第2話 医者のフクロウです




 どうしてこうなったんだっけなぁ。


『よく頑張ったよ』

『マジで理不尽スポーンだった』

『負けルナー!!』

『そもそもソロなのが悪いだろ』


 配信のコメントを見ながら、イレギュラーが発生した瞬間を思い出す。はっきり言って運がなかったの一言だ。


 素材の採取モーションに入った瞬間にグリフォンが出現。そのままお腹に一撃もらって、その時点で瀕死だったのに、あそこまでワシ頭のHP削ったんだから頑張ったほうでしょ。


「ちょっとは褒めなさいよっ!」


『頑張った!』

『お疲れ様です笑』

『デスペナ痛いよ……』

『次の配信はロスト分取り戻す配信かなwww』


 配信を始めたのはRSFをプレイするようになってから。声が良いと褒められたからっていうのが一番の理由で始めたけど、今ではリスナーの皆んなとワイワイするのが楽しくて最高の趣味って感じ。


「……なのにあのワシ頭ぁ! 初めてのデスペナ怖いんだが!?」


『草』

『いい声なのに口が悪いのよwww』

『それがルナちゃんの良い所(ハート)』

『てかルナ嬢一回も死んだことないのすげえな』


「3000人が見てるのに死に様晒すとかマジで嫌なんだけど」


 自分で言うのもなんだけど、ここ最近私のチャンネルの伸び方は凄い。顔出しこそしてないものの、声と口調のギャップや攻略組としての配信内容で多くの登録者を集めた。配信を始めて2ヶ月で5万人越えは個人的に快挙だと思ってる。


 グリフォンは警戒してるのか私をなめ腐ってるのか、一定の距離を取ってじっとこっちを見つめてくる。どうせこのまま何もされずとも、出血判定で十数秒後には死亡するだけだからどっちにしろだけど……。


『瀕死のルナちゃんなんかそそるわ……』

『キモい奴もいます。』

『まあ実際珍しいからねw』

『てかワシ頭全然トドメさしに来ないのなに?』


「時間経過で死ぬのわかってるっぽい? ムカつくわね」


 最後にリスナーとわちゃわちゃしてる時だった。グリフォンの真上から黒い何かが落ちてきたと思ったら、残り半分弱あったHPが一気にゼロになり、そのままグリフォンが消滅。イレギュラーアラートも止まった。


「いやぁ大丈夫ですかそこの探索者さん!」


『救世主きたぁ!』

『えぇ!!??』

『キャラデザ凝ってる。って誰ぇ!?』

『個性強そうだな…www』



*********


「とうっ…!」


 隠密スキルを使用しつつ、木に登り、グリフォンの頭上にダイブする。


 診察スキルを使ったときに見つけた弱点めがけて、メスを模した短剣を突き刺した。その際に暗殺アサシンのスキルセットで手に入れた俺唯一と言っていいほどの戦闘スキル【デッドスピア】を使う。


 デッドスピアはダメージを与えた時、不意打ち判定だった場合に、致命の一撃クリティカルヒットになるというものだ。クリティカルヒットの仕様がなかなか壊れており、当たりどころによっては一撃でHPを吹き飛ばすこともある。


 こうしてグリフォンは俺の姿を捉えるまでもなく絶命し、消滅のエフェクトで包まれていった。イレギュラーアラートが鳴り止んだこともグリフォン討伐の証明になるだろ。


 さて、ここからが本番だ。俺の目的である闇医者ムーブ、その全てをぶつけさせてもらうぜ!


「いやぁ大丈夫ですかそこの探索者さん!」


 探索者とは、このゲーム内で用いられるプレイヤーの俗称だ。街のNPCなどのゲーム内キャラクターは俺たちプレイヤーの事を探索者と呼ぶ。


「えっと、どちら様、ですか…?」


 声的に女の子か。このゲーム、キャラデザは選択肢無限大なんだけど、声に関しては丸々本人のものになるんだよなぁ。まあネカマがどうのこうの言われる心配ないって考えると良いのか?


 彼女の装備は一言で言うなれば「姫騎士」と言ったところだろう。女の子らしい可愛さも取り入れつつ、騎士風の装備を身につけている。見た感じステータスをバランス良く振って攻守に優れたビルドにしてるっぽい。


「僕は医者のフクロウです」


「い、医者? えっと、私今死にそうで、回復薬とかで応急処置だけしてもらえれば…」


「なるほど、僕に任せてください! 治療しますねぇ!」


「え、えぇ!?」


 驚く彼女を無視しつつ、診察スキルを大袈裟に展開する。不要なエフェクトを撒き散らし、自分はさも大変で凄い事をしてますよ〜ってアピールするのがポイントだ。


「診察スキル! どうやって手に入れたんですか?」


「うーん、答えを言うのは面白くないのでヒントをお教えしますね」


 彼女の怪我の具合を確かめながら、会話を繋げていく。ここで言葉に詰まるようでは雰囲気が台無しだ。


「街の病院でお手伝いクエストを数回繰り返せば手に入ります。おっと、僕に言えるのはここまでかな…」


「全部言っちゃってますよ!?」


 あはっ、良い反応してくれる〜。ここで冷たい反応されると悲しくなっちゃうからありがたい。


「診察終わりました、腹部に重大な裂傷。他にも打撲が数ヶ所ですね」


「は、はい。ですのですぐにアヴェロアの病院に……」


 セーフゾーンには一定額を払う事でHPの回復と傷の治療を行なってくれる機関が存在しており、治療系スキルを獲得する際にはとてもお世話になった。


「いえ、事は急を要します。今から治療しますね」


「出来るんですか!?」


「僕は医者のフクロウですよ? 大丈夫、安心してください。診察代の方は無料タダにしますよ」


「ありがとうございます、助かりました。……ん、?」


 俺は彼女の言葉を無視してスキルを展開し、さっさと治療を始める準備をする。


「ちょっと待ってください、この感じ治療費かかりますよね!?」


「……」


「フクロウさん!?」


 何かを察したようだが、彼女が動けない事を良いことに無視し、治療を開始する。


「治療費どうしよっかなぁ〜」


「最悪だよもう!!」

 








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