第5話 これもまた運命
「ごゆっくりどうぞ〜」
ロッカーのカードキーとタオルを手渡し、ホッと一息つく。
ロビーにはお風呂上がりの客が座っていたり、受付をするために券売機に並んでいたりといろんな人がいる。
スーパー銭湯でバイトを始めてはや10ヶ月。今では慣れたものだ。
時刻は22時手前。あと1時間半で17時から始まったバイトが終わる。隣に目を向けると、二つ年下の後輩が眠そうに目を擦っていた。
「ミツキちゃん眠い?」
「はい、昨日も夜更かししちゃって…」
現在高校2年生のミツキちゃんは、あくびをしながらそう言う。ミツキちゃんは最近入った新人さんで、俺が教育係という体になっている。まだバイト始めて一年も経ってないのにだ。
「ゲーム?」
「はい…」
彼女は恥ずかしそうに頷いた。聞くところによると、趣味がゲームらしく、最近ではRSFもプレイしているらしい。もしかしたらすれ違っているかもしれないとか考えると、それはそれで面白かったりする。
「休憩上がりました〜。ミツキちゃんお疲れ様〜」
「あ、お疲れさまです!」
「うい、お疲れ〜」
22時になり、高校生のミツキちゃんは裏へとはけて行く。社員さんと二人、フロントに立ちながら、ゆったりとバイトが終わる時間まで職務を全うするのであった。
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「じゃあヨル君もお疲れ様〜」
「お疲れさまです」
締め作業を済ませ、帰路に着く頃には日付を跨いでしまっていた。3月の上旬と言えどまだまだ春の気温には程遠い。
「明日バイト無いし、RSFやるか? それともぐっすり寝て午前からやるか…」
まあ寝るか、ふつーに。
************
「相変わらず人が多いなぁ」
春休みで曜日感覚がバグっていたが、カレンダーを確認すると、どうやら今日は土曜日らしい。そりゃ人が多いわ。
スタットの街を見渡すと、装備的に新規、もしくはカジュアル勢が多い中、攻略組らしき人もちらほら目に映る。
「なんで今さら
首を傾げて頭にハテナを浮かべていたら、肩を突かれ、声をかけられた。道にでも迷ったのだろうか。
「あのー…?」
「はい」
「フクロウさん、です––」
「––あっ! あそこにモンスターが!」
食い気味に適当なとこを指差し、話しかけてきたプレイヤーが俺から目を離した隙に、煙幕を下に投げつける。
セーフゾーン内での戦闘スキルの使用や、武器の使用は制限されているが、煙幕は武器とカウントされないため、街中でも堂々と使える。
実験で何十回も投げつけていたら、街の衛兵NPCに叱られた事があるが、何事も限度というものがあるという良い教えになった。
そんなこんなでその場を離脱。完全に自分が晒されていた事を忘れてた。フクロウの仮面に黒い白衣はまあ俺しかいないよなぁ。
仮面を脱ぎ、黒い白衣をインベントリに入れ、ただの白衣を身につける。これで一先ずは街中で自分がフクロウだと言うことはバレないはずだ。
「今日も闇医者ムーブかましても良いけど、晒されたばっかだし薬の素材集めしようか」
今日の目標を決定し、転移するか考える。一応始まりの草原にも罠は仕掛けているし、薬草も取れる。
ただ今日は人も多いし、第三の街サリア辺りで素材採取といこうかな。
転移先をサリアに指定し、すぐに移動を開始する。転移にもインターバルが存在するが、特に忘れ物も無いし、移動時間の短縮を優先しよう。
転移したサリアは、大きな畑に囲まれた農業都市で、名産の小麦が使われた食材を売りにした露店や飲食店で賑わう街だ。
俺の狙いはそんな小麦を食べにやってくる虫型のモンスター群だ。乾燥させてすり潰した物は薬の材料にもなるし、生かしたまま罠の餌にも活用できる。
虫取り網と虫籠を持ってると、小さい頃の夏休みを思い出す。コスケと一緒に山に虫を取りに行って遊んでいたっけか。
「麦わら帽子とかあればさらに完璧なんだけどなぁ〜」
「え、今の声って……」
聞き覚えのある可愛らしい声がしたので、横を向いてみると、そこには闇医者ムーブ初の被害者ルナが立っていた。
「げっ、ルナ!?」
配信マークが出ていないので完全に油断していた。転移のインターバルはまだまだ先だし、煙幕の準備を急ぐ。
「はっ…!?」
煙幕を取り出そうとした腕を掴まれ、ルナの顔に目を向ける。そらはそれは満面の笑みだった。
「また会いましたね、
これもまた、運命だとでも言うのですか、神よ……。
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