第7話 俺やっぱ緑とかで良い!
「もうそろそろか……」
俺は連行され、衛兵NPCの詰所にある簡易的な留置所に入れられた。
罰として施行されたのは30分の拘束。一番短い拘束時間ではあったが、その分減刑となるクエストは受けられず、何もする事なく30分ぼーっとしていた。
この拘束時間中にもログアウトすることはもちろん可能だが、ログアウト時は拘束時間が停止するので、セーフゾーンでは罪を犯さないようにしようなっ! お兄さんとの約束だぞっ!
「よし、時間だ。もう来るなよ」
「へい! お世話になりやした!」
衛兵NPCの世話になるのは、実のところ三回目で、一回目は街中煙幕多投事件の時、二回目はドワーフ轢き逃げ事件の時。今回は少女怒鳴りつけ事件とでも呼ぼうか…。
注意すべきなのは、衛兵NPCに捕まる頻度だ。罪を犯し罰を受ける頻度が高く、さらにプラスして罪が重いと、罪人として指名手配されてしまう。
俺がドワーフを轢いて捕まったのが一ヶ月前だし、多分指名手配はされてないはず。衛兵NPCたちの対応もなんか優しいし。
「あは〜、シャバの空気は最高だぜ〜」
毎回刑期明けの囚人ロールプレイするけど、結構楽しいんだよな。この後は酒場に行ってキンッキンに冷えたジュースを……。
「あ、ヨルさん!」
詰所から出ると、少し離れた所にルナが立っていた。彼女は俺を見つけると、走ってこちら側に向かってくる。
「お勤めご苦労様です。えっと、そうだ! 30万ゴールドのことなんですけど、ヨルさんにお渡ししますよ! それで、今回の件は––」
「––満足か?」
「へ?」
「満足か? 俺が捕まって、嬉しかったろ」
「そ、そんなことは…」
「治療してあげたのにな。そのお礼ってやつか?」
「……」
「……なんか言うことあるな?」
「すみませんでした…」
「それだけか?」
「ヨルさんの言うことなんでも聞くので許してください!」
「おい待て、そこまでいかなくていい! また捕まっちまうだろ! あっ衛兵さん、違う、大丈夫です!」
ルナの腕を掴んでさっさと詰所から離脱する。このガキはなんでこうも俺に効くようなことするかなぁ!?
************
「それで何をすれば良いんですか?」
「ん、虫取り」
「あの網と虫籠、本当に使うつもりだったんですね……」
一人で虫取りするよりも二人の方が断然早く虫が集まる。ルナという若い労働力も手に入った事だし早速……。
「そういや没収されてたわ、俺の虫取り網と虫籠」
「え」
「ルナのせいで」
「うっ、私が買いますよ……」
よし。
まあそんな大した額でもない。俺がスタットの店で買った時は虫取り網は1000ゴールド、虫籠に関しては600ゴールドだったからな。二人分で3000強か。
「まあルナには端金だろ」
サリアの街の雑貨店に入り、店内を物色すると、リアルの百均スーパーを連想させた。もちろん売っているものはRSFの世界観に沿ったものだが、色味というか雰囲気というか、絶対に参考にしてる。
「あ、ヨルさんありましたよ。何色が良いですか?」
「え、じゃあ一番売れ残ってるやつ」
「なんでですか、人気のやつにすれば良いのに…」
「人気のやつは皆んなが持ってるって事だろ? 不人気なやつは唯一性って言うの? アイデンティティになりやすい」
「うわぁ、いますよねそうゆう人。一番の不人気は、これですね。ショッキングピンク」
「しょっきん、なに?」
ルナに手渡された虫取り網を見ると、それはギラギラと光る蛍光ピンク色をしていた。
「リスタートファンタジーさん!?」
これはRSFの世界観に合っているのでしょうか!?
「じゃあ私は青色にしよっと。あとは虫籠も買ってきますね!」
「待って、俺やっぱ緑とかで良い!」
俺の叫びは虚しく店内に響き渡った。
そして店を出る頃には、手元にショッキングなピンク色の虫取り網と、安っぽい虫かごを首から下げた変な人が出来上がってしまった。
「……あの、隣立たないでもらって良いですか?」
「うるせえ行くぞ!」
虫取りに行こうとしただけなのに、なんだかすごい疲れた…。
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