第23試愛 真緒Side ラウンド1
まさか優にあんな壮絶な過去があったなんて。思いもしてなかったわ。言葉にするのも憚れるような出来事だった。それを優は。淡々と何でもない事のように話していた。それがわたしには辛かった。でも。
優はわたしにその事を打ち明けてくれたんだ。誰にも言えない事を。このわたしに。その事に関しては嬉しかった。それだけ、わたしを信頼してくれているって事だから。だから。わたしは優の話をしっかりと、一言一句聞き逃さない様に聴いた。
掌に爪が食い込むほど、強く強く拳を握り締めるぐらいの胸糞悪い話だったわ。
そして話を終えた優は。わたしの目を見て笑ったのだ。私の事を軽蔑したでしょ?
穢れていると思ったでしょ? と。その笑顔は痛いぐらいの嘘くさい笑顔だった。
わたしはそれに何故か、嘘で答えてはいけないと思ったわ。だって。優の笑顔が。
優の瞳が。それを許さないと言っている様に感じたから。だから。わたしは正直に答えた。軽蔑したと。穢れていると思ったと。
その答えを聞いた優は。驚いたような、それでいて嬉しいような。だけど何処か不安そうな。幼い子供みたいな表情をしていた。わたしはその顔を見て、こう思った。
たとえわたしが優を軽蔑したとしても。たとえ優が穢れていたとしても。わたしには優しか居ないから。優しかわたしを対等に扱ってくれないから。だから。優がどんな過去を持っていようが関係ない。わたしは優が好きだから。
気付けばわたしの口が勝手に言葉を紡いでいた。優・シャルロッテ・聖護院の事が大好きだと。それを聞いた優はポカンと間抜けな顔をしていた。
慌てて、わたしは大変な事を言ってしまった事に気付く。そう。これじゃあまるで。優に告白しているみたいじゃ無いかと。
マズイッ!? このままじゃ優とわたしの関係が壊れてしまうッ!? そ、そうだこれは友達としての好きなんだと。必死に言い訳をしたわ。
お陰で何とか、わたし達の関係は今もこうして続いている。
つまりは友達のまま、仲が進展していないという事だ。優の過去の話を聞いてからは、一段と優への好きの気持ちが増したと言うのに。わたし達の仲は相も変わらず友達のままだ。きっと優には、傍にいてくれる人が必要だと思う。
あんな壮絶な過去を持っているのだ。優の心はきっと傷付いたままの筈。その傷を癒してくれる人が優には必要なのに。なのにわたしじゃあ、その役目は務まらないの? こんなに優の事が好きなのに。こんなに優の事を思っているのに。
隣に居させてくれないの? 優? 優は何でわたしに堕ちてくれないの? わたしはもうとっくに堕ちているって言うのに。ねぇ? どうしてなのよ? 優。
優に恋心が芽生え始めているって思っていたのに。あれはわたしの勘違いなの?
優はわたしの事を友達としてしか見てくれないの? わたしはこんなにも優の事が好きなのに。好きで好きでおかしくなりそうだって言うのに。
どうしてなのよ? わたしは如何したら良いのよ。……優。
やっぱりもう。優にこの気持ちを伝えるしかないのかしら? わたしはあなたの事が出会った時からずっと好きでした。だから付き合って下さいって。言うしかないのかしら? でも優が告白を断ったら? そう考えると。とてもじゃ無いが告白は出来なかった。
じゃあ。一体どうすれば。わたしの気持ちは。この好きは。この想いはッ!!
あぁクソッ!! こんなことで悩んでいるんじゃ無いわよッ!! わたしの前世は魔王なのよ? こんな事で……。いや、こんな事だからこそか?
だって魔王は。勇者に自分の想いを伝えられずに死んだのだ。勇者への恋心を未練に死んだのだ。そしてその未練は。今のわたしの好きに繋がっている。
魔王が一生を賭けても伝えられなかったこの想いを。高々十六年しか生きていないわたしに。この想いを勇者の前世を持つ優に伝えられるのか? いいえ。そんな事出来る筈は無いわね。
なら。一体どうすれば良いんだ。どうすればこの気持ちを伝えられる?
……そうか。一人では無理でも。わたしと魔王、二人の想いを合わせれば。この想いを
地獄から見ていろなんて言った手前。こんな事を頼むのは虫唾が良いと言うのは分かっているわ。でも。わたしは優が好きなの。あなたも勇者が好きなのでしょう?
好きで好きで堪らないのでしょう?
……そうね。わたしは勇者が好きよ。
そう。だったら、わたしに告白する勇気を分けて頂戴。魔王。
ふーん? このわたしと同盟を結びたいと? そう言うのかしら?
えぇそうよ。わたし達で同盟を組みましょう。
どうかしら魔王?
フフッ。良いのかしら? わたしがあなたを乗っ取ってしまうかも知れないわよ?
望むところよ。出来るものならね?
フフッ。そう。なら遠慮はしないわよ? わたしの力、存分に使いなさい。
……そう。ありがとう。協力してくれて。その言葉が聞けて良かったわ。じゃあ改めて。これからよろしくね?
えぇ。こちらこそよろしくね? わ・た・し。
で。優に告白する決行日なのだけれども。夏休み最後の日、八月三十一日。夏祭りの日で良いかしら? 告白するタイミングは――。
***
「だぁーーッ!! またクエスト失敗だよぉ」
「そうね」
「真緒さ。いい加減そのキ〇ン装備やめなよ。火耐性低いでしょ? そんなんじゃあミラボ〇アス倒せないじゃん」
「嫌よ。この装備は外せないわ」
「どうしてよ?」
「だってエロいんだもの。外せと言われる方が無理よ。それにあとちょっとで倒せそうだったじゃない」
「いやまぁそうだけどさぁ。それさっきも言ってなかったっけ?」
などと、わいのわいの言い合いながら。わたしと優はゲームをしていた。勿論、モンスターをハントする奴である。それも結構古い奴。セカンドなジーだった。
ふと優の部屋に飾ってあったジグソーパズルに目が止まる。それはわたしが優の誕生日に贈った奴だ。完成した絵は、クラゲ達が夜空に漂っている幻想的な絵だった。
わたしも。あんなクラゲみたいに、自由に生きたかったわね。
そうしたら、この想いを優にもっと早く伝えられたのかしら? いやでも。クラゲには脳が無いのよね。だったら優へ恋心を抱く事すら無い。それに。心臓もクラゲには無いから、好きな人にドキドキする事も無い。
うーん? やっぱりクラゲみたいには生きたく無いわね。わたしはわたしのままが一番良いわ。それに魔王と同盟を組んだわたしには。もう。告白する事への恐怖が無かった。この気持ちを伝えれればそれで良かった。
たとえ断られたとしても。優との関係が壊れたとしても。わたしには魔王が居るから。フラれた者同士、傷の舐め合いをしながら一人でも生きて行けるから。
もう。怖くは無かった。あと。優が自分の過去を話してくれたんだ。だったら。わたしもこの自分の想いを伝えるのが、フェアというものよね?
「優」
「ん? なに? いま戦ってんだから話し掛けんな」
「今度の夏祭り。一緒に行きましょう」
「は? 今その話する? ちょっと真緒ッ!! なに死んでんのよッ!! 今突っ立ってただけだったでしょッ!!」
「優」
わたしは自分の黒いゲーム機をテーブルに置き。優の白いゲーム機をサッと取り上げた。
「ちょッ!? なにすんのよッ!? 返しなさいよッ!?」
「返さないわ」
優の白いゲーム機をベッドに放り投げる。
「あぁッ!? もっと大事にしてよッ!? 壊れたらどうすんのよッ!?」
「そんなのどうでも良いじゃない」
「いや良くないしッ!?」
わたしは優に近付いて、押し倒す。
「きゃっ!? ちょっとッ!! なに……して……」
「優」
五月蝿い優の口にわたしはキスを堕とした。途端に静かになる優。その顔は仄かに紅潮し、わたしを見つめる青い瞳が海のように潤んでいた。
「今度の夏祭り。一緒に行きましょう?」
「……ぅん」
「二人で浴衣を着てね?」
「……ゆかた?」
「そう。浴衣よ」
「……ぅん」
「それでね優。わたし、その日にあなたへ伝えたいことがあるのよ」
「伝えたい……こと?」
「そう。だから楽しみにしてなさい」
「……ぅん」
「なら。ご褒美にディープキスをしてあげるわ」
「ッ!? ……ぅん」
そうしてわたしは優と舌を絡め合った。自然とわたし達の手が恋人繋ぎになる。それも両手がだ。あぁ、やっぱり。わたしは優の事が好きだ。大好きだ。
だからもうすぐ。あなたの元に堕ちるからね?
待っててね、優。
大好きだよ。
さぁ――堕とし愛ましょう?
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