第8話 ありとあらゆる経験
「それで、虫は何に使うんですか?」
サリアを囲うように広がる麦畑にて、虫取り網と虫かごを装備した俺とルナ改め、わんぱく系探索者ズは、広大なフィールドを前に突っ立っていた。
街の外という事で、一応サバイバルエリアに分類されるのだが管理をしているNPCが徘徊しており、衛兵NPCもたまに訪れるため、モンスターの出現頻度は限りなく低い。
「あれ、言ってなかったか?」
麦畑に入るところで、ルナに虫取りをする理由を伝えていなかったことを思い出す。ゴタゴタしていてそれどころじゃなかったからな。
「罠の釣り餌に使うんだよ。だからなるべく生かして捕まえてくれ」
「なるほど、わかりました」
麦畑に入ると麦の背丈は俺の腰より上の位置にあり、足元が見えにくい。
目当ての虫はバッタの様な蛾の様な、デフォルメされてはいるが、昆虫の特徴はしっかりと残している。確かNPCはムギクイムシとか呼んでたっけね。
「あっ!」
「どした?」
「昼から配信するって言ってたんだった…。もう時間過ぎてる」
「早く配信つけな? したら仮面つーけよ」
「え、配信しても良いんですか?」
「うん。ルナの配信に映るのも二回目か」
なんだか驚いた様子だが、梟の仮面をつけて構わず虫取りをする俺を見て、さっさと配信を開始した。
「あ、えっと、遅くなってごめんなんだけど、その〜…」
『こんルナ〜』
『こんにちは』
『え、フクロウ氏!?www』
『ど、どういう状況…?』
「あー、えと、虫取りしてます」
************
「あ、レベル上がってる…」
「おー、おめでとさん。RSFで虫取りした事なかったのか」
ルナが配信を開始してから十数分後。ルナが虫取りをしながら簡易的に視聴者へ状況を説明した。今は本格的に虫取り作業を行なっている。
『モンスター倒す以外でもレベルって上がるんだ…』
『レベル上げに苦労してたのが嘘みたい』
『今来たんだけど闇医者いね?』
『今はフクロウさんと虫取りしてる』
『はい?www』
「モンスター以外でも経験値って貯まるんですね」
「ん? もしかしてレベルが上がる仕様知らない感じか?」
「え、ヨ…。フクロウさんは知ってるんですか?」
「まあうん。端的に言うと、この世界でのありとあらゆる経験がレベルアップに繋がる」
ルナの様に勘違いしているプレイヤーも多いが、経験値は色んな行動で獲得できる。
モンスターから経験値が落ちるのではなく、モンスターと戦う経験。倒す経験。素材を拾う経験と言った、あらゆる行動によって経験値を獲得することができるのだ。
この「経験」は、初めてに近い方が貰える経験値量も増える。今の状況で言えば、ルナが虫取りを初めて行なったため、経験値が多く入っていると言った形だ。
「つまり、戦闘以外にもこのRSFの世界で出来ることを積極的に行うことが効率の良いレベル上げって事だ」
「なるほど…」
『へ〜そんな仕様だったんか』
『経験値がどのくらい貯まってるか見れないから、その仕様には全然気付けなかった』
『そういやいつの間にかレベルが上がってる事あったけど、その謎が解けたわ』
『でもモンスター倒しまくっても経験値は手に入るよね?』
「確かに、モンスターを倒すだけでもレベルは上がりますけど、それはどうなんですか?」
「それは試行回数からくる慣れを再現してるって捉えてる。例えば、始まりの草原のエリアボスになんかでっかいスライムいるだろ?」
「ヒュージスライムですね」
「そのスライムを1回倒した時と、100回倒した時では100回倒した時の方が、1回目に比べて弱点が分かってたり、戦い方が分かってたり、効率的に倒せてるはずだろ? それを再現するために、初めて倒した時よりも少なくはなるが、経験値が貰えるってわけだ。長くなったけど理解できたか?」
ムギクイムシを捕まえ、虫かごに入れながら、ルナと聴いているであろう視聴者に向けて説明してみる。
公式が明言しているわけではないので、あくまで俺の仮説なのだが、モンスターとの戦闘以外にも、調薬は商売、虫取りなど、ありとあらゆる経験をRSFで積んできた俺の仮説だ。
合ってる。
多分。
きっと。
「もしかしてフクロウさんって凄い人ですか?」
「なんか含みのある言い方だな。まるで凄い人だとは思ってなかったみたいな」
「だってピンクの虫取り網持った変な人だったじゃないですか」
「もうやめてよ、俺の桃色丸の事イジるの」
「うわっ、名前付けてる…」
『ドン引きwww』
『桃色丸なんだよね〜笑』
『経験値に関しての考察は的を射てるよな』
『攻略組でも知ってる人と知らない人とで分かれそう。現にルナ嬢知らなかったし』
「コメント見た感じ知ってる人の方が少ないみたいですね、経験値の仕様」
「マジ? やらかしたか、これ…」
まぁええか! ゲームの情報なんて出回ってなんぼだろ!
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