第24試愛 優Side ラウンド2


 真緒が私に伝えたい事って一体何だろう? ……まさか私に告白するとか?

 いやいやいやッ!? 無い無いッ!? そんなワケ無いッ!! だって真緒はあの時、言っていたじゃ無いか。私の事は友達として大好きだと。


 だから。私に対して恋愛感情を持っている筈が無いじゃ無いか。うん。そうだよ。

 なら何を伝えたいんだ? ……あぁ、もしかして。私の過去を聞いて、やっぱり私の事が嫌いになったのかな? あの場ではそんな事は無いって言っていたけど。


 あれから時間が少し経っているし。考え直したのかな? やっぱり優とは友達で居られないって。絶交を突き付けるのが、真緒が伝えたい事なのかな?


 きっと。そうだよね。こんな穢れた私の事なんて。絶対に嫌だよね。前も後ろも使われた私なんて。嫌に決まっているよね。ごめんね真緒。こんな穢れた私で。


 でもね真緒。私はアンタの事が好きで好きで堪らないんだ。大好きなんだ。今すぐにでもこの気持ちを伝えたいほどに。でも。この気持ちは伝えられない。いや。もう伝えちゃいけないんだ。だって。真緒は私の事を嫌いになっているだろうから。


 こんな穢れた私なんて。嫌だろうから。だからこの気持ちはもう。


 ……ホントに? 私はホントにそう思うの? 


 それは……。


 違うでしょ? 私は真緒の事が好きで好きで堪らないんでしょ? だったら。


 でもッ!! 真緒は私の事を嫌いかも知れないんだよッ!! こんな気持ちを伝えたらもっと嫌われちゃうじゃんッ!! そんなの嫌だよッ!!


 私だって嫌だよッ!! ……でもね? この気持ちを真緒に伝えられない方がもっと嫌なんだッ!!


 ッ!?


 だって私は。勇者である私は。魔王にこの気持ちを伝えられなかったから。伝えられない苦しみは痛いほどわかっているから。それこそ死んじゃうぐらいのね?


 ……そんな事言ったって。私には……。


 無理? 自分の気持ちを伝えられない?


 ……うん。


 ……はぁ。しょうがないにゃ~。どれ。この私が力を貸してあげようッ!!


 え?


 だって私は勇者だからね? 名前の通り、勇気を持つ者だからね? まぁ、魔王に告白する勇気だけは無かったけどね?


 いや。無いんかい。


 にゃははっ! ……うん。そうだよ。私にも告白する勇気は無かった。でもね?

 たとえ一人では無理でも、二人なら出来る事があるように。


 あるように?


 私が無理でも勇者わたしと一緒なら、真緒に告白出来るかも知れないって事だよ。


 それは……。


 どうかな? 真緒に気持ち。伝えられそ?


 いや……うん。伝えられると……思う。


 にししッ! そかそか。いや~良かった良かったッ! これで私も成仏出来るよ。


 成仏て。今の魂は私のものなんだけど……。


 にゃははッ! そうだったね。……ま、そう言う事だから。告白頑張ってね?


 うん。頑張るよ。


 じゃあ。改めて。


 うん。改めて。


 よろしく私。


 よろしく勇者わたし





 ***





 そして遂にやって来た夏祭り当日。私と真緒は夏祭り会場に行く前に、浴衣のレンタルをやっている呉服屋に来ていた。真緒が浴衣で夏祭りに行こうと言ったからだ。


 浴衣を着るのはこれが初めてだ。大丈夫かな? 私に似合うかな? だって私にはイギリス人の血が流れているから。彫りの深い顔立ちだから。金髪だから。似合うかどうか心配だった。


 だけど。お店の店員に着付けて貰った浴衣姿の私は。姿見に映っていた私は。可愛かった。よく似合っていた。幾つもの小さな撫子の柄が白い浴衣に映えている。

 金髪も違和感なく浴衣に馴染んでいた。


 彫りの深い顔も寧ろ、浴衣のお陰でいつもより魅力的に感じる。良かった。私でも浴衣って似合うんだ。ふふっ。真緒が見たらどんな反応をするのか楽しみだな。


 それに真緒はどんな浴衣を着て来るんだろう――。


「――優」

「――真緒」


 私達はお互いの名前を呼んだきり、動きを止めてしまう。真緒も私に見惚れてるのかな? 勿論、私は真緒に見惚れている。


 真緒は、大柄の白百合が映える黒い浴衣を着ていた。髪はアップに纏め、簪で留めてある。前の水着の時より露出が減っているのに、何故かこっちの方が何倍も色っぽかった。ドクンと心臓が高鳴る。真緒への好きという気持ちが増える。


 ねぇ? 真緒はどうなの? 私でドキドキしてる? 私の事好き? 好きだと良いなぁ。私、真緒に嫌われたく無いよ。でも。もう決めたから。たとえ嫌われていたとしても。たとえ嫌われるとしても。真緒に告白するって。決めたから。


 だから。もう少しだけ待っていてね? 夏祭りの最後の花火が打ち上がるその時まで。そしたら私は。堕ちるから。真緒に堕ちたって伝えるから。


 でもその前に。真緒が私に伝えたいことを聞かないと。それが何であれ。受け入れて、自分の気持ちを伝える。そう。決めたから。


「……チュッ」

「……へ?」


 なんて。決意を再確認していたら。いきなり真緒が私の唇にキスしてきた。


「な、んで?」


 キスしたの? 真緒は私の事が嫌いになったんじゃないの? もしかして違うの?


「なんでキスしたかって? そんなの決まっているでしょう? 優が可愛いからよ」

「え?」


 私が可愛い? ホントにそう思っているの? 嘘じゃない?


「えぇ。嘘じゃ無いわ。浴衣姿の優、とっても可愛いわよ? 食べちゃいたいぐらいにね?」

「たべッ!? そ、それって……」


 一体どういう意味なの? もしかしてその……。


「? どうしたのそんなに顔を赤くして? あ。もしかしてさっきの言葉で想像しちゃったのかしら? わたしとのセッ――」

「――なワケ無いでしょッ!? あ、アンタとなんか別にそんな事ッ!? し、したく無いわよッ!!」


 嘘だ。ホントは真緒とそう言うのをしたいと思っている。好きな人とそう言うのをしたいと思っている。でも。私の身体は既に穢れてしまっていた。だから真緒とはそう言うのはしたくても出来ない。いや。しちゃいけないんだ。


 もしもしちゃったら。真緒を穢してしまうから。真緒の綺麗な身体を汚してしまうから。私にはもう。出来ないんだ。


 あれ? ならキスは? キスは穢れないの? ……そんなことは無い。だって私の口は。アイツらのモノを。


「……ウッ!」

「優ッ!? 大丈夫ッ!?」


 私は思わず蹲って口元を抑えた。吐き気が込み上げてくる。それを必死に抑えた。

 口内に上がって来た吐き気を飲み込む。気付いてしまった。私はもう既に真緒を穢していた事に。真緒の綺麗な身体を汚していた事に。


 なんでもっと早く気付かなかったッ!? キスが大丈夫な筈が無いのにッ!? 私は真緒に恋をしていて忘れていた。真緒とキスしたくて、知らない振りをしていた。

 だって。忘れなきゃ真緒とキス出来ないから。私は穢れているから。


 最低だ。自分の過去から目を背けて。自分の欲望の為に真緒とキスをしていたなんて。そんなの、私を犯したアイツらと同じじゃ無いかッ!!


 最悪だ。私が最も嫌いなアイツらと同じだったなんて。もうとっくに私の心は壊れていて腐っていたんだ。あの時から。


 だったらもう。この気持ちも真緒には伝えられない。だって。私の心は腐っているから。ウジ虫が這いまわって、ハエがたかっているから。そんな腐った恋心なんて。

 真緒に伝えられるはずが無かった。ごめん。勇者。私、如何やら駄目みたい。


「ごめんね。真緒……」

「優?」


 私は立ち上がり、真緒の黒い瞳を覗き込んだ。そこに映っている私の顔は。ゾンビの様に腐っている。当然だ。心が腐っているんだから。こんな顔。真緒に見せたくは無い。だから。


「ごめんッ!!」

「優ッ!?」


 真緒に背中を向け、呉服屋の中に戻っていく。そして浴衣を乱暴に脱ぎ捨てて元の服に着替えた。慌てて追い掛けて来た真緒に肩を掴まれるが、それを乱暴に振り払って逃げる。


「優ッ!! 待ってッ!!」

「いやッ!! 私に触らないでッ!!」

「ッ!?」


 ホント。ごめんね? せっかく一緒に夏祭りに行こうって誘ってくれたのに。こんな事になっちゃって。後。真緒が伝えたかった事を聞けなくてごめんね?


 それに。勇者。真緒に告白出来なくてごめんね? 力を貸してくれたのにこんな事になっちゃってさ。


 ホント。


 穢れた醜い私でごめんなさい。

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