったのを覚えてる。あ、リスファンってのはReStart Fantasyリスタートファンタジーの略ね。


 つまり今のこの状況も、ゲームの想定の範囲内という事になる。どんなゲームだよ、マジで……、最高だな!


「情報を吐くまで狙い続けるぞ!」


「したら衛兵NPCに指名手配させるぞ」


「そうなればサバイバルゾーンで待ち受けるのみだ!」


「暇人かよこのニート集団!」


 運営が動かないゲームの想定内かつ、な事象は衛兵NPCが対応する。


 簡単に言えば、RSFのを管理するのが神である運営。RSFのを管理するのが、警察的存在である衛兵NPCという事だ。


 ストーカーの事を警察に相談しても、実害が出るまで動けないという現実世界でもたまに聞く話があるが、そう言ったリアルさもRSFは再現している。


 精神的に傷つけられたと言えばワンチャンスあるが、全く傷ついてないし、俺は嘘が嫌いだ()


 結論から言うと、運営は辛辣だし、衛兵NPCはリアルの警察だと思えって話でした。


「…ってマジでしつこいなぁ!」


 ワーハルが一人であればすぐにでも撒けるのだが、視界を広く取ってる上の二人と、姿の見えない三人目の影響で下手に煙幕を投げれない。


 逃げ切るために煙幕を投げまくったら逆に俺が衛兵NPCに捕まる。煙幕多投事件でそれは経験済みだ。


「サバイバルゾーンで一人消すかぁ…?」


 武器の使用や戦闘系スキルの制限があるセーフゾーンではあまり聞かない話だが、RSFではPK、いわゆるプレイヤーキルが可能なのだ。


 武装の制限が解除されるサバイバルゾーンでは、プレイヤー同士の殺意100%の殴り合いが出来る。


「そうと決まれば一番近い凹凸平野だな」


 目的なく走っていた道から、凹凸平野への道へ進路を変える。久しぶりに来たトゥルワだが、土地勘はまだ衰えていない。


 あくまでPKは最後の手段。逃げれるなら逃げたい。理由として、PKを行うと犯罪者になってしまうというものがある。


 RSFのゲームの仕様としてPKは可能だが、世界観的には犯罪者として指名手配され、罪を償うまでセーフゾーンでの活動が制限されてしまうのだ。


 セーフゾーンでの宿屋利用不可が一番大きく、サバイバルゾーンでの無防備ログアウトが日常になってしまう。


 『犯罪者』や『傭兵』のスキルセットに、野営スキルがあり、それを使用する事でサバイバルゾーンでも、夜間限定の安全地帯を作れたりするが、獲得条件の一つに「指名手配される」がある時点でお察しだ。


「サバイバルゾーンに逃げ込むつもりか!」


「はいはい、よくわかったでちゅね〜」


「フクロウ!!」


 もちろん好きで煽っているわけではない。苛つきは思考を鈍らせ、判断力を低下させる薬なのだ。そう合理的な判断から煽を行っている。


 確かに顔が真っ赤なワーハルは面白い。顔が真っ赤なのに面が白いとはこれいかにってね。


「まあお前は元々考えなしか!」


「貴様ぁ!!」


 トゥルワの門を抜け、凹凸平野に突入した。すぐさま反転し、ワーハルが凹凸平野に入って来たタイミングで地面に煙幕を投げつける。


「なっ!?」


 ワーハルの仲間は、建物の上と少し離れた場所にいたために、若干の遅れが出ている。


「1v1に持ってくのは定石だぜ?」


 強制的に認識から外れた事による不意打ち判定。デッドスピアの条件が達成された。


「ここ…!」


 しかし、ここであえて人間の急所となる心臓や首を狙わず、太ももにナイフを突き刺す。


 デッドスピア効果でクリティカルになるが、部位判定によってHPはかろうじて残り、体力調整に辛うじて成功した。これで指名手配は無い。


「フク、ロウ…」


「麻酔用の麻痺薬をナイフに塗ってある。しばらくは動けんよ。あ、治療しましょうかぁ? 安くしますよ、はぁい」


「この…!」


 煙幕の効果が切れかけるタイミングでワーハルの仲間たちも凹凸平野に入って来た。


「お前ら、追え!」


「いや、ワーハルの回復が先だ。街に戻る」


「くそっ…!」


 もう一度煙幕を投げ、狼紅蓮から離れるように凹凸平野を進んでいく。後ろからはワーハルとその仲間の会話が小さく聞こえてくるが、追ってくる様子は見られない。


「隊長格っぽいワーハルを行動不能にしたから回復を優先するはず」


 これで邪魔はいなくなった。



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