第9話 これがハンターの狩りだ



「ルナ、どんくらい集まった?」


 日が傾き始めた頃、虫かごいっぱいにムギクイムシが集まったので、そろそろ撤収しようと思う。


 RSFは現実世界の10時間で一日が終わる。リアルの一日の内に、RSFでは朝が3回と夜が2回、もしくは夜が3回の朝が2回訪れる計算になってくる。


 時間配分として、朝から昼が5時間、夕方から夜が1時間、夜から早朝が4時間と言ったところだろう。RSFには季節も存在するので、それによって日が伸びたりもする。


「はーい」


『呼び捨て良いね』

『ルナ嬢と仲良いの微笑ましいな』

『これにはガチ恋勢が黙ってないぞ』

『虫集めてどうするの?』


「虫は罠の釣り餌にするみたいだよ」


「生きてる方が食いつき良いから、なるべく優しく扱ってな」


 虫かごの中身を確認しながら、俺はショッキングピンク虫網、もとい桃色丸をインベントリにしまう。


 虫かごの効果は虫、および小型生物限定で保存枠を増加させるというもので、見た目だけで購入したわけではない事を伝えておく。


 もちろん見た目も重要だ。俺は形から入るタイプだからな。


「このムギクイムシを罠に使うのは教えてもらったんですけど、獲物は何ですか?」


「ん〜…。あ、ちょうど良いじゃん。ルナの因縁の相手だよ」


「も、もしかして」


「うん、グリフォン」


『ワシ頭キタ〜!!』

『リベンジチャンスですぜ、ルナ嬢』

『今度こそボッコボコしてやりましょう』


「釣り餌でおびき寄せて戦闘に持ち込むんですね。手伝いますよ」


「いや戦闘はしないよ。何のための罠なのさ」


「じゃあどうやって仕留めるんですか?」


 不思議そうに聞いてくるので、簡単にいつも実行している計画を説明する。


 特に複雑な事はなく、神経毒と睡眠薬を混ぜ込んだムギクイムシの山を所定の場所に放置しておき、それを食べた毒状態のグリフォンをデッドスピアで確殺まで持っていくというものだ。


「もちろんナイフにも毒を塗るよ」


「なんか、えぇ…」


 煮え切らない表情のルナからは、真正面からグリフォンに勝ちたかったというのが分かりやすすぎるほどに伝わってきた。


「でも、グリフォンって虫を食べるんですか?」


「グリフォンは雑食だからな。肉も食べるし木の実も食べる。そしてこのムギクイムシはグリフォンにとってのフライドポテトだ!」


「フライドポテト?」


「そう。ポテトが食べても良い状態で置かれてたらつまんじゃうだろ? それと一緒」


「いっ、しょ…?」


『困惑してるルナ嬢かわいい(ハート)』

『やってることエグいけど、成功するなら危険度は低い、のか…?』

『毒を作れるってところに闇医者ポイントを感じる』

『薬と毒は紙一重やからな』


「百聞は一見にしかずってやつだ。これから一緒にグリフォン毒殺しに行こうぜ」


「……まあワシ頭がくたばる姿を拝めるなら行きます」


「ちょっと怖いんだが?」



************



 場所を移動してルナと初めて会った思い出深いエリア、不道の森林。空はすっかり暗くなり、星明かりだけが地面を照らしている。


 ロマンチックな雰囲気にも思えるが、夜のサバイバルエリアはモンスターが活発化しており、周囲からは気味の悪い鳴き声が聞こえてくる。


 以前ルナがイレギュラーに遭遇した場所へ、毒を混ぜ込んだムギクイムシの釣り餌を設置し、待つ事数分が経っていた。


 グリフォンが来るまでバレるわけにもいかないので、隠密スキルを使い、喋ることもなくただ待っているだけの時間だ。


 ルナの顔をチラリと伺うと、何とも言えない表情で釣り餌を見つめていた。よくよく考えて配信として終わってるか、この状況。


「……」


「……」


 気まずっ!?


 早くグリフォンさん来てくれぇ!!


「あっ、来ました」


「まっ……、マジ?」


 大きな声が出そうになったが、冷静さを取り戻し、空から飛来してくる巨体に目を移す。


 以前ルナが襲われていたグリフォンに比べると、少し小さい気もするが、それでもグリフォンには変わりない。


 ルナも小声で悪態を吐きまくっており、臨戦態勢はバッチリのようだ。


「あのワシ頭、絶対殺す」


「……まあ、落ち着けって」


『ルナ嬢ブチギレやんwww』

『リベンジマッチ(毒殺)』

『釣り餌効果で来たって考えると、モンスターは人工的に呼び出せるって事?』

『果たして釣り餌を食べるのか』


 グリフォンは開けた地面に降り立つと、釣り餌に気づいたのか、辺りを見渡したかと思えば、ムギクイムシをすぐさま貪り始めた。


「食べた…!」


「じゃあ場所移動するわ」


『食べた!』

『毒殺! 毒殺!』

『苦痛に歪むワシ頭が見ものだゼェ…』

『なんか可哀想になってきたわ…笑』


 食べた直後には何の異変もなかったが、しばらくして、神経毒の効果でグリフォンが痙攣を始め、翼を動かそうとするも上手くいかない。


 その後に対モンスター用に改良した睡眠薬の効果で瞼が重くなり、意識が朦朧としているのか、四本ある脚がバランスを崩して倒れ込んでしまう。


 そこへ、強制クリティカルを発生させるスキル、デッドスピアを瞼に叩き込む。眼球からそのまま奥にナイフは突き進んだ。


 完全な意識外からの強襲に不意を突かれたグリフォンは、そのままHPが吹き飛び、生き絶えてしまった。


「これがハンターの狩りだ、ルナ」


「……あなたは医者じゃないんですか??」


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