第11話 なんですかぁ?






「久しぶりだな、第二の街【トゥルワ】」


 転移を挟み、スタットからトゥルワに移動する。わざわざ転移するような距離でもなかった気がするが、まあ楽なので…。


 俺の事を探してるプレイヤーがいるとのことだが、それで闇医者ムーブを自重しようとは思えない。なんで他人のせいで楽しみを邪魔されなければいかんのじゃ。


「ふんっ…!」


 仁王立ちで鼻息を荒げてみるが、不安が無いわけではない。俺を探してるのが複数人かつ、害悪だったのなら、こちらもそれ相応の対応をしなければならん。


「そういや【凹凸平野】の都市伝説知ってる?」


「なにそれ」


 え、なにそれ気になるんだけど…。


 俺の真横で話す一組のプレイヤー。その話に聞き耳を立てる。闇医者は情報通であるべきだからな(ヨル調べ)。


「凹凸平野に入ると動けなくなるエリアがあるんだってさ。動けないままモンスターに殺されちゃうんだと」


「え、バグってこと?」


「報告したプレイヤーもいるらしいけど、運営からは特になにも無し。その動けなくなるエリアが嘘なのか本当なのかもよく分からないから『凹凸平野の金縛り』だなんて言って都市伝説化したのよ」


「へぇ〜」


 凹凸平野の金縛りか…。もしバグだったら致命的だけど、運営から何もないって事は違う要因があるのか?


 未知のモンスターによる攻撃なのか、それとも凹凸平野特有のでこぼこした地面に足を取られたのか。


 凹凸平野に行くのは罠でのモンスター狩りを試して以来だから、それなりに土地勘にも不安がある。


「ま、検証しないとだな…」


 フクロウの仮面を身につけ、黒白衣を装備する。この姿になると、心なしか気分が昂ってくる。


「よし、レッツ闇医––」


「––フクロウ、ようやく見つけたぞ!」


 トゥルワにて闇医者ムーブをしつつ、凹凸平野の金縛りを検証しようと息巻いた瞬間、空気の読めないプレイヤーに声をかけられた。


「なんですかぁ…?」


「フクロウ、私は攻略クラン【狼紅蓮オオカミぐれん】のワーハル…ってどこ行くんだ!?」


 ワーハル? がふんぞり返っているうちに街から出ようとするも、そう上手くは行かずに捕まってしまう。非常にめんどくさい。もの凄くめんどくさい。


「さてフクロウ、早速本題だが、狼紅蓮に加入しろ。お前の知識やスキルを我らが––」


「––あ、大丈夫ですぅ〜。失礼しますぅ〜」


「最後まで話を聞け!」


 なぁんでこの人こんな偉そうなの? 仰々しく言ってはいるが、要はクランへの勧誘なんだろ?


 このゲームを始めたあの日、自分のペースで、自分の面白い事をやるって決めたあの瞬間から、クランに加わるのは俺の中で論外なんだけど。


「お前にとっても悪い話じゃないだろ。有名なクランの後ろ盾がつくんだぞ?」


「ゆう、めい……?」


 俺が無知なのもあるが、聞いたことのあるクランと言えば流星群スターレインくらいだ。


「てか、別に俺を勧誘する理由なんて無いだろ。断ってるんだから諦めてくれ」


「診察スキルと治療スキルの件だ! 公開された診察スキルを所持するプレイヤーは増えたが、まだ治療スキルをお前ほど高レベルで使えるプレイヤーはまだ少ない」


「それで…?」


「他のプレイヤーは治療スキルのレベル上げに必死だが、俺たちは別の方法を閃いたんだ。フクロウをクランに入れることで、高レベルのヒーラーを一瞬で手に入れられるってな!」


「……」


「これで流星群スターレインを出し抜き、俺たちがRSFで一番のクランになれる!」


「……それマジで言ってんの?」


「大真面目さ!」


 すっー、呆れた…。これからクランに加入するかもって奴の気持ちも考えずに、勝手に話進めてるのも控えめに言って頭悪いだろ。


 狼紅蓮って言ったか、こんなのが攻略クラン名乗ってるってマジ? 失笑通り越して爆笑ですわ。


「がはははっ!!」


「おい、急にどうした…」


「いや何でもない。取り敢えず、話聞いてみてやっぱり断るよ。メリットよりもデメリットのがはるかにデカい」


 俺はワーハルを背にして、さっさと凹凸平野に向かおうとするが、彼以外にも、俺の事を監視しているプレイヤーを見つける。


 人混みの中や店の中。計3人ほど、ワーハルに気を取られていて気付かなかった。装備から攻略組だとわかり、狼紅蓮のメンバーなのだろうと予想がつけられる。


「街での聞き込みが無駄になるだろ。悪い事は言わない、俺たちの仲間になれ」


 ワーハルを改めて見ると、ルルカル先生の言っていたプレイヤーに重なる部分が所々に見受けられる。上等な防具と、良く手入れをされた武器。そして人の話を聞かなさそうな態度。


「お前、スタットの病院でも俺の名前を聞いたか?」


「ああ、スタットは俺の担当だったからな。そういや街の端っこにさ、今にも潰れそうって小さな病院があって笑ったよ」


 スタットの端にある病院ってルルカル先生のとこ以外に無いんだよなぁ。確かに外見はボロボロだけど、そう簡単に潰れるほどヤワじゃないんだぜ?


「仲間になれ、だったか?」


「お、やっと話が通じたか!」


「……答えはNOだ。誰がわんわん吠える子犬の相手しなきゃなんねぇんだよ」


 俺はワーハルから少し距離を取り、中指を立てる。ゲームの仕様上、真っ直ぐ天に伸びた中指にはモザイクがかけられている。


「……なんだと。良いのか、後悔するぞ!」


「負け犬の遠吠えがうるせぇなぁ〜」


 その場を離脱しようとすると、遠くから俺を監視していた3人のプレイヤーも、一斉に移動を開始する。


 煙幕と隠密スキルの合わせ技で、この場から強引に逃げられるか考えてみたが、煙幕の効果が切れる前に追っ手を振り切れる立ち位置じゃない。


「良い位置に立ってんなぁ…」


「フクロウ、勧誘が無理なら情報を吐いてもらうぞ」


「はっ、鬼ごっこは小学生ぶりだなぁ!」





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